「痛いか?」
キキは僕の腕に触れて言った。
割れた窓ガラスから見える外は真っ暗で、月明かりがほのかに場内に差し込んでいる。
マットレスに仰向けになって、一糸まとわぬ僕らは寝ころんでいた。
「少しだけ...痛いかな。
でも、平気だよ」
実際はズキズキと痛かった。
裂けた箇所を、医療用テープで止めてあるだけだから、もしかしたら傷口が開いているかもしれない。
マットレスの下に転がり落ちた懐中電灯を、手探りで拾い上げてスイッチを入れた。
何枚かのテープが剥がれてしまった箇所から出血し、それが二の腕から脇までこすれた痕を作っていた。
隣のキキの身体に灯りを向けると、彼女の腕にも、乳房にも、内ももにも真っ赤な血筋が付いていた。
今さっきのセックスで重ねた身体同士で、塗り広げてしまったみたいだ。
白く柔らかく滑らかなキキの肌が、僕の流した血液で汚された光景を、官能的だと感じた僕は異常だろうか。
「ごめん...汚してしまった」
白いシーツにも、赤い痕がところどころにある。
「どうってことない。
シーツを洗えばいい」
半身を起こした僕は、横たわるキキに問いかける。
「ねぇ。
君は不思議な身体をしているね」
「どこが?」
「肌はこんなに冷たいのに...」
キキの下腹に手の平を載せ、そうっと撫で上げた。
キキの乳房を手の平のくぼみに収めて、手のひらに当たる乳首を転がすように柔く揉んだ。
キキの肌はやっぱり冷たくて、僕は自分の手の平がいかに熱くなっているかがよく分かる。
「死体みたいに?」
「僕は死体とヤッてることになるんだ」
つんと勃った乳首を突いたら、キキがくすぐったそうにして、僕は少し嬉しかった。
「もし、死体とセックスしているんだとしたら、
チャンミンはどうする?」
「どうするも何も、キキの中は温かいし」
僕はキキの唇の中に、人差し指を押し入れた。
「温かいから、キキは死体じゃない」
キキの舌が僕の指に絡みついた。
キキの口内の粘膜を、ぐるりとなぞった。
その指をキキの舌が追って、軽く指の付け根が甘噛みされた。
それから、指の股をくすぐられ、口をすぼめて僕の指を舐め上げたり、出し入れしたりした。
「はぁ...」
かと思うと、ちゅるっと指先だけが吸われて、ちろちろとくすぐられた。
(指一本で、こんなに感じてしまうなんて...)
まるで自身のものを、口で奉仕されているんだと錯覚してしまう。
僕の下腹部が重ったるく痺れてきた。
僕のものが、首をもたげて勃ちあがってきているのが分かった。
キキの両頬をとらえようとしたら、手首をつかまれた。
(あいかわらず、なんて力だ...)
僕は、これ以上逆らわず両手をマットレスの上に落とした。
「待ってて」
キキは立ち上がると、何かを持って戻ってきた。
僕の両手首をぐっとつかむと、万歳の恰好で頭の上に持ち上げられた。
「!」
キキが僕の手首に何か硬いものを巻き付けている。
カチャカチャという音と手首に冷たい金属が触れて、僕のベルトだと分かった。
「キキ!
何をするんだ!」
「さっき後ろから襲ったお仕置きよ」
そう言うと、僕にぴったりと寄り添うように横たわった。
巻き付けられたベルトを外そうとしたが、びくともしない。
「もがくと手首を怪我するよ」
そう言うとキキは、僕の手首の内側にキスをした。
手首から二の腕の怪我をした箇所に向かって、ついばむようにキスをしていった。
「はぁ...」
そして、傷口には決して触れないよう、ぺろぺろと周囲を舐めた。
「ふっ...」
ズキズキ痛む傷と、その周囲のくすぐったい感触の対比に、腹の底からぞわっとした痺れが生まれた。
二の腕の内側に軽く歯があてられるだけで、ふっと全身の力が抜ける。
脇の下からどっと汗が噴き出した。
キキの唇が、二の腕の内側を通って僕の脇に到達した。
ペロリと僕の脇が舐められた。
身体が跳ねる。
「やっ...!
汚いから...駄目...だって」
両腕を下ろそうとしたら、すかさずキキに押さえつけられた。
ふふっとキキは笑うと、舌でとんとんと叩いたり、行ったり来たりさせる。
くすぐったいけれど、下腹がじんと痺れる。
「はぁ...ぁん...」
かすれた喘ぎが漏れる。
そんな僕の反応を、キキは面白がっているようだった。
「チャンミンは感じやすいね」
喘ぐたび、キキは僕の唇に軽いキスをする。
(脇をいじられるのが、こんなに気持ちがいいなんて...)
