(43)奥さま手帖-5月-

 

<5月某日>

 

H回数:2,034回

(禁欲生活継続中)

 

雨、今年の梅雨入りは例年より2週間早いのだそう。

7:00起床、寝坊した。

雨の日は寝坊をしてしまいがちだ。

慌ててユノを起こす。

耳元でSEXと囁く。

(※『ユノの起こしかた④より)

 

朝食:きなこ餅

ユノの弁当:ご飯、冷凍食品のおかずいろいろ

(執筆が順調だから、弁当を作る余裕がある)

 

ユノに床屋代を渡す(仕事帰りに寄ってくるんだそう)

ユノの髪色は、真っ黒の中の真っ黒だ。

黒が似合う。

 

<思い出ぽろぽろ>

学生時代、金欠だった僕らは美容院代をけちって、お互いに髪を切ってあげたことがある。

切られる側は裸になって、ユニットバスで体育座りする。

ハサミを持つ側は責任重大。

ユノは襟足の髪がちょい長めが似合う。

ユノの髪の生え癖や、つむじの位置をじっくり観察したなぁ。

「白髪がある!」と嘘をついて、ユノを焦らせた。

僕らは二人とも、微妙に(?)不器用なので、仕上がりはイマイチ。

第一回目の床屋さんごっこでは、ユノの前髪をぱっつんしてしまった。

眉の3センチ上のぱっつんで、修正がきかない。

「ユノはイケメンだから、個性的な髪型も似合うね」と誤魔化した。

鏡を見ていないユノはすました顔で、その後も僕に髪をゆだねていて、

僕は心の中で、「ユノ、すまぬ、すまぬ」と謝っていた。

その後、栗坊やになってしまった頭を鏡で見て、悲鳴をあげていた。

前髪ぱっつんのユノが面白くて、薄情な僕はゲラゲラ笑っていた。

その後は確か...10分間カットの床屋に駆けこんで、丸刈りヘアにしてもらったんだっけ。

ユノの丸刈りヘアは、まあまあ似合っていたけれど、好きなヘアスタイルではないなあ。

ユノに髪を切ってもらった時、僕はどんな風に仕上がったんだっけ?

思い出せないということは、酷いことにはならなかったことだね。

 

僕らには未だ、白髪は生えていない(と思う)

あと数年もしないうちに、生えてくるんだろうなぁ。

そうかぁ、としみじみとした思いになる。

好きな人の隣で、共に年をとるのも感慨深いものがある。

 

(旦那さん追記)

チャンミンは忘れているみたいだね。

チャンミンの髪を、マロンブラウンだと嘘をついて、金髪にブリーチしたことがある。

似合っていたなぁ。

チャンミンは激怒していたけど、「カッコいい」とおだてていたら、まんざらでもなくなって、

服装や仕草をカッコつけるようになってきて、見ていてすげえ面白かった。

 

 

ユノ出社。

8:00:朝のテレビ番組は見ない。

執筆スタート。

小説冒頭の最初の1文が決まってからは、ストーリーに入り込むことができている。

最初の1文とはこう。

『拾った男にQは鈴口を吸われた』だ。

髪色は黒。

僕は黒髪の登場人物を攻めにすることが多い。

拾われた側はウケが似合うけど、僕はあえて攻めにしてみた。

黒髪の攻めと言えば、ユノだ。

ちょっとだけユノと登場人物を重ねてしまう時がある。

ユノの意見が欲しくて読んでもらう時に、とてもこっぱずかしいので、

ユノのイメージから離れたキャラクターを設定するようにしているのだけど...。

今回、玄関の前に行き倒れになっていた男は、黒髪の攻め(ちょっとだけ、ユノに似ている)

 

 

昼食:カップ麺

勧誘電話がかかってくる。

 

『奥さまはいらっしゃいますか?』

 

「僕です」

 

『え...えっ...奥さま...?』

※男の声で『奥さま』

 

この手のリアクションは毎度のことだ。

 

「はい、僕が『奥さま』です。

(何か問題でも?)」

 

『そ、そうですか...。

本日、お電話さしあげましたのは...ところで、奥さまのお宅はオール電化でしょうか?』

 

「いいえ」

 

小説の世界に頭半分、持っていかれているので、つい向こうのペースにのって正直に答えてしまった。

 

僕の貴重な時間と、カップ麺の食べごろを奪われてはなるまい、とムカムカしてきた。

 

ちょっと硬めの麺が好きなのだ。

 

この電話に付き合っていたら、ぶよんぶよんの麺になってしまう。

 

行き倒れになった黒髪イケメンを家の中に運び、服を脱がせるシーンなのだ。

 

カップ麺を美味しくいただいたら、黒髪イケメンの身体つきの描写(細マッチョ)にとりかかりたいのだ。

 

『お湯を沸かしたりはガスですか?

それとも、灯油?』

 

「いいえ、薪です。

うちは古いんで」

 

ときっぱり、ガチャンと電話を切った。