2本の指が付け根まで挿ったところで、ユノはチャンミンの耳元で尋ねる。
「どう?」
「...っん...苦し...」
チャンミンはぎゅっと目をつむり、歯を食いしばっている。
ユノの首に回した腕にも、ユノの腰にからめた両脚にも力がこもっている。
チャンミンにしてみたら、肛門が裂けてしまうのではないかという恐怖と、腰の奥から広がる違和感...。
(これのどこが気持ちがいいんだろう。
女の子の膣内(なか)に挿れたことも、イッたこともないけれど...。
そもそもの話、僕の身体は『挿れる側』なんだ。
異物を受け入れるようには出来ていないんだ。
こんなこと...こんなこと...不自然だよ)
「痛いか?」
耳朶にかかるユノの熱い吐息。
いつもならぞくぞくと興奮を煽るものが、今はそれどころじゃないのだ。
激しく首を横に振って、そうっとまぶたを開く。
「痛くないけど...お尻が...いっぱいなの」
鼻先が触れ合わんばかりの距離に、逆光になったユノの顔があって、黒目がちの目が濡れたように光っている。
「いっぱい...ユノでいっぱい」
「!」
ユノの脳裏に、かつての彼女が『私の膣内(なか)が、ユノのでいっぱい』とかなんとか、漏らした言葉が浮かんでしまい、ユノはその記憶を飛ばす。
「2本の指なんて、初めてだよな?」
こくこくとチャンミンは頷く。
「怖いのか?」
こくこくとチャンミンは頷く。
「痛いことはしないから、安心しろ。
優しくするから」
(何を言ってんだ、俺?)
バージンだったかつての彼女に吐いた台詞にそっくりじゃないか、と思ってしまったから。
(あの時は、まず指で慣らして十分に濡らしてからやったんだっけ?)
指の付け根を絞めつける圧が強い。
(すげ...。
締まりがいいんだな...)
全身が硬直状態のチャンミンの緊張を解こうと、空いてる方の手をチャンミンの胸に置く。
すーっと首から下へと撫でおろす。
脇腹を通って胸へと戻る。
途中、手の平をくすぐる柔らかな突起を爪先で、ひっかくように刺激したら、
「あん」
(出た!
チャンミンの女っぽい声)
指の腹でチャンミンの乳首を円を描くように、転がす。
ユノの愛撫で、たちまち固く尖ってきた。
「あ...あん...あっ...」
ユノの肩下でチャンミンは喘ぐ。
(声が出ちゃう...あ...ムズムズして、痒いんじゃなくて...ちりちりして...股間に力がこもる...)
摘まんだ乳首を2本の指をこすり合わせるようにいじる。
「っあ...ん...駄目...駄目」
同時に、チャンミンの中に挿入したままの指をうごめかせる。
「ああ...あんっ」
(そうなんだよなぁ、チャンミンは乳首攻めが好きなんだ。
...女みたいだ...って思ったらダメか)
「や...駄目...そこ」
(なんだろ。
お尻の中が...うずうずして...。
何かが出ちゃいそうで...)
「駄目じゃないだろ?
イイんだろ?」
「だって...あんっ...両方は...駄目ぇ」
(お尻の中がおかしな感じになってるのに、おっぱいもいじられたら、僕はおかしくなってしまう)
「あ...あん」
(声が色っぽいんだけど。
待て。
チャンミンは男だ。
女みたいだと、思ったりしたら駄目だ)
「もっと動かして...いいか?」
「ダメ―!!!」
チャンミンの制止を無視して、乳首の愛撫はそのままに、埋めた2本の指を抜きさしする。
(チャンミンの直腸...じゃなくて内壁に押し当てたまま、ゆっくりと穴に向けて引く。
んでもって、指を拡げるーの...)
「あーーーー!」
ユノの耳元でチャンミンは叫んでしまい、ユノは一瞬顔をゆがめたが、「ここで『うるさい』 なんて言ったら、チャンミンが可哀想だ」と口をつぐむ。
(今のチャンミンは、未知なる世界に突入しようとしてるんだ。
ひるませたら駄目だ。
チャンミン、俺に任せろ。
気持ちよくさせてやるからな)
「ユノっ...駄目...拡げるの駄目っ...」
チャンミンの腰がプルプルと小刻みに震えている。
「チャンミン、いい子だから我慢してろ。
太さに慣れないと。
初めてだろ?」
ユノは乳首の愛撫を止め、その手でチャンミンの尻を撫ぜてやる。
「気持ちよくないよ!
全然。
あっ!
ユノ!
