<11月某日>
6:00起床
H回数:2,001回
(凄じゅうの効果、確かめられず。
それどころじゃなかったのだ)
ユノのまぶた、ポンポンに腫れている。
僕のまぶたもポンポンに腫れている。
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【昨夜の僕ら】
大人買いしたコミック本、ユノの帰りの前に読み始めた。
めそめそ泣いて読むユノを、余裕の態度で眺めたかった。
「ほらね、泣けるでしょ?」と。
ところが...。
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夕乃次郎は絶体絶命だった。
五本の指に入るほどの剣士であっても、今回の敵はけた違いの馬鹿力。
最悪なことに、昨日の戦いで夕乃次郎は脚を痛めていた。
異形の獣は頭が二つ、強烈な悪臭を放つ唾液を垂らし、のこぎり歯は血で汚れている。
その血は夕乃次郎のものだった。
剣は真っ二つに折れてしまった。
左手に握った鞘が最後の武器。
じりりと一歩後ずさると、かかとが宙を浮いた。
(くっ...!
とうとうこれまでか)
ここは断崖絶壁。
夕乃次郎の意識は背中のものにあった。
(俺が死んだとしても...死ぬのは俺だけでいい。
飛び掛かる獣もろとも、俺だけが崖下に落下する...これしかない)
夕乃次郎は一瞬、獣から目を反らし、この偽の油断をついて、獣が突進してきた。
夕乃次郎は背負子を横へ投げ、自らは獣の懐に飛び込んだ...と、その時。
背負子から飛び出したものがいた。
赤い衣を着た童女だった。
「茶彌子!」
夕乃次郎は叫んだ。
茶彌子と呼ばれた童女は、獣に首根っこに飛びついた。
耳を噛みつかれ、獣は大きく身震いして茶彌子を振り落した。
茶彌子は、地面を鞠のように転がってゆき、崖路のギリギリのところで鋭い爪を立て、転落一寸前で堪える。
堪えた力を蓄えて、再び獣に飛びついた。
茶彌子が獣に食らいついているうちに、夕乃次郎は鞘で獣の目を突いた。
激怒した獣は、夕乃次郎の首をへし折ろうと、前足を振り上げた。
「兄ちゃん!」
茶彌子は滅法強かった。
茶彌子が繰り出したこぶしは、獣の頭を吹き飛ばした。
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「これで、よし」
夕乃次郎は、頭に続いて獣の胴を崖下へ蹴り落した。
「ありがとう、茶彌子」
夕乃次郎は茶彌子のくせ毛を撫ぜた。
「兄ちゃんを助けてくれて、ありがとう。
お前は強いね」
「兄ちゃん...。
ちゃみこ...兄ちゃん、しゅき」
茶彌子は夕乃次郎の胸に、額をぐりぐりこすりつけた。
これは兄に甘えているときの、茶彌子の仕草だった。
「さあ、籠にお入り」
茶彌子はこくりと頷くと、自身の身体を四割五分に縮めた。
夕乃次郎は茶彌子が大人しく収まった背負子を背負った。
「兄ちゃんがお前を元の身体に治してやるからな」
真っ赤な夕日が、夕乃次郎の背後に黒く長い影を作っていた。
その影の頭には、2本の角が生えていた。
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【23:45】
僕らは泣きどおしだった。
このコミック本はヤバイやつだった。
ユノと一緒に風呂に入った。
頭を洗いっこし、背中を流しっこした。
(※感動を共にした時など、僕らは一緒に風呂に入る。
この時の入浴にはエロさはない。
無言でもくもくと、互いの身体を洗ってやる)
長身の男が二人同時に入るには、湯船は小さい。
それを見越して、湯船には半分だけお湯を張る。
僕らは向かい合わせになって、湯船に浸かる。
100秒ぴったり数え、風呂からあがる。
互いの身体を拭き合い、ドライヤーで髪を乾かし合う。
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パジャマ・・・ユノはピンク、僕は水色。ペアデザイン。
湯上りに牛乳を飲む。
最終巻をどちらが先に読むかじゃんけんで決める。
ユノ
「夕乃次郎と茶彌子には幸せになってもらいたいなぁ」とポツリ。
僕
「ホントにそうだね」
ユノ
「茶彌子は小悪魔に戻れるといいなぁ」
僕
「なれるよ」
ユノ
「一緒に読もうか?」
号泣。