(12)奥さま手帖

 

<11月某日>

 

6:00起床

H回数:2,001回

(凄じゅうの効果、確かめられず。

それどころじゃなかったのだ)

 

ユノのまぶた、ポンポンに腫れている。

僕のまぶたもポンポンに腫れている。

 

 

【昨夜の僕ら】

大人買いしたコミック本、ユノの帰りの前に読み始めた。

めそめそ泣いて読むユノを、余裕の態度で眺めたかった。

「ほらね、泣けるでしょ?」と。

ところが...。

 

 

夕乃次郎は絶体絶命だった。

 

五本の指に入るほどの剣士であっても、今回の敵はけた違いの馬鹿力。

 

最悪なことに、昨日の戦いで夕乃次郎は脚を痛めていた。

 

異形の獣は頭が二つ、強烈な悪臭を放つ唾液を垂らし、のこぎり歯は血で汚れている。

 

その血は夕乃次郎のものだった。

 

剣は真っ二つに折れてしまった。

 

左手に握った鞘が最後の武器。

 

じりりと一歩後ずさると、かかとが宙を浮いた。

 

(くっ...!

とうとうこれまでか)

 

ここは断崖絶壁。

 

夕乃次郎の意識は背中のものにあった。

 

(俺が死んだとしても...死ぬのは俺だけでいい。

飛び掛かる獣もろとも、俺だけが崖下に落下する...これしかない)

 

夕乃次郎は一瞬、獣から目を反らし、この偽の油断をついて、獣が突進してきた。

 

夕乃次郎は背負子を横へ投げ、自らは獣の懐に飛び込んだ...と、その時。

背負子から飛び出したものがいた。

 

赤い衣を着た童女だった。

 

「茶彌子!」

 

夕乃次郎は叫んだ。

 

茶彌子と呼ばれた童女は、獣に首根っこに飛びついた。

 

耳を噛みつかれ、獣は大きく身震いして茶彌子を振り落した。

 

茶彌子は、地面を鞠のように転がってゆき、崖路のギリギリのところで鋭い爪を立て、転落一寸前で堪える。

 

堪えた力を蓄えて、再び獣に飛びついた。

 

茶彌子が獣に食らいついているうちに、夕乃次郎は鞘で獣の目を突いた。

 

激怒した獣は、夕乃次郎の首をへし折ろうと、前足を振り上げた。

 

「兄ちゃん!」

 

茶彌子は滅法強かった。

 

茶彌子が繰り出したこぶしは、獣の頭を吹き飛ばした。

 

 

「これで、よし」

 

夕乃次郎は、頭に続いて獣の胴を崖下へ蹴り落した。

 

「ありがとう、茶彌子」

 

夕乃次郎は茶彌子のくせ毛を撫ぜた。

 

「兄ちゃんを助けてくれて、ありがとう。

お前は強いね」

 

「兄ちゃん...。

ちゃみこ...兄ちゃん、しゅき」

 

茶彌子は夕乃次郎の胸に、額をぐりぐりこすりつけた。

 

これは兄に甘えているときの、茶彌子の仕草だった。

 

「さあ、籠にお入り」

 

茶彌子はこくりと頷くと、自身の身体を四割五分に縮めた。

 

夕乃次郎は茶彌子が大人しく収まった背負子を背負った。

 

「兄ちゃんがお前を元の身体に治してやるからな」

 

真っ赤な夕日が、夕乃次郎の背後に黒く長い影を作っていた。

 

その影の頭には、2本の角が生えていた。

 

 

【23:45】

僕らは泣きどおしだった。

このコミック本はヤバイやつだった。

ユノと一緒に風呂に入った。

頭を洗いっこし、背中を流しっこした。

(※感動を共にした時など、僕らは一緒に風呂に入る。

この時の入浴にはエロさはない。

無言でもくもくと、互いの身体を洗ってやる)

 

長身の男が二人同時に入るには、湯船は小さい。

それを見越して、湯船には半分だけお湯を張る。

僕らは向かい合わせになって、湯船に浸かる。

100秒ぴったり数え、風呂からあがる。

互いの身体を拭き合い、ドライヤーで髪を乾かし合う。

 

 

パジャマ・・・ユノはピンク、僕は水色。ペアデザイン。

湯上りに牛乳を飲む。

最終巻をどちらが先に読むかじゃんけんで決める。

 

ユノ

「夕乃次郎と茶彌子には幸せになってもらいたいなぁ」とポツリ。

 

「ホントにそうだね」

 

ユノ

「茶彌子は小悪魔に戻れるといいなぁ」

 

「なれるよ」

 

ユノ

「一緒に読もうか?」

 

号泣。

 

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