ユノのぎらついた視線にロックオンされたチャンミンは、身動きできずにいた。
社交術に長けているユノの涼し気な目元は、感情の読み取りにくいポーカーフェイスなものだ。
真っ先に感情が顕われてしまうチャンミンのものとは、性格が真逆だった。
不安定に揺れていた自身の焦点が、ユノの漆黒の瞳に捕らえられて、あっという間に恋に落ちた。
だから、チャンミンには分かる。
今のユノの瞳に、欲望の炎がめらめらとしていることを。
(...どうにかされちゃうのかな...)
逃げ出したい気持ちが3分の1。
襲われたい気持ちが3分の1。
ユノとどろどろにまみれあいたい気持ちが3分の1。
「チャンミン...いやらしい...」
股間を隠していたチャンミンの手が払いのけられた。
抵抗もせず両腕を脇に落としたチャンミンに、ユノはくすりと笑う。
チャンミンが何を期待しているのか、手を取るように分かったから。
ユノは視線だけで、チャンミンの身体のパーツをスキャンしていく。
(ガチな顔をしちゃって...可愛いんだから)
「チャンミン...」
指をそっとチャンミンの唇に触れる。
上気した肌は熱を帯びていて、うっすらと開いた唇からは、浅くて速い呼吸音が。
ねじ込まなくてもユノの指は、チャンミンの口内に迎い入れられた。
チャンミンの熱い舌が人差し指に絡みつくが、ユノはすっと指を引いてしまった。
あごから喉元、鎖骨へと...チャンミンの喉仏がこくりと上下した...視線を移す。
「チャンミン...裸で長靴履いちゃって...どこへ出かけるつもりだった?」
「サイズが合うかどうか...試着しただけだよ...!」
ユノの焦点が、左胸の乳首に合っている。
(見られているだけで...むずむずする...)
「ホントに、それだけ?」
(...舐めて欲しい...おっぱいを舐めて欲しい)
チャンミンの乳頭が小さく尖ってきた様子に、ユノは満足する。
「びんびんじゃん、チャンミン。
やらしいなぁ」
「そんなこと、ないっ...」
(舐めてやるもんか)
歯を当てたくなるのを、ユノは堪える。
「どうして服を着なかったわけさ?」
「着ようとしてたよ。
でも、ユノが長靴を履いて欲しい、って言うから...」
「へぇ」
ユノの焦点が下へと移動していくのにあわせて、チャンミンの下腹が波打った。
「へそ毛がすごいな...」
そう言ってユノは、ふっと息を吹きかける。
「ひゃん」
「剃っても、いい?」
「は!?」
「いやがる女子も多いらしいよ、毛深い男って」
「え!」
「胸毛はないくせに、へそ毛はもじゃもじゃだなんて、アンバランスじゃん。
剃ってつるつるにしようぜ」
「嫌だ。
女子にどう思われるかなんて、僕には関係ないもん」
そう答えつつも、下腹が泡で覆われ、ユノによって剃刀の刃が当てられる光景を思い浮かべると、妙に興奮してしまうチャンミンだった。
「なんで?」
「女の子なんてっ...興味、ないから」
「本当か?」
「そうだよ!」
(興味があるのは、ユノだけなんだから!)
「チャンミンの部屋にAVのDVDあったじゃん」
「嘘!?」
「嘘。
なかった」
「もー!
びっくりするじゃないか!
僕んちにはプレイヤーがないんだから、観られるわけないんだからな!」
「じゃあ、肴は何使ってるの?」
「......」
「教えろよ」
「言えない」
「『男色の歴史』か?」
「馬鹿ぁ!
違うよ!」
「じゃあ、何?」
「......ユノ」
「え!?
