~ユノ34歳~
「昨夜のこと...覚えてるか?」
「ゆうべのこと...」
「チャンミンが大事だって。
安心して欲しい、って。
そう言っただろう?」
太ももに乗ったチャンミンの頭を見下ろした。
子供らしいラインを描いた頬はしっとりと吸い付く若い肌、耳朶の産毛、かいた汗で濡れた襟足の髪。
「俺はチャンミンを大事に思っている。
怒っているように見えるのは、チャンミンを怒っているんじゃないんだ。
当たり前だけど、チャンミンを酷い目に遭わせたX氏に怒っている。
それから...気付いてやれなかった自分に怒っている」
「義兄さんは悪くありません。
僕が馬鹿だっただけなんです」
「チャンミン、お願いがあるんだ」
「!」
俺の言葉に、チャンミンは勢いよく俺の膝から頭を起こした。
「お願いって...怖いことじゃないでしょうね?」
「チャンミン...お前のことだから、十分自分を責めてきたんだろう?
俺からのお願いはね、グズグズと自分を責めないこと」
「そんなっ...出来ませんよ」
膝を抱えて座ったチャンミンは、シーツにこびりついた自身の精液のシミを爪先でこすっている。
小さな子供が、いじけて地面にいたずら書きをするみたいな姿だった。
「Xさんとのことを気に病んだり、俺に嫌われるんじゃないかって怖がる必要はない。
俺は変わらず、チャンミンのことが大事だ。
チャンミンのために俺は何をしてやれるか、考えるからな」
「義兄さん...」
「それから!」
人差し指の背でチャンミンの顎に触れた。
「チャンミンは二度とX氏さんに会ったらいけない。
後のことは俺に任せるんだ」
膝頭に顎を乗せたチャンミンは、拗ねたように上目遣いで俺を見る。
「写真のことをXさんに問い詰めたり、親に言ったり警察に行ったり...そういうのはよしてください」
「しないよ。
コトは荒立てない」
チャンミンに言われずとも、そのいずれもが藪蛇になりかねない。
「おいで」
両腕を広げると、チャンミンは俺の胸に突進してきた。
「...義兄さん、ごめんなさい」
「もう謝るな。
チャンミンが今まで黙っていたのは、俺に嫌われるんじゃないか、って怖かったんだろう?」
俺の腕の中で、チャンミンは何度もうなずいた。
「怖かった...。
黙っていればいいんだ、ってずっと思ってました。
...でも、Xさんと別れられなくて...苦しくなってきて...っ...うっ...。
義兄さんは優しいし、っ...」
「俺は優しくなんかないよ。
チャンミンが大事なだけだ。
内容がどんなものであれ、何でも俺に打ち明けられない遠慮があったんだろう?
そういう空気を作ってしまっていた俺が悪いんだ」
俺はそう言って、チャンミンの背を撫ぜた。
10代らしい濃い体臭がふわっと香ってきて、その若さに切なくなった。
~チャンミン17歳~
身体を動かすと、僕が放ったものがふわりと青臭く香った。
義兄さんに荒々しく、かつ念入りに愛されて、僕は3度も達してしまった。
僕の身体を自在に操る、義兄さんの逞しい腕や腰に感じた。
ぱんぱんに膨らんだ義兄さんのもので、僕の奥が埋められ突かれたことに感じた。
僕の身体で、義兄さんには気持ちよくなってもらいたい。
悪いことをしでかした僕は、義兄さんに全身を差し出したんだ。
滅茶苦茶に抱かれることで、僕はとても悪いことをして、義兄さんを怒らせたという実感を得たかった。
気だるい身体で義兄さんの太ももに頭を乗せて、彼の熱い肌を片頬に感じていた。
義兄さんは...イッてくれなかった。
僕の身体に感じてくれなかった。
悔しくて悲しいけれど、義兄さんは怒りが強すぎて、それでイケなかったんだ、きっとそうだ、と思うことで自分を納得させた。
義兄さんの肌を間近に見ながら、彼の体毛を指先で撫ぜながら、彼の話を聞いた。
「...っつ」
義兄さんの親指がすっと伸びてきて、僕の下唇に触れたのだ。
「唇...切ってる」
かさぶたができたそこは、どうりで下唇が熱をもってひりひりしていたはずだ。
「転んだときにぶつけたんだな...。
ちょっと腫れてるな。
何か薬を、フロントで貰ってこよう」
「やっ!」
身を起こした義兄さんの脚にしがみついた。
「ここにいて下さい。
痛くありません」
「でも...」
「わかった。
ここにいるよ」
義兄さんは僕の頭を下ろすと、僕の隣に横たわった。
すかさず僕は義兄さんにすり寄って、肩と鎖骨の間のくぼみに頭を乗せた。
仰向けで寝ても、義兄さんの両胸は盛り上がっていてとても逞しい。
ついさっきまで、抱き合っていたのに、身体を離すととても遠い存在に見えてくる。
憧れの人が触れ合えるすぐそばにいて、胸が高ぶるし、腰の奥がうずうずするのだ。
初めて見た時から、義兄さんは憧れだったんだ。
理想の姿そのままの義兄さんに嫉妬心を覚えるほどで、出逢ったばかりの頃の僕は生意気な態度で接していた。
キスしても、素肌で抱き合っても、義兄さんと深いところで繋がっても、何回経っても僕の心は、初めてみたいにときめいている。
僕にとって義兄さんは、永遠の憧れの人なんだ、きっと。
つい1年前までは女の人の裸に欲情していた自分が信じられない。
Mとヤッていた自分も信じられない。
学校の同級生たちも教諭たちも、まさか僕が男の人と...それも姉さんの夫と不倫をしているなんて、想像できないだろう。
僕と義兄さんの関係は、普通じゃないのだ。
特別なんだ。
(つづく)
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