「チャンミンの匂いがする」
「あ!」
キキは僕の脇に鼻を押し付けて、思いっきり吸い込んだ。
「駄目...!
臭いから...やめ...て!」
一日の終わりで、たっぷりと汗をかいた後で、さぞかし匂うだろうと、恥ずかしくてたまらない。
キキがふうっと息を吹きかけると、僕の体毛が震える。
「ふ...ん」
僕はぎゅっと目をつむる。
股間に血流が集まっているのが分かった。
今夜は2度も達したのに、僕の精は尽きていないみたいだ。
いやらしい。
僕は性欲に支配された男だ。
両腕を緊縛されていたため、快感によじる動きを制限されてしまっていた。
こんな状況が、かえって興奮した。
縛られて、身動きできなくて、キキにいじられるがままで、熱い吐息を漏らすだけで。
自由になる両膝を立てて、寄せた両腿をこすり合わせることで、快感を逃す。
両脚をよじるたび、膨張した僕のものが弾んで揺れる。
キキの視線が、僕の股間に注がれているのが分かる。
見られていると意識したら、ますます怒張していく。
キキの人差し指が、僕の唇をなぞる。
「口を開けて」
彼女の細い指が、口内に侵入する。
彼女の指に舌を絡め、指全体を舐め上げる。
「そんなんじゃ駄目。
もっといやらしく舐めて」
僕が知っている精いっぱいの方法で、彼女の指を舌で愛撫する。
「下手くそ。
チャンミンは、まだまだね」
僕の額にキスすると、キキはくすくすと笑った。
キキは僕の腰の上にまたがって膝立ちした。
マットレスに転がした懐中電灯の灯りが、キキの身体をぼんやりと照らしている。
キキの肩からウエスト、腰をつなぐカーブを描いたシルエットが、綺麗だった。
乳房のふくらみの下、へその周りになだらかな影を作っている。
視線を下に辿ると、キキの両太ももの付け根に濃い影があって、ぐんと鼓動が早くなった。
僕は今、裸の女性と対面している。
美しい、裸の女性が、僕の上にまたがっている。
性急過ぎた2回のセックスの際は、じっくりとキキの身体を視的に愛でることができなかったから、感動した。
キキに触れたい。
でも、僕の腕は自由を奪われている。
キキが、僕の乳首を2本の指でぎゅっとつまんだ。
「は...ん」
ぴくりと僕の腰が浮き上がった。
「そうだったね。
チャンミンは、乳首が弱いんだったね」
親指で押しつぶされた。
「んっ...」
両手を強く握る。
僕の唇から、たらたらと唾液が流れる。
「縛られて、興奮してるね」
キキは、僕の首筋に軽く吸い付いた。
ぞわっと下半身に向かって鳥肌がたつ。
ついばむように、僕の耳の下に、鎖骨の上にと軽いキスを降らした。
膝を立てて腰を持ち上げることで、僕の上に膝立ちしたキキの尻に、僕のものをこすり付けた。
腰をゆらすと、ちょうど僕のものの先がキキのやわらかい尻に当たる。
「いやらしいね、
チャンミンはいやらしい子だ」
キキは後ろ手に、ぴくぴくと小さく震える僕のものを握った。
「ふっ...」
キキの親指が、亀頭の上をくるくると円を描く。
ぬるぬるとしているから、さぞかし先走りがあふれているのだろう。
今すぐ自分の腰をキキの中に打ちつけたい衝動に襲われていた。
腰を浮かせようとすると、キキの両腿で制される。
僕の内面に暴れる肉欲が高まり過ぎて、耐えられない。
拳の中で、爪が手の平に食い込む。
じれったくて、焦らされて、苦しい。
「...がい...」
「なあに?」
「お願い...だ」
「何が?」
「お願いだから...」
キキが僕の頬を優しく撫でた。
乏しい灯りの元、キキの1対の眼がぎらっと光った。
見入られて、快楽と焦燥の間で僕の眼は潤んでいるだろう。
「挿れたい...」
「何を?」
「僕の...ものを...」
「僕のものって...なあに?」
分かっているくせに、キキは分からないふりをしている。
「僕の...これ...を」
(そんなこと...恥ずかし過ぎて言えないよ)
でも、ここではっきりと言わないと、キキは僕のお願いをきいてくれないに決まっている。
「恥ずかしいのね...可哀そうに」
呆れたような表情をしたキキは、僕の口元に耳を寄せた。
「何を、挿れたいの?
教えてチャンミン」
...もう駄目だ...。
キキが欲しい。
僕はキキに逆らえない。
キキの小さな耳にむかって、囁いた。
「わかったよ。
いい子ね、チャンミン」
キキは僕の髪を優しく撫でる。
僕の目尻から、涙がつーっと流れ落ちたのが分かった。
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