【5】唇がもたらすものー僕を食べてくださいー

 

 

 

「お腹空いたでしょう?」

 

キキは裸足のまま、隅に置かれた真新しい冷蔵庫を閉めると、戻ってきた。

 

マットレスの上でぐったりとしている僕に、よく冷えたミネラル・ウォーターを投げて寄こした。

 

乾ききった喉に、冷たい水を流し込む。

 

「食事に行きましょうか?」

 

ふわりとほほ笑んだ彼女が、胸に染み入るように綺麗だった。

 

洋服を身につけて、建物の外へ出る。

 

初夏の太陽がまぶしくて、目がチカチカした。

 

艶めくボディの車が僕の前に横付けされた。

 

目にも鮮やかなブルーのX5だった。

 

高級車の登場に驚きを隠せない僕に、キキはあごをしゃくって乗るよう合図する。

 

重低音を響かせてドアを閉めると、ブラック・レザーシートに身を沈めた。

 

「汗をかいてる。

暑いでしょ」

 

キキはセンター・コンソールを操作して、設定温度を18℃まで下げた。

 

僕の隣でハンドルを握るのは、名前しか知らない人。

 

そんな彼女に、僕は全身をさらして、身を任せたんだ。

 

涼しいエアコンの風で、徐々に汗は引いていった。

 

サイドウィンドウを流れ過ぎる景色を見るともなく、気だるい頭で眺めていた。

 

全身が重だるかった。

 

わずか2時間の間で、2回も達した僕だった。

 

30分前の自分を反芻していた。

 

 


 

僕とキキの手でイカかされた僕は、キキに命じられた。

 

「チャンミン、服を脱いで」

 

僕は両腕をあげて、Tシャツを脱いだ。

 

これでようやく僕は全裸になった。

 

「綺麗ね。

チャンミン...綺麗...」

 

僕の鼻梁を指でたどると、後ろ髪に手を差し込んだ。

 

間近でキキと僕の目が、ぶつかる。

 

キキの群青色の瞳と澄んだ白目が、くっきりとしたコントラストを作っている。

 

僕は馬鹿みたいに口を半開きにさせていた。

 

キキは僕の胸に頬を寄せ、僕の筋肉がつくるくぼみをひとつひとつなぞった。

 

僕の顔を身体を、舐めるように目で楽しみ、撫ぜて愛でていた。

 

僕はキキのいとおしむような愛撫を受けて、深い愛情を注がれていると錯覚していた。

 

(彼女と心の通い合いはまだ、ない。

でも僕はこんな状況を、受け入れている!)

 

達したばかりなのに、僕のものが再び固くなってきた。

 

「まだ欲しいの?」

 

僕は頷いた。

 

(今は、まだいい。

彼女がどんな人なのか、知るのは後だ。

今は、彼女のいやらしい愛撫を受けたい)

 

キキに手を引っぱり起こされ、僕はマットレスの脇に立たされた。

 

キキは床に膝をつく。

 

ワンピースの裾から、白くて細い足首がのぞいていた。

 

下腹部に付くほど屹立したものの根元をやさしく握って、先端に吸い付いた。

 

「あ...!」

 

腰が震えた。

 

僕の腰骨が、ミミの手で支えられる。

 

キキの大きく開けた口の中へ、僕のものが吸い込まれていった。

 

「ひっ...!」

 

短い悲鳴が上がる。

 

「チャンミン...あなた、

フェラチオは初めてなのね?」

 

その通りだった。

 

キキにされることすべてが、僕にとって初めてだ。

 

つい最近、付き合っていた女の子と別れたばかりだった。

 

憂鬱で投げやりな気持ちで帰省したのも、このせいだった。

 

大人しく奥手だった僕は、彼女をうまくリードすることができず、挿入にいたらなかった。

 

彼女をひどく失望させてしまった僕は、あっさりふられてしまった。

 

そんな僕の太ももの間で、キキの頭が揺れている。

 

信じられない。

 

夢みたいだ。

 

なんて気持ちがいいんだろう。

 

僕の反応を楽しむかのように、時おり卑猥な音をたてた。

 

キキに頬張られて、丹念に舐められ、吸われ、僕は再び快楽の沼へ背中から沈んでいった。

 

(こんな小さな口の中に、こんなに大きくなったものを突っ込まれて)

 

彼女の口内を犯しているような光景に興奮した。

 

「はっ...うっ」

 

たまらず彼女の頭をつかんで、股間に押さえつける。

 

もっと奥へもっと奥へと、彼女の喉を貫きたい。

 

彼女はいったん、僕のものから口から出すと、今度は、チロチロと亀頭を舐め始めた。

 

そうかと思うと、尖らせた舌先で裏筋をやわらかく刺激する。

 

(そこは...弱い...!)