指をぐいーっとするの駄目ぇ!」
ユノは円を描くようにチャンミンの中をかき回した末、その指をぐいっと折り曲げた。
「あうっ!」
チャンミンの身体が跳ねる。
「痛かったか?」
「違っ...びっくりしただけ」
ユノは、チャンミンの唇の端からたらりと垂れた唾液を、ぺろりと舐めとってやった。
ユノとちらっと目を合わせると、チャンミンはかすかに笑みを浮かべ、そのうっとりとした表情にユノの胸は熱くなる。
(か...可愛い)
乱れた前髪で直線的な眉が隠れ、涙が潤んだ目元が幼い印象を強めた。
目尻も鼻先も赤くして、噛みしめていたせいで唇も赤く、唾液で光っている。
「チャンミン、腰を上げて」
チャンミンの腰が、さっきの拍子で下がってしまい、無理な姿勢になって指が抜けそうだった。
「何かが...出そう...」
ぽつりとチャンミンはつぶやいた。
「えっ!?」
「出そう...」
「ウンコか!?
ウンコしたいのか?」
「ばかぁ!!
違うよ!!」
(お尻の奥が...僕のタマの後ろがぞわぞわして...変な感じ。
何かが出そうな...変な感じ。
そうか!
...これが、気持ちいいってことなのかな)
「それならよかった」
ユノがホッと息をつくのを見たチャンミンは、
「何だよ。
僕のお尻は汚いってこと!?」
と、眉根を寄せてユノを睨みつけた。
「違うって。
もしウンコがしたいのなら、俺の指で栓をしてるわけにはいかないだろ?
出したいだろ?」
「...そんなんじゃない」
「エッチの途中だったんだぞ?
エッチが中断するんだぞ?
チャンミンがトイレに行ってる間、寂しいじゃないか」
「ユノ...」
「一旦、指抜くぞ?」
「...駄目。
ユノ...好き」
チャンミンはユノの頬を両手で包むと、そっと唇を押し当てた。
「!」
(頼むよチャンミン。
そういう可愛いことをするなって)
「いいよ、続けて。
ウンチがしたいわけじゃないんだ。
大丈夫、変な感じがしただけ」
「オッケー」
指を抜きさししているうちに、チャンミンの中の構造が分かりかけてきたユノだった。
「指をもう一回、挿れるぞ?」
「うん」
組み敷かれたチャンミンは、この時にはうっすらとまぶたを開け、その瞳は潤んでいる。
(熱い。
チャンミンの中が熱い。
すげ...。
やっぱり、男相手でもセックスが出来るんだ)
あるポイントを通過する際、チャンミンの肛門の締まりがよくなることにも気づいた。
(きつっ!
こんなに締め付けられたら、俺のちんちんがもげるかもしれない...)
「やっ...ユノ...それ、駄目...」
軽く開いた口から、熱い吐息と共に艶めかしい声を漏らすチャンミン。
「何これ...やだ...変な感じ...」
これ以上は挿らない程、奥底へ差し込んで、指先で、曲げた関節でぬらめく粘膜を刺激する。
抜き刺しするスピードも速め、こすりあげる刺激も強めた。
(ここをもっといじってやると...いいハズ)
「ひゃうん!」
チャンミンの腰が痙攣する。
(当たりだ。
もうちょっとグリグリして...)
「あ、ああーーっ」
チャンミンの顎が上がり、ユノの指の動きに合わせて、だらしなく開いた口から嬌声が漏れる。
「ひゃっ...あっ...」
「ん?」
見下ろすと、下腹に触れる濡れたモノ...。
(ダメダメと言いつつ、ちゃんと勃ってるじゃないか)
「やだ...そこぉ...
おかしくなるぅ...ひゃっ」
「チャンミン...。
それって感じてるんだって」
「そう...なの?」
「そうさ」と囁いて、ユノはチャンミンの耳たぶを咥えた。
(まずい...。
チャンミンの構造を探求するあまり、真面目な気持ちになってしまった。
エロい気分が消えてしまったぞ)
自身のモノを見下ろして、心中でたらりと冷や汗が流れた。
(膨張率10%未満?
探り探りの牛の直腸検査みたいだったからなぁ。
よし!
今日はここまでにしておこう)
指を抜き去る際も、チャンミンの腰が跳ねる。
「あぅっ!」
(そう、そこそこ。
抜く時が...たまらないんだ)
ユノは腰にからみついたチャンミンの膝に手をかけ、マットレスに落とす。
「え!?」
「今日のところはこの辺にしとこう」
ユノは濡れた指をティッシュペーパーで拭きながら宣言した。
「え...?」
仰向けになったままのチャンミンは、ユノの言葉に跳ね起きた。
「なんで!?」
「まだ足りない?」
ユノは余裕ある表情を作って、冗談めかして言う。
(俺のモノが萎えてしまったから、とは言えない...)
「......」
口をへの字にゆがめたチャンミンに、くすりとしたユノは腕を伸ばして、くしゃくしゃと頭を撫ぜる。
「お前のケツの穴が心配なだけ。
慌てずにいこうぜ」
「う...ん」
「よかったか?」
「うん...」
「ユノ...ありがと」
「何が?」
「優しくしてくれて」
「!」
(かーーーー!
チャンミン...頼むから可愛いことを言ってくれるなって。
初体験を済ませた女の子の台詞みたいなことを、言うなって!)
