~ユノ34歳~
「どうして怒らないんですかっ!
嫌いにならないんですかっ!」
ぼろぼろと涙をこぼして俺の胸を叩き、崩れ落ちるように顔を伏せってしまったチャンミン。
駄々っ子のようだった。
怒鳴って泣いて...こんなチャンミンの姿を初めてみた。
これまでのチャンミンは、無茶なお願いをする子ではなかった。
本来なら俺とチャンミンは親戚同士で男同士、こそこそと会う必要はないが、恋愛関係に陥ったとなると話は変わる。
不倫相手は妻の弟。
俺たちは自由に大っぴらに会ってはいけない関係。
会うのは週に一度、バイトのある日だけ、と暗黙のルールができあがった。
チャンミンは聞き分けよく、そのルールを守り続けた。
「週に1度じゃ足りない。もっと会いたい」なんて不満をひと言も漏らさなかった。
我慢していたんだろうな...可哀そうなことをした。
罪の意識も時が経つうちに麻痺してきて、互いの...特に俺の...立場はそのまま維持して、週に一度会い続ける関係を続けてゆけたら...狡くて都合のいい考えもあった。
ところが、そうも言っていられなくなってきた。
なぜなら、本気になってしまったから。
俺も会いたかった、週に一度なんて...全然、足りなかったのだ。
チャンミンに本気になっている俺にとって、この一件は衝撃が大き過ぎた。
うすうすとそうではないかと疑っていたことが、事実となってしまった。
・
背中を震わせまるめて泣いている。
俺はどうしたらいいんだ。
「訳わかんないよ!
義兄さんは...おかしいよ!」
怒鳴って叱りつければよかったのだろうか?
チャンミンにはこれっぽっちも怒りが湧いてこない自分。
腹がたたない俺は、頭がおかしいのだろうか。
叱りつけるって...何を叱りつければいいんだ?
俺という存在がいながら、他の男と...よりによってX氏と性交渉をもっていたことにか?
チャンミンがしてきたことは、社会的にも道徳的にも褒められたことじゃない。
随分軽はずみなことをしてくれた、と思う。
しかし、責められるべきは大人であるX氏の方であり、子供のチャンミンには無い。
俺も同罪なのだ。
俺には妻がいる。
妻Bを夫として抱いていながら、同時進行でチャンミンも抱いていた。
俺はチャンミンを責められない。
俺の方こそ...もしかしたらX氏以上に、チャンミンに酷いことをしているのだから。
俺もX氏と同じ穴の狢だ。
俺は子供に手を出している。
俺は妻がいる身でチャンミンと関係を持っている。
なんてことを続けてきたんだ、俺という人間は。
・
「義兄さんっ...!
今すぐ僕とヤッてくださいよ」
「......」
俺はためらっていた。
今、チャンミンを抱くべきなのだろう。
チャンミンは今、俺の気持ちを確かめたいのだ。
でも...。
チャンミンは、別の男と寝ていた。
1年も前から。
俺とチャンミンに、肉体関係を持ち始めた頃じゃないか。
...なんてことしてくれたんだよ。
チャンミンの身を案じて探し回った俺、X氏の余裕の表情、チャンミンの涙、疑惑が真実に変わってしまった衝撃。
自己嫌悪に浸っていたのが、これらの衝撃から冷静さを取り戻すにつれ、俺の心を襲ったのが嫉妬だった。
あの細い身体が、X氏の大きな身体に組み敷かれ、あの太い腕で上に下に横にと自在に操られる光景が浮かんだ。
例え意に沿わないセックスだったにせよ、刺激されれば反応してしまうのが男の身体。
X氏に攻められ、快感の表情を浮かべるチャンミン。
1年もの間。
俺と抱き合った後に、X氏に抱かれた日もあったに違いない。
まるで鋭利な刃物で胸を刺されたかのように、あまりの激痛に息が詰まる。
この傷口が塞がる時は訪れない、いつまでもじくじくと痛み続けるだろう。
チャンミンはX氏と会っていた...つい数時間前まで、彼はX氏の部屋にいた。
「...義兄さんっ...お願いです」
泣きわめいて興奮したせいで、チャンミンの頬が紅潮していた。
仰向けになった俺の上にまたがるチャンミン。
