真剣に読みふけるあまり、サンドイッチはひと口齧っただけで忘れられている。
いちファンの立場でしかなかった15年前の僕。
心情の変化を事細かにノートに記録している。
99.999%あり得ないけれど、もしかしたら...もしかしたらCCから贈られた指輪を付けて、CCの隣で人生を歩む日が訪れるかもしれない。
無理だって分かってはいても、0.001%の可能性にすがって、二次元の彼の姿を追い続けるのがファンなのだ。
「もしかしたら...」の思わせが0%だったら、僕は彼を追いかけてはいやしない。
・
15年前の2月14日。
19歳の僕の恋は、決定的に壊滅的に終わりを遂げた。
「もしかしたら、CCが離婚するかもしれないぞ?
そん時はチャンミンにチャンス到来だ」
ユノが言いそうな台詞だけど、彼は言わなかった。
ぐずぐずしている僕を見守りながら、露骨に急かすようなことはせず、前へ進むようさりげなく僕の背中を押していた。
たまに強く押すもんだから、つんのめって転ぶときもあって、喧嘩になったなぁ(今もそうだけど)
ー15年前の2月某日ー
3,4日、この日記が書けなかった。
僕は廃人になっていた。
実際は、ご飯はちゃんと食べていたし、大学にもバイトにも行っていた。
だから、「廃人のような心境で」が正確だ。
(※自分だけの日記なのに、細かい言い訳が多い。
未来の僕がこの日記を読むかもしれない、と予感していたのだろうか?)
時折、胸がきしみ、その痛みに顔をしかめる。
駄目だなぁ、まだ時間が必要みたいだ。
・
・妹から電話
(春休み、買い物目当てに街へ出てくるから泊めてくれ。
「いいけど」と答えた)
・同級生から電話
(××女子大の子らとコンパをするから、メンツ合わせに協力しろ。
「気が進まない」と答えた。
「座っているだけでいいから」としつこく説得され、渋々頷いた)
・フロアリーダーから電話
(シフトに入っていた子が風邪で来られなくなった。
夕方から出勤してくれないか?とのこと。
「行きます」と答えた)
【昼食】
・ラーメン
(茹でたホウレンソウと焼きハムを添えたもの)
「いざ食べようか」と箸を取った時、電話が鳴った。
墓地のセールス電話だった。
『奥さまいらっしゃいますか?』と訊かれたので、
僕は家政婦になったつもりで、
「奥さまは留守です」と答えた。
次に『旦那さまは?』と訊かれたので、
「旦那さまも留守です」と答えた。
今日の僕は、人気者だ。
ー15年前の2月某日ー
CCは独身じゃなくなってしまった。
男の僕が言うのもなんだけど、CCをお嫁にやったような心境だった。
僕らファンの手からすり抜けてしまったような...いい男に育ててきたファンの元から、巣立ってしまったような。
(※浸ってるなぁ。
19歳...いや、もう20歳になってるな...の僕は自分に言い聞かせることで辛さを紛らわせているのだろうな)
・
アイドルや俳優たちの電撃結婚ニュースを知ったとき、「ファンの人たちは気の毒だなぁ」と他人事に同情していた。
まさか、自分がその立場になるなんて。
アイドルの...推しの結婚式の日...まさしくXデーだ。
ファンを辞めるか辞めないかの瀬戸際の日なのだ。
ショックのあまり、極端な行動に走ってしまったファンもいるかもしれない。
Xデーと言い表しても、決して大袈裟ではないと思う。
・
ユノへ電話をかけたが留守だった。
近いうちに食事に行こうと、誘いのメッセージを留守電にいれる。
14日以降、僕はユノに懐いてしまった。
・
仕上げたレポートの提出のため、大学へ。
これで全ての単位が揃った。
明日から春休み。
予定なし。
ー15年前の2月某日ー
ユノとファミレスに行く。
【ユノと結婚について語り合う】
ユノ「チャンミンを苦しめているのは、嫉妬だね」
僕「うん。
CCから結婚を申し込まれたんだよ。
それに、CCのすぐ近くにいられるんだよ。
すごく...羨ましい」
ユノ「そうだね。
羨ましいだろうね。
あ~んないい男、独り占めだもんね」
僕「うん」
ユノ「チャンミンはCCと結婚したかったのか?」
僕「そんなっ...こと、あり得ないよ。
そこまでは望んでいない。
ただね、CCにはオンリーワンを見つけて欲しくなかったんだ。
僕らのCCでいて欲しかった」
ユノ「こんなこと言ったら、チャンミンを怒らせてしまうけどさ。
チャンミンの恋は、見たいものだけしか見ていない恋だったんだ。
『見せてもらえなかった』ってのが現実だろうね。
CCは見せたいものしか見せないんだ。
それが彼の商売なんだ。
CCは生身の人間だけど、二次元みたいなものなんだよ。
想像してみ?
チャンミンはCCがトイレでウンコしてるとこ、見たいか?」
僕「僕はトイレをのぞく趣味なんてないよ」
ユノ「そんなチャンミン、俺だってイヤだよ。
例えば...CCは超がつくケチンボだったらどうする?
お金持ちなのに、1桁単位まで割り勘にするケチンボ。
豪邸なのに、最安のトイレットペーパーを使ってるんだ。
ゴワゴワペラッペラな、シングルのトイレットペーパーなんだ」
(※ユノは柔らかタッチのダブル派)
僕「...う~ん」
ユノ「寝起きの息が臭すぎでさ。
貧乏ゆすりが酷くってさ。
怒りの沸点が低いから、気を遣うぞ〜。
それから、超がつくヤキモチ妬き。
それから...裸(ら)族でさ、チャンミンにも強要するの。
...どう?」
僕「どう?...って、どういう意味だよ?」
ユノ「そんな奴でも好きでいられるか、っていう話」
僕「ユノのたとえ話は極端すぎないかな?」
ユノ「そういうもんだよ。
結婚しなくたって、彼氏彼女の関係であっても、そういうとこが見えてくるんだ。
付き合いたて、結婚したては見えていなかったものが、少しずつ露わになってくるんだ。
そこで幻滅するかしないか、だね」
僕「げんめつ...」
ユノ「CCはヅラかもしれないぞ?
増毛してるかもしれないぞ?
CCが禿げ頭でも、好きでいられるか?」
僕「CCは地毛だよ!」
ユノ「ホントにそう言い切れるか?
最近の技術はすごいらしいぞ?」
僕「CCは違うよ!」
ユノ「いやいや。
超優秀で凄腕の増毛師...いや植毛師かな?...が担当しているから、みんな騙されてるんだ。
CCと結婚したら、サロンへの送り迎えをしてやらないといけないんだ。
チャンミン、果たして君にできるかね?」
僕「ユノ!!」
(※この後の記述はないけれど、二人はしばらく会話を楽しんだんじゃないかな。
会話調に書き残しているあたり、この日記を楽しんでいるようだ)
(※ユノと過ごす時間が増えてきたようだ。
もうそろそろだね、僕とユノが...。
僕とユノが初めて寝た日。
僕はなんて書いているかな...楽しみだ。
ぽかぽかと温かい布団の中で、僕らはパンツを穿いていなかった。
お尻の谷間をコソコソと、くすぐられていた感触、
乾いた肌と肌とがさらさらと、触れ合った感触が生々しく記憶にある。
どっちが布団から出てストーブをつけるか、じゃんけんをしても勝負がつかず、おしくらまんじゅうしたんだ)
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