(20)奥さま手帖

 

<1月某日>

 

H回数:2,004回

新年、あけましておめでとうHをした。

(年末年始と、僕ら揃って大風邪をひいてしまったため)

ユノの年末年始休暇も明日で終わりだというのに、

揃って体力がガタガタなため、アクロバティックなことは出来ないし、数もこなせない。

ねっとりスロウで、前戯にたっぷり時間をかけた濃いやつを一発。

 

 

互いの身体については...ホクロの位置もすみずみまで知りつくしているけれど、

その色やサイズも日々変化するらしく、ユノのあの場所にあるホクロAの色味が薄くなっていた。

代わりにホクロBの色味が濃くなり、ひとまわり大きくなっていた。

「ホクロじゃなくて、シミじゃないの?」と、半分冗談で指摘してみたら、

ユノは、「鏡を持ってこい!」と真っ青になっていた。

 

僕らは今年でアラフォー世代になる。

幸い、禿げの気配はない。

ユノのルックスは揺るがない。

反面、僕は旅先で美味いものを食っちゃ寝していたせいで、下腹がマズいことになっている。

「シミ」「シワ」「たるみ」のワードにセンシティブになるお年頃なのだ。

「単なる色素沈着じゃないかなぁ?

摩擦がよくない、っていうし...?」

そう言って、鏡にうつるホクロを神妙な面持ちで観察するユノを慰めた。

 

 

<手紙に同封したイラストについて>

 

ユノ

「あれは猫だ。

ヒントは手紙に書かれていたフレーズだ。

『落ち込んだりもしたけれど、僕は元気です』

あれは、映画××の名キャッチコピーだ。

映画××の主人公××は、猫を相棒にしているだろ?

チャンミンのことだから、ヒントはストレートなモノじゃないと予測してみた。

映画の舞台は外国だから、映画そのものがヒントじゃない。

主人公がもっているホウキ、ホウキの生産全国一の地だろうか?って...おい、笑うな!

このキャッチコピーを生んだコピーライター××の生誕の場所なのか?

ライター××は猫好きだったっけ?と調べてみたら、まさかの犬好き。

この映画が封切られた時、俺たちは未だ出会っていなかったから、これにまつわる思い出もない。

俺たちの間で、猫を飼いたいねぇと話題に出たこともない。

この猫に込められた意味は何なんだ!?

映画の猫は黒ネコだったじゃないか!?

イラストの猫は白ネコだ。

白ネコがモデルのゲームが関係しているのか!?

猫を描いたことに意味があるのでは?

ウケでいるのがイヤになって、攻めになりたくなったとか?

『今度からユノがネコになって』って...」

 

「ユノ!!」

 

ユノ

「...ははは、今のはジョーク。

ひとり連想ゲームが始まってしまって、ますますわかんなくなっちゃってさ。

どうしてネコを描いたんだろう?と、首をひねるごとに俺の頭は霞にまかれてしまった。

便箋に炙り出しのこ細工が仕込まれてるんじゃないかって、

コンロの火にかざそうかと思ったくらいだ。

原点に立ち返って、チャンミンという男について考えてみた。

分かりやすいヒントを出すほど単純なヤツじゃないし、

複雑すぎて「アホか!わかるかよ!?」とキレたくなるヒントを出すほど、意地悪なヤツじゃない。

あの猫のイラストに込められた意味は...」

 

(ここでユノ、不敵な笑み。

悪そうな顔にぞくっとする)

 

ユノ

「...ナッシング。

ああでもないこうでもないとひねくりまわした結論が、これだ。

深く追求すべき事柄じゃないんだ。

だって答えなんてないんだから。

チャンミンのプチ家出...じゃなくてひとり放浪旅に、意味深なものはない。

な?

そうだろ?

物事のいちいちに「なぜ?」を求めていたら、シンドイよなぁ。

だって答えはひとつじゃないんだから。

「なぜ?」に追求するのが、小説の世界なんだろ?

出来事の1個1個に深~い意味を持たせるから、ストーリーが生まれるんだ」

 

ここでユノ、身体を起こしてあぐらをかく。

僕もそれに倣い、1枚の毛布にユノとくるまる。

 

 

ユノ

「チャンミンはスランプ状態だった。

ヒントを忍ばせられるほどの余力はなかったはずだ。

だから、ヒントなんてな~んにもなかった。

ヒントを忍ばせた絵を描きたくても、チャンミンは絵心がゼロだろ?」

 

「まあね。

ちなみに、ネコじゃないよ。

あれはレッサーパンダなんだ」

 

ユノ

「どこが!?」

 

「耳も鼻も尖っているし、ヒゲも生えている。

どう見てもレッサーパンダでしょ?」

 

ユノ

「アホか!

分かるかよ!?」

 

「でしょうね(笑)」

 

 

つくづく思うのが、僕よりもユノの方が小説家になれるんじゃないか、ってことだ。

ユノだったら純愛ものを書きそうだ。

実生活ではどエロなのに、作品の中でのエロシーンは、叙情的な美しいものになりそうだ。

 

 

中庭はすっぽりと雪に覆われている。

真昼間、縁側でするHは乙なモノである。

 

 

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