 

僕の全神経が、股間に集中していた。

 

尿道口からあふれ出る、僕のいやらしい粘液を舌ですくい取ると、

 

じゅっと亀頭を浅く咥えて、強く吸う。

 

たまらない。

 

彼女の唇から顎へと、糸をひいたものが垂れていた。

 

僕のものを握ったまま見上げるのは、妖しい光たたえる美しい瞳。

 

たまらない。

 

あんなに激しく僕をしゃぶり続けていたのに、青白い肌色はそのままで、目尻の縁だけ赤くて。

 

もっともっと、欲しい。

 

もっと、僕を舐めてください。

 

 

強過ぎる快感を堪能しようと、僕は目をつむって天井を仰ぐ。

 

彼女の小さな頭を、撫でる。

 

柔らかい髪を指ですく。

 

こんなにも美味しそうに僕を味わう彼女が、愛おしくなってきた。

 

「チャンミン。

気持ちいいか?」

 

「うん。

すごく」

 

僕の答えに満足したのか、キキは根元を強めに握り直すと、ピストン運動を始めた。

 

「あ、あぁ...」

 

同時に、亀頭だけが咥えられ、その中で舌がグネグネと踊った。

 

「あっ」

 

ちゅるりと吸われると、僕の喘ぎ声も大きくなる。

 

喉の奥まで咥えこまれ、強めにスライドされて、強烈な快感が全身を貫いた。

 

彼女の柔らかな髪を両手でかきまわす。

 

僕の両脚の間で、上下に動く彼女の頭を、愛おしく撫でる。

 

腰が自然と前後に動き出した。

 

彼女の頭をつかんで前後に揺らしていた。

 

「あっあっ」

 

彼女を窒息させてしまいはしないか心配になって、途中で突く動きを緩めるが、

 

強烈な快感に支配された僕は、彼女の口を貫こうと、再び腰を揺らしてしまうのだった。

 

僕のものから唇を離すと、

 

「イきそうか?」

 

しごく片手はそのままに、キキは低い声で言った。

 

「う、うん」

 

「我慢しろ」

 

僕は激しく首を振る。

 

「いい子だから」

 

「む、むりっ」

 

このままじゃ、キキの口の中でイってしまう。

 

「イっちゃう」

 

彼女の口の中に、放出したい欲求と、それはいけないという、相反した考えで葛藤した。

 

もう、限界だ。

 

彼女の口から抜こうとしたら、彼女に尻をつかまれる。

 

僕の尻に、彼女の爪がくいこむ。

 

その痛みすら快感だった。

 

僕の理性はふっとんだ。

 

彼女の頭を股間に押さえつけて、がくがくと小刻みに腰を揺らす。

 

ジュボジュボと、淫らな音がしんと静かな工場内に響く。

 

全裸の僕と、膝まずいて股間に顔を埋める着衣の彼女。

 

半分は屋外のような場所で、衣服をまとわず腰を揺らす僕。

 

僕の陰毛に埋もれた彼女の美しい顔。

 

なんて光景だ。

 

僕の尻をつかむキキの指先に、力がこもる。

 

「いっ...くっ...」

 

目もくらむ快感の大波にさらわれた。

 

「くっ...!」

 

彼女の喉の奥に、僕の欲望が放出された。

 

二度、三度と絶頂の震えに襲われた。

 

「は...あぁぁ...」

 

精液を吐ききるまで、彼女は咥えたまま放さなかった。

 

 

こうして僕は彼女の口の中で、達してしまったのだった。

 

マットレスに倒れこむ。

 

まるで全速力の末、ゴールで倒れこんだ陸上選手のようだった。

 

「チャンミンは、いやらしいね。

さっき出したばかりなのに、

こんなに沢山」

 

濡れた彼女の唇から、つーっと精液が滴り落ちていた。

 

「ごめん!

中に出しちゃって、ごめん」

 

彼女の唇を覆った。

 

青臭くえぐみのある味と匂いにまみれても構わず、やみくもに彼女の唇を吸った。

 

「ごめん」

 

自分が出した白濁で、互いの口元が汚れてしまっても、全然構わなかった。

 

僕もキキも一緒に、汚れてしまえばいい。

 

キキを汚してしまった罪の意識と、彼女を征服した満足感がない交ぜになって、何が何だかわからなくなっていた。

 

「チャンミンは、可愛いね」

 

こう言って、キキは僕の頭を撫ぜたのだった。

 

 


 

以上が、30分前の出来事だ。

 

最後の一滴まで絞り取られた僕は、彼女に「食べられた」のだろうか。

 

キキに問いたいことは沢山ある。

 

「食べるって...どういう意味だ?」

 

サングラスをかけたキキは、じっと前方を向いたままだ。

 

僕がいつまでも見つめていると、

 

「アハハハハ」

と、喉をそらして笑った。

 

あまりにも大きな声で、僕はぎょっとする。

 

「そんなに可笑しいことか?」

 

「最初に言ったこと、気になってるわけだ?」

 

真っ黒なサングラスで、キキがこちらに視線を向けているかどうかは分からない。

 

「それも当然でしょうね」

 

キキは、僕の方に顔を向けた。

 

「まだ、食べていないよ」

 

「え...?

それってどういう...意味?」

 

「おいおい教えてあげるから。

チャンミンを傷つけたりはしないから、安心して」

 

キキは車を減速させた。

 

「ここでいいよね?」

 

ファミリーレストランへ車を乗り入れる。

 

巧みなハンドルさばきで狭い駐車場に車をおさめると、エンジンを切った。

 

案内されたテーブルにつくと、キキはサングラスを外す。

 

「私は、チャンミンが気に入ったんだ」

 

そう言ったキキは、まるで整い過ぎた陶人形のようで、揺らめきが一切ない平坦な目をしていた。

 

僕は、気づいてしまった。

 

キキの瞳に浮かぶ色には、「静」と「欲」の2パターンしかないことに。

 

 

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