「どしたの?」
「何でもないよ。
チャンミン、よく頑張ったな」
「まーね。
一応、僕も練習してきたからね」
チャンミンは鼻にしわを寄せて笑い、それが心からの笑顔だ知っているユノは、優しい眼差しでチャンミンを見つめるのだった。
「よかったねー。
1歩どころか、100歩くらい前進したよね」
「ああ」
「これで『本番』も大丈夫だね。
心配し過ぎてただけみたい。
実はたいしたことなかったね」
チャンミンは得意そうにそう言うと、ベッド下に散らばった服を拾い集め始めた。
ぷっ。
(『ぷっ』...?)
「......」
続けて、
ぷぷっ。
「......」
ちらっと横を向くと、ベッドの下へ腕を伸ばす姿勢のまま一時停止したチャンミン。
(わーーーー!!
おならがでちゃった!
おならをしちゃった!
空気が入っちゃったんだ。
ユノの指で刺激されて、僕の腸がびっくりしてるんだ。
どうしよう...!
聞かれたよね。
あんなに大きな音だったから。
恥ずかしい!)
ぼっと汗が噴き出てくるのがはっきりと分かる程、全身がカッと熱くなる。
一方、ユノといえば、
(今の...おなら...か!?
チャンミン...おならしちゃったか!
出るだろうな、指を出し挿れしたんだから。
ぐりぐりケツの中を、刺激したんだから。
おならが出ちゃったか!
面白い。
非常に面白い。
普段だったら、腹を抱えて大爆笑ものだ。
だが、今は絶対に笑ったらいけない。
笑いを堪えろ!
アナルバージンを捧げたばかりなんだ(未だ、ブツを突っ込んだわけじゃないけど)。
ナイーブなチャンミンを傷つけるわけにはいかない!)
「チャ、チャンミン」
「な、何?」
「来週、牧場実習だろ?」
「そうだね。
荷造りはどんな感じ?」
ユノとチャンミンが在籍する科では、夏休みの後半を利用しての牧場実習がある。
現場での実習を通して畜産家の仕事を体験する、遊び要素ほぼゼロの過酷なプログラムなのだ。
「俺はバッチリだ。
そうだ!
つなぎの洗い替えは買ったか?」
「うん。
長靴も新しいのを買わなくちゃね」
「だよなー。
汚い長靴をスーツケースに入れて行きたくないよな」
「うん」
「......」
「......」
(気まずい...。
やっぱり笑ってやればよかったかな)
表情を見られないよう、ユノは慌ててTシャツに腕を通す。
「ユノったら、パンツを先に履きなよ」
チャンミンが放り投げたボクサーパンツをキャッチして、「そうだな」ともごもごとつぶやいた。
(この気まずさを解くには...どうすればいい?
今さら『おならしただろ』なんて指摘して笑う訳にもいかない。
...そうだ!)
ユノの頭にいい考えがひらめいて、口元がにやりと緩んでしまう。
チャンミンがその笑みを見逃すはずはなかった。
(ユノがよからぬ企みが浮かんだ時の顔だ!
僕に変なこと...エッチなことをさせるつもりだ!)
「なあ、チャンミン」
「な、なんだよ?」
ユノは下着を履きかけたチャンミンの腕を制した。
「長靴、まだ買ってないよな?」
「週末にバイト代がはいるから、その時に生協で買うつもりでいるよ」
「売り切れてるかもよ」
「えっ!?」
「だって、学科の奴らみんな、同じこと考えてるって。
長靴を買おうって。
ほら、白衣の時もそうだったじゃん。
売り切れちゃってさ」
「確かに...。
どうしよう...」
「そんなこともあろうかと思って...」
ユノはクローゼットの扉を開けて、中から箱を取り出す。
ごたごたと物を押し込んだ棚から、コートや漫画本やらが落下してユノの肩に当たる。
「チャンミンの分も買ってきたんだ」
じゃーんとばかり、箱の中身を披露する。
「ユノ!」
ユノの優しさに感動したチャンミンは、両手を合わせた。
「でさ、サイズが合うかどうか心配でさ。
ちょっと履いてみて」
そう言ってユノは、チャンミンの手を引いて立ち上がらせた。
フローリングの床に置かれた新品の長靴に、チャンミンは足を入れる。
「あ...。
ぴったり」
「!!!!」
ユノは長靴を履いたチャンミンの姿に、卒倒しそうだった。
(やべー!
エロい!
滅茶苦茶エロい!
まっぱに長靴は...エロ過ぎる!)
「ユノ、ありがと」
足元を見下ろしていたチャンミンは、弾ける笑顔でユノを見ると...。
「ん?」
片手で口を覆って、笑いを堪えているユノが...。
「わっ!!」
チャンミンは、全裸で長靴を履いている自分に気付く。
慌てて両手で股間を隠す仕草も、ユノにしてみたら欲情を煽る要素になってしまうのだ。
チャンミンは、ぎらぎらと妖しい光をたたえたユノの目から視線を外せずにいた。
ごくりとのどが鳴った。
(つづく)
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