(16)奥さま手帖-12月-

 

【旦那さん手帖】

 

<12月某日>

 

チャンミンがいなくなって5日目。

 

カニが届いた。

 

海辺の街にいるらしい。

 

いや。

 

送り状の住所を鵜呑みにしたらいけない。

 

すでに、その地を離れている可能性が高い。

 

ヒントで残されたガイドブックによると、数か所を転々とする予定らしい。

 

今現在、どこにいるかは、もう少し具体的なヒントが欲しいところだ。

 

あてずっぽうで向かって無駄足になってしまうのは避けたい。

 

昨日の時点では、漁師町××にいたことは確定した。

 

来週あたり、有休をとって迎えに行く予定でいたが、全行程の半分も行っていないようだから、予想よりチャンミンはのんびりするつもりらしい。

 

このカニをひとりで食え、という意味なのか?

 

 

留守番の日々もそろそろ、心細くなってきたところだった。

 

私は家事はいとわない男だ。

 

しかし、身の回りのこと全般はチャンミンに任せている。

 

家に居る時間はチャンミンの方が長いから、彼の過ごしやすい風にしてくれたらいい。

 

これを言うと、チャンミンはへそを曲げてしまうけれど、チャンミンが仕切る衣食住は、地に足がついたもの...女性的なものだ。

 

私に衣食住を任せたら、男のこだわりが前面に出てしまう。

 

時と金、手間の節約を一切無視した衣食住だ。

 

私にカレーを作らせたら、スパイスからこだわってしまい、おそろしく原価の高いものが仕上がる。

 

家事の話はどうでもよくて、何が言いたいかと言うと、チャンミンがいなくても、私は別段、不便なく生活が出来てしまう、ということ。

 

だから、不便を理由にチャンミンに帰ってきて欲しい、と思っているのではないのだ。

 

純粋に寂しい。

 

チャンミンといると1分1秒が面白い。

 

(腹が立つことも多いけれど、私よりもどちらかというとチャンミンの方が怒りっぽいかもしれない。

...と言うと、へそを曲げてしまう。

それを指摘すると、もっとご機嫌斜めになってしまう。

私の方が100倍も気が長い)

 

旅先でハッとする程美しい景色を目の当たりにした時、

 

「ユノがこの場にいてくれたらもっといいのに」と思ってくれていたらいいな。

 

 

距離を置く...だなんて、キザなことをしているつもりはない。

 

深刻なものじゃない。

 

15年も一緒にいれば、もっと深刻な状況になったことは何度もあった。

 

スランプ中のチャンミンはひとり旅にでかけただけ。

 

私も仕事が忙しくて、連日残業。

 

帰宅しても神経がピリピリしている。

 

ちょうどよかった。

 

おそらく、明日あさってのうちに手紙が届くと思う。

 

具体的なヒントを小出ししてくるぞ。

 

ワクワクしていた。

 

 

 

翌日。

 

手紙が届いた。

よかったよかった。

 

 

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