ー15年前の2月某日ー
使い道のなかったバイト代で、パソコンを購入することにした。
同じくバイトが休みだったユノを誘って、大型電化店××に行く。
予算に余裕があったから、プリンターも購入。
家具店に寄って、PCデスクとキャスター付きチェアを購入。
これで環境づくりはばっちりだ。
僕はこれから小説を書く。
恋愛小説を書く。
(※BLを書くようになったのは、CCの失恋がきっかけだ。
男女の恋愛であってもよかったのに、BLを選択した理由は単純だ。
男女のエロシーンの描写がうまくできなかっただけだ。
女性のあそこの構造がイマイチわからない)
・
付き合ってくれたお礼に、ランチを御馳走した。
ユノの元気がないのが気になった。
「どうかしたの?」と尋ねたら、「そういうバイオリズムなんだ」とはぐらかされてしまった。
―15年前の3月某日―
ぽかぽか陽気。
冬ものコートの出番も終わりか。
【覚え書き】
慌ててクリーニング屋に預けないこと。
(急に冷え込む日があるから)
薄手のジャンパーを引っ張り出す。
袖口にほつれがあった。
左胸のあたりにシミがあった。
(食べ物の汁をつけたまま、しみ抜きせずに放置していたせいだ)
これを着ると、CCの結婚報道があった頃を思い出す。
あの日僕はこれを羽織って、朦朧とした頭で電車に乗って帰宅したんだ。
新しいジャンパーを買ってもいいかもしれない。
・
明日から、妹が2泊3日で僕の部屋に泊まりにくる。
ここで2つの問題が持ち上がった。
(引き受けた時、CCのことで脳みそがかかりっきりになっていた)
1.布団が一組しかないこと。
2.CCグッズの隠し場所。
(※僕がCCに溺れていたことを、家族は知らない)
ユノに電話して、2泊の宿とCCグッズの避難場所の提供をお願いした。
ユノは快くOKしてくれた。
でも、声が沈んでいるようだったから気になった。
どんなに塞ぎこんでいても、自堕落な生活をしていようと、
いつまでもはらはらと涙をこぼしていても、
CCが僕の肩を抱いて慰めてくれることは永遠にない。
CCは僕の存在を知らないんだ。
ファンという集合体の点々のひとつに過ぎない。
CCは巧妙に計算された末の姿しか、僕らに見せない。
CCのプライベートを目にすることは永遠に訪れない。
ここで、ユノのたとえ話を思い出す。
「CCが禿げ頭でも好きでいられるか?」
CCのプライベートに近づけない僕は、CCの人生に責任を持つ必要はないんだ。
増毛(育毛?植毛?)サロンへの送り迎えをしなくてもいいし、
「娘さんをください」と挨拶にきた娘の彼氏が30歳年上バツ3男だったりして、絶句しなくていいし、
大豆の先物取引に失敗して全財産を失って、共に路頭に迷うこともない。
(ユノのことだから、無茶苦茶なたとえ話を用意したはずだ)
このことにようやく身をもって気付き始めたようだ。
そして、外の景色に目がゆくようになった頃だった。
商店街の喫茶店、閉店時間は18時だ。
窓ガラスの外、アーケード街は買い物客で混雑している。
この席に3時間は居座っている。
店内は僕以外に3人しか客がおらず、嫌な顔はされない。
(それでも気を遣って、コーヒーを2回おかわりし、サンドイッチを注文した)
・
ユノの家に初めて行ったのは3月だったのか。
寒かった記憶しかなくて、2月頃かなと思い込んでいた。
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