義弟(78)

 

 

~チャンミン17歳~

 

アトリエで抱き合う時はいつも、不意の来客や帰宅時間を気にしていた。

 

イベント先のホテルでは確かに素晴らしいものだったけれど、X氏のことで頭がいっぱいで、義兄さんをまるごと味わい尽くすまではいっていなかった。

 

今日は違う。

 

「ホテルに行きたい」

 

大人な発言に、たくさんの勇気が必要だった。

 

前に後ろにとひっくり返されるたび、違うところが刺激される。

 

繋がる角度を変えても、特に敏感なところを義兄さんはたちまち見つけ出して、そこばかり集中的に攻めるのだ。

 

「チャンミンはこれが好きだよね」と、視覚的にも僕を煽るのだ。

 

顎と両肩を床にぺたりとくっつけ、腰だけを高く突き出した姿勢。

 

真下へと義兄さんのものが突き落とされると、内臓にずんと響く。

 

埋められた義兄さんのものを肌ごしに感じとれるんじゃないかと、確かめようと下腹に触れてしまう。

 

義兄さんが言うには、僕は関節が柔らかいのだとか。

 

同じことをX氏にも言われたことがあって、一瞬彼の汚らしい顔が浮かびそうになって、その記憶を振り払った。

 

違う...X氏の時は無理やりのものだ。

 

義兄さんに身を任せると、僕の身体は軟体動物に変化して、彼の要望通りにどんな体位でも応えられるのだ。

 

身体を濡らしていたシャワーのお湯は、いつしか塩辛い汗に変わっていた。

 

浅黒い僕の肌と、興奮で上気した義兄さんの白い肌。

 

このコントラストに、ああ、僕らは抱き合っているんだと、実感するのだ。

 

気持ちがいい。

 

幸せだ、って。

 

ずっとこの時が続いて欲しいって。

 

最後には呼吸困難になってしまい、白目をむいてひーひー言う僕の背を撫ぜてくれる。

 

義兄さんは虚脱しきった僕の身体を、背後から抱きしめていた。

 

 

 

 

後始末も兼ねて、僕らはもう一度共にシャワーを浴びた。

 

義兄さんは僕の全身を、泡立てた固形石鹸を滑らせて洗ってくれた。

 

僕も義兄さんの全身を、真っ白な泡のクリームまみれにした。

 

僕らはずっと笑っていた。

 

笑い過ぎて、泡が口に入ってしまう。

 

義兄さんにその口を塞がれてかき回され舐めとられて、唇を離した彼は「美味しいものじゃないな」って、笑っていた。

 

義兄さんの目尻のしわを、カッコいいと思った。

 

 

 

 

「義兄さんにあげたいものがあります」

 

「なんだろう。

楽しみだなぁ」

 

義兄さんは飲み干したスポーツドリンクの缶をテーブルに置くと、姿勢を正して座り直した。

 

2か月越しにやっとで渡せるものだった。

 

ディパックから出したものを背中に隠した。

 

「遅くなってしまいました。

誕生日プレゼントです」

 

義兄さんの眼は期待の光でキラキラしていて、僕は急に自信がなくなった。

 

「どうぞ」

 

紙袋から、リボンをかけた箱を手渡した。

 

「僕の...気持ちです」

 

その箱は、義兄さんの大きな手に相応しい品格があった...僕にはそう見えた。

 

リボンを解く義兄さんの指を、僕はじぃっと見守った。

 

義兄さんの手は震えておらず、さすが大人だと思った。

 

ドキドキした。

 

怒られるかもしれない。

 

心臓が喉から飛び出そうだった。

 

ついに蓋が開いた。

 

義兄さんの瞳が一瞬拡大した。

 

すっと息を吸ったまま、呼吸を忘れてしまったかのように、義兄さんは箱の中身に視線を落としたまま、黙りこくっている。

 

やっぱり...。

 

気に入ってもらえるかどうかより、心配しなければならないのは、怒られることだった。

 

「チャンミン...お前はなぁ...」

 

怖くなった僕はうつむいて、咎めているだろう義兄さんの視線から逃れた。

 

「ここに座って」

 

義兄さんはソファの座面を叩いた。

 

僕にモデルを依頼した日は、義兄さんの隣に座るものかと、ソファの端っこに座ったんだ。

 

今の僕も、義兄さんが怖くて少し離れたところに座った。

 

「もっと近くにおいで」

 

僕の肩は義兄さんに引き寄せられ、僕の頭は彼の肩に押し当てられた。

 

「驚かせるんだから。

随分なものをくれるんだから」

 

「...ごめんなさい」

 

「なぜ謝る?」

 

義兄さんは箱の中のものをそぅっと取り出して、手首に巻いた。

 

手つきが丁寧だった。

 

「ありがとう」

 

義兄さんの背中に腕を回し、力いっぱい抱きしめた。

 

義兄さんは「高かっただろ?」とも、「どこからこんなお金を?」とも、一言も口にしなかった。

 

そのことが嬉しかった。

 

僕の頭は優しく何度も撫ぜられた。

 

僕の頭に置かれた義兄さんの手首から、秒針の音は聴こえない。

 

高いなんてひとことで済まされない程、高かったものだもの。

 

滑らかに針は時を刻む。

 

1年分のバイト代をはたいて買ったものだった。

 

高校生ひとりで足を踏み入れるには相応しくない店で、Mに付き添ってもらった。

 

いつか贈ろうと計画していた。

 

姉さんが贈ったブレスレットより、高価なものだ。

 

...多分。

 

 

(つづく)

 

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