「お腹空いたでしょう?」
キキは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を閉めると、戻ってきた。
マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。
乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。
「食事に行きましょうか?」
ふわりとほほ笑んだ彼女が、胸に染み入るように綺麗だった。
洋服を身につけて、建物の外へ出る。
初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。
艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。
目にも鮮やかなブルーのX5だった。
高級車の登場に驚きを隠せない僕に、キキはあごをしゃくって乗るよう合図する。
重低音を響かせてドアを閉めると、ブラック・レザーシートに身を沈めた。
「汗をかいてる。
暑いでしょ」
キキはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。
僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。
そんな彼女に、僕は全身をさらして、身を任せたんだ。
涼しいエアコンの風で、徐々に汗は引いていった。
サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。
全身が重だるかった。
わずか2時間の間で、2回も達した僕だった。
30分前の自分を反芻していた。
僕とキキの手でイカかされた僕は、キキに命じられた。
「チャンミン、服を脱いで」
僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。
これでようやく僕は全裸になった。
「綺麗ね。
チャンミン...綺麗...」
僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。
間近でキキと僕の目が、ぶつかる。
キキの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。
僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせていた。
キキは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。
僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。
僕はキキのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。
(彼女と心の通い合いはまだ、ない。
でも僕はこんな状況を、受け入れている!)
達したばかりなのに、僕のものが再び固くなってきた。
「まだ欲しいの?」
僕は頷いた。
(今は、まだいい。
彼女がどんな人なのか、知るのは後だ。
今は、彼女のいやらしい愛撫を受けたい)
キキに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に立たされた。
キキは床に膝をつく。
ワンピースの裾から、白くて細い足首がのぞいていた。
下腹部に付くほど屹立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。
「あ...!」
腰が震えた。
僕の腰骨が、ミミの手で支えられる。
キキの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。
「ひっ...!」
短い悲鳴が上がる。
「チャンミン...あなた、
フェラチオは初めてなのね?」
その通りだった。
キキにされることすべてが、僕にとって初めてだ。
つい最近、付き合っていた女の子と別れたばかりだった。
憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。
大人しく奥手だった僕は、彼女をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。
彼女をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。
そんな僕の太ももの間で、キキの頭が揺れている。
信じられない。
夢みたいだ。
なんて気持ちがいいんだろう。
僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。
キキに頬張られて、丹念に舐められ、吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。
(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)
彼女の口内を犯しているような光景に興奮した。
「はっ...うっ」
たまらず彼女の頭をつかんで、股間に押さえつける。
もっと奥へもっと奥へと、彼女の喉を貫きたい。
彼女はいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。
そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。
(そこは...弱い...!)
僕の全神経が、股間に集中していた。
尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取ると、
じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。
たまらない。
彼女の唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。
僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。
たまらない。
あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。
もっともっと、欲しい。
もっと、僕を舐めてください。
強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。
彼女の小さな頭を、撫でる。
柔らかい髪を指ですく。
こんなにも美味しそうに僕を味わう彼女が、愛おしくなってきた。
「チャンミン。
気持ちいいか?」
「うん。
すごく」
僕の答えに満足したのか、キキは根元を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。
「あ、あぁ...」
同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。
「あっ」
ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。
喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。
彼女の柔らかな髪を両手でかきまわす。
僕の両脚の間で、上下に動く彼女の頭を、愛おしく撫でる。
腰が自然と前後に動き出した。
彼女の頭をつかんで前後に揺らしていた。
「あっあっ」
彼女を窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、
強烈な快感に支配された僕は、彼女の口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。
僕のものから唇を離すと、
「イきそうか?」
しごく片手はそのままに、キキは低い声で言った。
「う、うん」
「我慢しろ」
僕は激しく首を振る。
「いい子だから」
「む、むりっ」
このままじゃ、キキの口の中でイってしまう。
「イっちゃう」
彼女の口の中に、放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。
もう、限界だ。
彼女の口から抜こうとしたら、彼女に尻をつかまれる。
僕の尻に、彼女の爪がくいこむ。
その痛みすら快感だった。
僕の理性はふっとんだ。
彼女の頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。
ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。
全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼女。
半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。
僕の陰毛に埋もれた彼女の美しい顔。
なんて光景だ。
僕の尻をつかむキキの指先に、力がこもる。
「いっ...くっ...」
目もくらむ快感の大波にさらわれた。
「くっ...!」
彼女の喉の奥に、僕の欲望が放出された。
二度、三度と絶頂の震えに襲われた。
「は...あぁぁ...」
精液を吐ききるまで、彼女は咥えたまま放さなかった。
こうして僕は彼女の口の中で、達してしまったのだった。
マットレスに倒れこむ。
まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。
「チャンミンは、いやらしいね。
さっき出したばかりなのに、
こんなに沢山」
濡れた彼女の唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。
「ごめん!
中に出しちゃって、ごめん」
彼女の唇を覆った。
青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもに彼女の唇を吸った。
「ごめん」
自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。
僕もキキも一緒に、汚れてしまえばいい。
キキを汚してしまった罪の意識と、彼女を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。
「チャンミンは、可愛いね」
こう言って、キキは僕の頭を撫ぜたのだった。
以上が、30分前の出来事だ。
最後の一滴まで絞り取られた僕は、彼女に「食べられた」のだろうか。
キキに問いたいことは沢山ある。
「食べるって...どういう意味だ?」
サングラスをかけたキキは、じっと前方を向いたままだ。
僕がいつまでも見つめていると、
「アハハハハ」
と、喉をそらして笑った。
あまりにも大きな声で、僕はぎょっとする。
「そんなに可笑しいことか?」
「最初に言ったこと、気になってるわけだ?」
真っ黒なサングラスで、キキがこちらに視線を向けているかどうかは分からない。
「それも当然でしょうね」
キキは、僕の方に顔を向けた。
「まだ、食べていないよ」
「え...?
それってどういう...意味?」
「おいおい教えてあげるから。
チャンミンを傷つけたりはしないから、安心して」
キキは車を減速させた。
「ここでいいよね?」
ファミリーレストランへ車を乗り入れる。
巧みなハンドルさばきで狭い駐車場に車をおさめると、エンジンを切った。
案内されたテーブルにつくと、キキはサングラスを外す。
「私は、チャンミンが気に入ったんだ」
そう言ったキキは、まるで整い過ぎた陶人形のようで、揺らめきが一切ない平坦な目をしていた。
僕は、気づいてしまった。
キキの瞳に浮かぶ色には、「静」と「欲」の2パターンしかないことに。
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