(8)奥さま手帖-11月-

 

<11月某日>

【旦那さん手帖】

 

6:00起床。

いつもより1時間以上早い起床。

私の隣は空っぽ。

書斎を覗くと、背中を丸めたチャンミンが、一心不乱にPCに向かっていた。

(私の奥さんは〆切迫る作家さんだ。

売れっ子かどうかはノーコメント)

〆切まで丸三日しかない。

私は全力でチャンミンをサポートするつもりだ。

 

 

チャンミンが書き上げる作品の、読者第一号は担当編集さんではなく、私である。

彼はしばしば(しょっちゅう?)、私に作品作りについてアドバイスを求める。

アドバイスにもならない話を、彼は熱心に聞いてくれる。

ところが、私が考えたネタをそのまま採用している時は稀で、まるで逆を突いてくる時がほとんどだ。

私と会話しながら、頭の片隅でストーリーを練っているんだろうな。

 

 

【6:15】

・洗濯機を回す

・お湯を沸かす

【6:30】

①インスタントコーヒーを淹れる。

②目玉焼きを焼く。

(黄味が破れずにうまく出来た。よし!)

③食パンを焼く

(干物を焼く網にのせて、ガス火で炙る。

中はふっくら、外はかりッと焼けるのだ)

④食パンに目玉焼きを挟む。

(※チャンミンが執筆で缶詰になることは、過去に何度もある。よって、家事能力はまあまあある)

トレーにのせて、チャンミンのところまで持っていく。

「ちぃっ」と舌打ち。

これは私に向けたものではない。

行き詰っている自分に苛立っているのだ(と、思いたい)

 

 

<弁当>

①タッパー(大)に詰めたご飯

②レトルトカレー

③タッパー(小)にミニトマトと大根の漬物を詰める

チャンミンの分も用意する。

(同じメニューだが、レンジで温められるばかりにしておく)

おやつも用意しておく。

(ひと口バウムクーヘン)

 

 

【7:00】

・洗濯物を干す。

・身支度する。

書斎を覗くと、皿もカップも空っぽになっている。

回収した食器を洗う。

 

 

【7:15】

「行ってきます」と、チャンミンの耳元で囁き、頬にキスをする。

チャンミン、ぼそっと「行ってらっしゃい」

チャンミン、PCのディスプレイから目を離さない。

起きてから一度も、目を合わせていない。

私はチャンミンの後頭部を、眼力こめて見つめる。

チャンミン、大きなため息。

チャンミン、立ち上がり私に近づくと、雑なハグ。

ムスっとした表情。

すぐにデスクに戻ってしまう。

家にいるとチャンミンの邪魔になるので、いつもの出社時間より早いが家を出る。

 

 

殺気立っている時は、そっとしておくのが一番だ。

そっとしておく、とは、「無視する」のとは違う。

遠くから君を見守っているよ、の徴はちゃんと伝わるようにしないといけない。

 

 

【19:30】

帰宅。

シンクに空になったカレー皿。

テーブルに用意したおやつも無くなっている。

レンジで温めた弁当を書斎に届ける。

風呂に入る。

湯上りにアイスクリームを食べる。

ニュース番組をチェックする。

ひとりきりもたまにはいい。

完全なひとりではないのが、いい。

ひとつ屋根の下、もう一人いる。

 

 

【22:00】

書斎をのぞき、「先に寝るよ」と声をかける。

弁当箱、空になっている。

チャンミンが振り向くまで、眼力こめて背中を見つめる。

はあ、とチャンミンのため息。

無精無精立ち上がり、私に近づくと雑なハグ。

すぐにデスクに戻ってしまう。

「無理するなよ」

チャンミン、こくん、と頷く。

 

 

細かいところまで記録してしまうところは、チャンミンに似てしまったのか?

【奥さま追記】

YES

 


 

 

<11月某日>

~〆切まであと3日の続き~

【旦那さん手帖】

 

夜中の2時に、執筆中のチャンミンの様子を見る。

腹が減っているようなら、夜食にラーメンでも作ってやろうと思った。

ところが、がっつり居眠りしている。

原稿を進行具合を確認すると、ページ数からして3分の1辺りか。

叩き起こさなくても大丈夫そうだ。

(新婚当時、寝かしておいたら〆切に間に合わなくなって、「なぜ起こしてくれなかったんだ!」と、度叱られたことがあったのだ)

『恥辱の学生服』を最初から書き直すと話していた。

ざっと読んでみて、唸ってしまう。

なるほど、そうきたか。

設定変更でエロさが増している。

よしよし、頑張ってるな。

よだれを拭いてやる。

 


 

<11月某日>

~〆切まであと2日~

 

6:30。

目覚めたら、背中にチャンミンがひっついていた。

(結局ベッドで寝ることにしたらしい)

私たちは30代、徹夜は1日が限界だ。

チャンミンの寝顔をじっくり観察してみる。

(無精ひげの生えた口周りは手で隠す)

うちの奥さんは寝顔が可愛らしいのだ。

30半ばのおっさんが、ぎりぎり17歳の少年に見えてしまうのは、惚れた欲目であると重々承知している。

 

 

【朝食】

・雑炊

(卵3個入り)

・ホットココア

起き出してきたチャンミン、朝ご飯を食べ出す。

 

 

【チャンミンからの質問】

C「高校生にエネマグラは早いだろうか?」

ーー早いに決まってる。

 

C「17歳と59歳の恋はどう思う?」

ーー孫と祖父だな。

 

C「昼休みと放課後とどちらがエロい?」

ーー放課後

 

C「英語と世界史とどちらがエロい?」

ーー意味が分からない。

 

 

家事を全て済ませ、「行ってきます」と声をかける。

ハグを待っていたが、

今朝のチャンミンは、深い深い思索の沼に沈んでしまっている。

そのままそっとしておく。

 

 

【20:30】

帰りが遅くなってしまった。

前もって知らせておこうと電話をしたが、電源を落としているようだった。

 

 

「ただいま」と玄関ドアを開けるなり、剛速球の奥さんが飛んできた。

チャンミンは無言で私にしがみついている。

チャンミンをそのまま引きずって、台所まで行く。

執筆が順調だとも、行き詰っているともどちらでも取れる。

こういう時は余計なことは言わないのが賢明。

夕飯の間中、チャンミン、私の背中にひっついている。

コンビニ弁当はお気に召さなかったらしい。

「おでんもあるぞ。

卵と餅巾着とどっちがいい?

大根か?厚揚げか?」

そのどれもがお気に召さないらしい。

(〆切前のチャンミンはとても気難しい)

「頭を使う仕事なんだから、脳みそにエネルギーをあげないといけないぞ?」と言ったら、「チャーハンが食べたい」と言う。

チャンミンほど上手くないが、卵チャーハンを作ってやる。

チャンミン、調理中の私の姿を後ろから眺めている。

緊張する。

床に中身をこぼさないよう慎重に、フライパンをゆする。

チャーハンが完成した時、おでんが無くなっていた。

腹が減っていたらしい。

 

 

「風呂へ入るか?」と尋ねたら、「入らない」と返答。

昨夜も入っていないが、別に構わない。

昨日から同じジャージ姿だったから、着替えさせる。

チャンミン、窒息しそうな馬鹿力でハグしたのち、ぷいっと書斎へと消えてしまった。

洗濯物を干し、ニュース番組を見て、この日記を書いている。

寝る前に書斎をのぞいて、バックハグをしてやろう。

頑張れチャンミン。

おやすみ。

 

 

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