「...うっ...義兄さんっ...ごめんなさい」
俺の中に狂暴な何かが湧いた。
チャンミンの両頬を挟んで力づくで引き寄せ、唇を重ねた。
下唇を食んで吸うと、チャンミンは呻いた。
そういえば唇を怪我していたことを思い出した。
構わず俺はチャンミンの口をこじ開け、同時に伸ばした舌同士をからませた。
「...っ...ふっ...んっ...」
まだ多くの宿泊客が眠りについている時間帯、静寂の室内にちゅうちゅうと2つの舌が立てる水音が鮮明だ。
「...んんっ」
チャンミンの指が俺のそこを撫ぜた。
確かめたわけじゃないが、スウェットパンツの生地を押し上げ、くっきりと浮かんだそこを、チャンミンの指がなぞる。
「...んんっ」
竿をつかまれきつめにしごかれて、その度俺の腰は震える。
チャンミンのこの細い指が、X氏のものに触れていたのか。
むかぁっと身体が熱くなった。
スウェットパンツのウエストが引き落ろされて、俺のものが弾んで飛び出す。
チャンミンの愛撫を受ける前、キスの時点で股間が苦しくなっていた。
すかさずチャンミンはそれを頬張る。
かりの周囲をぐるりと舐め、とろりと唾液を垂らして塗り広げる。
根元をしごきながら、亀頭を吸い、舌先で尿道口をくすぐった後、頭を上下に振る。
「...ふっ...ううん...」
喉の奥から唸りが漏れる。
上目遣いのチャンミンと目が合う。
その眼は涙に潤んで、充血していた。
俺は天井を仰いで目をつむり、食いしばった歯の隙間から低い吐息。
破裂音を立てながら、必死に俺のものを奉仕するチャンミン。
腰の芯までぞくりと痺れた。
まぶたの裏で、閃光が発する。
「...習ったのか?」
「ぐっ...んぐっ...ちがっ...」
チャンミンの発言を封じるがごとく、腰を突き上げた。
チャンミンの後頭部を股間に押しつけ、えずくのも構わず腰を振る。
一瞬、我に返り、押さえつけていた手を除けた。
チャンミンは俺のものを咥えたまま、酸素を求めてあえいでいた。
勢いよく起き上がり、チャンミンの身体をひっくり返してうつ伏せに寝かした。
「あんなこと...絶対にもうしませんから...っあ...」
腰をつかんで、尻を突き出させる。
チャンミンの尻を割り、露わになったそこに、「ちう」と吸い付いた。
「...あんっ...」
チャンミンの甘いかすれ声に、いらっとした。
「義兄さっ...ダメっ!」
ぷくりと赤く熟れていた。
もう日付は変わってしまったが、一昨日の晩は激しく突き立ててしまったから、その名残か?
それとも、X氏との...?
切れて出血している様子はなく、ほっとした。
「痛いのか?」
「...ううん、痛くないっ...全然...平気っ...」
安心したそばから、チャンミンへの攻めを再開させた。
指1本分開いた口に、舌をねじこんだ。
ぎゅうぎゅうと締め付けられて、これ以上侵入できない。
舌と縁の隙間に指を差し込み、かぎ型に指を曲げた。
「...んあっ!!」
チャンミンの背中がびくびくっと痙攣した。
指の腹と曲げた関節でぐりぐりと刺激する。
同時に舌も躍らせる。
緩んだり締め付けたり、女のそこのようにうねっている。
チャンミンの喘ぎも、女のように甲高い。
17歳でこうも感じることができるものなのか。
ここはチャンミンの部屋で、そこを潤すものなど用意してきていない。
指を2本に増やした。
「あ、ああぁぁぁ」
チャンミンの腰がぶるっと震え、かすれた悲鳴をあげた。
「Xさんにも、こうされていたのか?」
「...されてないっ!
あの人...そこは舐めないっ...汚いからって...!」
その具体的な内容に、俺の体温はすっと下がり、直後に上昇した。
「さっきも抱かれていたのか?」
「......」
隠すように組んだ両腕の間に、顔面を埋めてしまった。
シーツを握りしめている。
俺は止められない。
優しくなんかできそうにない。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]