~ユノ34歳~
どれだけ腰をスライドさせようと、一向に絶頂は訪れない。
がむしゃらにチャンミンの中を、抜き刺しするだけの行為に成り下がっていた。
しんと静まり返った室内に、繋がる卑猥な音だけがうるさい。
途中から快感も逃げてしまった。
チャンミンの腸壁を出入りするぬめり感と、俺のものを締め付ける圧迫感だけ。
それなのに興奮は高まるばかりで、自身のものは猛々しいまま。
繋がり直す俺にされるまま、チャンミンは前に後ろに横にとひっくり返されている。
汗をしたたらせた全身を紅潮させて、「もっともっと」と俺を煽る。
欲を示す身体に反して、感情はしんと冷えてゆき、そのギャップが広がるごとに、射精のタイミングは遠のくのだ。
チャンミンを責められない、なんて威勢のいいことを思っていたのに...。
揺さぶりを受け止めて、あんあんと喘ぐチャンミンに、むらむらと嫉妬心が湧いてきた。
X氏相手にも、組み敷かれて身を反らせ、よだれを垂らして感じ入っていたんだろうと想像すると、その嫉妬の強さに喉がつまる。
男の身体は嘘をつけない。
子供のくせに前を刺激しなくても何度も達せる身体になったのは...X氏によって作られたのか?
例えば...。
四つん這いになったチャンミンのウエストを押しつけながら、真下に向けて浅突きしてやると...。
「ああああああ...っく...あああ」
半眼になって、パクパクと口を開ける。
腰掛けた俺の上でチャンミンには腰を振らせ、俺は睾丸の裏を親指でぐりっと押す。
すると、チャンミンの入り口はきゅっと締まるのだ。
抜き刺しする度に充血した縁が、俺のものに引きずられて顔を出す。
感じ入るチャンミンを目にして、俺の心はしんしんと冷えていく。
太いものを余裕で食らい込む、チャンミンのそこから目を反らす。
俺は堪えてる。
実は相当な大きなショックを受けているんだと、気付かされた。
X氏にいいように扱われて、1年以上耐え忍んで、傷ついているのはチャンミンの方なのに。
抱くより前に、チャンミンを労わって、「好きだ」を繰り返して安心させてやるべきなのに
年上の寛大さに欠けた、器の小ささに反吐が出るほど情けなかった。
所詮、俺はこの程度の男なんだ。
そんな負の感情が、自分自身を絶頂に導くことを邪魔していた。
チャンミンにしてみたら、俺に身を任せることで、彼なりの愛情を示そうとしていたんだろうに。
ごめん、チャンミン。
今の俺は、イケそうにない。
こんなセックスはすべきではない。
しまいには、もたれかかったチャンミンの背に涙を落としていた。
「なんてことをしてくれたんだ」と。
何度もこの言葉を、絞り出すようにつぶやいていた。
そう。
俺はチャンミンを責めていた。
ショックを受けて傷ついた自分を、17も年下のチャンミンにぶつけてしまったのだ。
情けない...。
まぶたの裏が熱い。
屈辱と怒り、焦りと悲しみ、嫉妬と恥...すべてが混ざり合った濃い涙だった。
・
「義兄さん...」
「......」
チャンミンの中で、俺のものが萎えていくのが分かる。
チャンミンの中から引き抜いた俺は、情けない顔を彼に見られたくなくて、背を向けた。
ベッドにチャンミンを残してシャワーを浴びにいくことはできない。
チャンミンは取り残されたと、不安がるだろうから。
横たわったまま、俺を見上げている。
潤んだ目をしている。
チャンミンが今、何を考えているのか分かり過ぎるほど、分かっていた。
愛想をつかされ、俺が離れていってしまうことを恐れている。
深呼吸をひとつついて、上半身を起こしかけたチャンミンを横たわらせた。
大人になれ。
渦巻いていた感情を閉じ込めようと、もう一度深呼吸をして気持ちを切り替えた。
チャンミンを膝枕してやり、彼の頭を撫ぜながら謝った。
「悪かった
乱暴にして、悪かった」
「...乱暴なんか、じゃない...です」
俺の膝の上で、チャンミンは首を振った。
「義兄さんは、僕が嫌にならないんですか?
僕のことを...汚いと思わないんですか?」
俺がチャンミンの立場だったら、出てきて当然の質問だった。
「思わないよ、全然」
X氏と関係をもっていたチャンミンの身体を、嫌悪する気持ちは全くなかった、不思議なことに。
軽蔑もない。
俺がチャンミンの立場だったら、どうだろうか...父親くらいに年上で、大きな身体の男...無理だ、拒めない。
軽い気持ちで始めたことだったんだろう。
自身の容姿でもって迫れば、迫られた者たちはその誘いを拒めないことを、チャンミンは知っている。
チャンミンにしてみたら、イヤになったら誘いを断れば済むんだと高をくくっていた。
ところがX氏にしてみたら、余程相性がよかったのか、容姿のよさも相まって手放せなくなったんだろう。
後先考えない子供らしい行動といえるし、自業自得の結果だ。
男同士の行為に興味を持って、手始めとして 経験とテクに長けた者としてX氏を選んだところまでは、理解できる。
ところが、1年前といったら俺たちが惹かれ合っていると意識しだした頃じゃないか。
なぜそんな時期に、チャンミンがX氏に近づいたんだろう。
寝乱れたシーツはシワだらけで、チャンミンが放ったものが乾きかけている。
「義兄さんは僕のことを、あまり好きじゃないんです。
僕がXさんとヤッていたって知ったのに、怒らないから。
あまり好きじゃないから、平気なんですよね?」
「平気なものか...。
第一、こんな程度じゃ俺は揺るがないよ」
「...そんなの嘘です」
「嘘じゃない」
一般的に、自分以外の者と関係を持つことは浮気にほかならない。
ところが今回のことは、「浮気」のひと言で済ませられないのだ。
X氏がやってきたことは犯罪行為だ。
既婚者の俺が、チャンミンを縛る資格はないし、高校生のチャンミンにはもっと自由な恋愛をすべきなのだ。
チャンミンへの愛情が薄れたわけじゃない。
これからも、同じくらいの熱量を持って大事にしてやりたい。
それなのになんだろう...このやりきれない気持ちと焦燥感は。
チャンミンと関係を持ち始めたばかりの頃に、俺に巣食っていた思い...彼との関係が深まるにつれて一度は薄れかけた思い...。
「このままじゃいけない」の自問自答が再燃してきた。
(つづく)