(23)僕らが一緒にいる理由

 

(あれ?)

 

僕の視線の動きに、お店のお姉さんもアオ君の耳たぶに注目しかけた。

 

それに気づいたアオ君は耳たぶを手で隠してしまった。

 

「どうかした?」

 

「ううん、なんでもない。

痒いな、って思って」

 

「あ、そう」

 

気になってしまった微かな何かよりも重要な、夫の為の贈り物選びに意識を戻した。

 

お姉さんがおススメしたピアスは、カジュアルな服装でも合いそうな、気障になり過ぎないデザインだった。

 

「これは何の石ですか?」

 

やや太めのカフス型で、正面からは見えない位置...耳たぶの裏側辺りに漆黒の石がはめ込まれている。

 

「水晶です」

 

「へぇ。

水晶に黒いものがあるんですね」

 

夫の瞳の色と一緒だと思った。

 

ちょうど今朝、仕上がったばかりの新作作品であるのもいい。

 

オリジナルでオーダーしようにも、僕じゃあセンスに自信がない。

 

「シンプルでカッコいい。

耳元に近寄ってはじめて、石に気付く...」

 

「ユノさんなら似合いそう」

 

「ただ、こちらのポストは太めなので、細いタイプにお直しすることもできますよ」

 

お姉さんは、キャッチを外して、ポストの部分を見せてくれた。

 

「いえ、このままで大丈夫です」

 

若かりし頃、様々なタイプのピアスを楽しんでいた夫のピアスホールは大きい方だったし、できる限り早く手に入れたかったのだ。

 

「裏側にイニシャルを彫ることもできますよ。

お待ちいただければ、15分ほどで出来ます」

 

僕とアオ君は「是非」と頷いた。

 

 

帰り道、アオ君の耳たぶはすっぴんになっていた。

 

「あれ?

外しちゃったの?」

 

「ああ、うん。

膿んでたみたいだ。

ピアスってそういう時あるよね」

 

「分かるよ」

 

夫に無理やり開けられたピアスホールは、後日じゅくじゅくと膿んで困ったのだ。

 

僕のトートバッグの中には、ラッピングされた小箱が入っている。

 

予算を少しオーバーした買い物だったが、夫の驚く顔を想像すると顔が緩んでしまう。

 

最寄り駅に到着した時、僕はアオ君を商店街内にある喫茶店へ誘った。

 

レトロな内装のそこは僕と夫の行きつけの店で、美味しい珈琲を出してくれる。

 

バッグから紙袋を出して、青いリボンが結ばれた箱をそっとテーブルに置いた。

 

「いつ渡すの?」

「いつがいいかなぁ。

時期的に中途半端でしょ?」

 

これまでの10年間、プレゼントなんて何度も経験しているけれど、今は世間のイベントごとは過ぎてしまった時期にあった。

 

「...そうだ。

次の休みにみんなでどっかに行こうか?

遊びにいって、いいとこでご飯食べて...その時に渡すってのはどうかな?」

 

「みんな?

えっ!?

俺も側にいていいの?」

 

心底驚いた顔をしたアオ君に、僕は「いいに決まってるじゃん」と答えた。

 

「せっかくの夫夫水入らずのところに。

ラブホに行きたくても、俺がいたら邪魔っしょ?」

 

「...おい」

 

いつものごとくアオ君のエロがらみの軽口に、僕はきっと睨みつけてやった。

 

「どこがいいかな」

 

3人でゲームセンターやスーパーマーケットへ出かけることはあった。

 

「どこにしようか?」

 

僕らはカップが空になってしまった後もしばらく、あれやこれや候補地を挙げてみたりと雑談を楽しんだ。

 

 

行為を終え息が整うと、僕らは後始末にとりかかる。

 

夫は散らばったティッシュを集めてゴミ箱へ、シーツの上に敷いたバスタオルを丸めて洗濯機へ。

 

僕はマットレスの高さに目線を合わせ、シーツに汚れがないかチェックする。

 

2人まとめてシャワーを浴びて時間節約する(性的に満腹しているので、互いの身体にちょっかいを出すことはない...というより、ちょっかいを出してくる夫の手を払いのけているのは僕の方だ。

 

この間の僕らは口もきかず、やるべきことを速やかに済ませる。

 

色気もへったくれもない話だけれど、長年連れ添っているカップルはこんなものだと思う。

 

パジャマに着替えた僕らは映画の続きに戻ることにした(僕らの趣味のひとつにB級映画の批評会がある)

 

アオ君と喫茶店で別れた僕は、レンタルDVDショップでエロティックホラー映画をレンタルした(たまには僕セレクトも面白いんじゃないかと思ったのだ)

 

想像以上にどエロい作品だったせいで、僕らは序盤の辺りでエロい気分になってしまい、寝室へなだれこんだ...という流れだ。

 

ラストまで夫の手を握ってあげた(夫はコタツにもぐり込んでしまい、肝心のクライマックスを見逃している)

 

照明を点け、「ふう~」と恐怖から逃れた安堵のため息を深々とついた。

 

「ユノの従兄弟って何人いる?」

 

「従兄弟?

急にどうしたの?」

 

僕は唐突に質問を始めた。

 

(つづく)

 

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