マジで?」
「悪いか」
「俺とやってるとこ想像して抜いてたわけ?」
「...うん」
「俺に挿れられて?」
「......」
「がんがんに突かれてるとこを?」
「......」
「そうなのか?」
「......」
「まさか...俺を『受け身』にしてたんじゃないだろうな!?」
「...正解」
「信じらんねーよ!」
「だって、受け身の気持ちなんて想像できないよ。
お尻をいじってみたけど、どこがいいのか分かんなかったし...」
「はしたないチャンミンに、お仕置きをしてやんないとな」
そう言ったユノは、中断していた視姦を再開する。
毛筋を辿って下っていくと、大本命の箇所に到達した。
チャンミンの黒々とした茂みの中で屹立するものが、ぴくぴくと上下に揺れている。
「...はぁ...はぁ...」
先端から透明な粘液が溢れ出て、今にも床に垂れ落ちそうだ。
満足そうに微笑んだユノは、やおら立ち上がった。
「ユノ...?」
身体をいじられることなく、あっさりと解放されてチャンミンは拍子抜けしてしまう。
ユノは大股で窓まで近づくと、勢いよくカーテンを開けた。
そして、チャンミンを振り返るとにやりと笑った。
「!!!」
煌々と明るい室内で、全裸で突っ立っている自分の姿が窓ガラスに映し出されている。
「チャンミン...いやらしいなぁ。
素っ裸だよ?
しかも、なぜか長靴だけ履いてんの」
「っ!」
チャンミンは両手で股間を覆い隠す。
手の平を、たっぷりと分泌された粘液が濡らす。
(なんて恥ずかしいんだ!)
「駄目だって、ちんちん隠したら」
「だって...恥ずかしい...」
(恥ずかしくてたまらないのに、どうして僕のモノはますます元気になるんだ?)
チャンミンは勃起したものをつかんで、下方へ曲げる。
「触ってあげないよ」
「それは...ヤダ」
「じゃあ、その手を離して」
「......」
手を離すと、抵抗を失ったチャンミンのペニスがバネのように正面を向いた。
「触って欲しい?」
「...うん」
「何を触って欲しい?」
「僕の...あそこを...」
「......」
「僕のっ...おちんちんを」
「よく言えたね。
正直が一番だぞ」
ユノに褒められ、頭を撫ぜられ、チャンミンの心は幸福感で満たされる。
(なんだろ...こんな気分)
ユノはチャンミンの背後に回り、彼の肩にあごを乗せて耳元で囁く。
「チャンミン、気付いてる?
外から丸見えなんだよ?」
「わっ!」
「おーっと、ちんちんを隠すなって。
大丈夫だって、向かいはどっかの事務所だから、誰もいないよ」
ユノの住むマンションの真横にはビルが建っており、ユノの部屋の正面は設計事務所が入居している。
「でもさ、誰かが残業してるかもね」
「電気点いてないし...」
「従業員の誰かがさ、忘れ物をとりに戻ってくるかもしれないじゃん。
あ、警備員さんが巡回にくるかもね。
でさ、ふと外を見たら、ふるちん男が立ってるの。
で、長靴だけ履いてるの」
「...っ...」
ユノに煽られているうち、チャンミンは妄想の世界に沈んでいく。
「びっくり仰天だねぇ。
でもさ、そのふるちん男があまりにもいい男でさ」
ユノはチャンミンの顎を撫ぜ、もう片方の手を下腹を撫ぜ、指先でへそをくすぐる。
「っん...」
「それに、めちゃくちゃ勃起させてんの...こんな風に」
チャンミンの脇腹を撫ぜ上げ、撫ぜおろす度、チャンミンの肌が痙攣する。
「...っうん...はぁ...」
「しかもさ、ふるちん男は、もう一人の男に後ろから突かれてるわけ。
ガンガンに突かれてるんだ。
ふるちん男はもう、よだれ出して、イっちゃってる顔をしてるんだ。
おーっと、チャンミン!
ちんちんを触ったら駄目だ」
ユノの語る妄想図に引き込まれていくうちに、チャンミンの手は自然と股間に伸びていたのだった。
「警備員のおじさんも興奮してきてさ。
ふるちん男と目が合うのさ。
ふるちん男...チャンミンは、おじさんに見られていると知って、興奮すんの」
「あ...はぁはぁ...はぁ...はぁ...」
チャンミンの呼吸が早くなってきた。
「チャンミンのちんちんはもっとデカくなっちゃって、自分でしごき出すんだ。
後ろからは、俺にパンパン突かれてて、ケツの中は気持ちいいし、前も気持ちいいしで、ひーひー言ってんの」
チャンミンを煽っているユノの股間も、欲望で熱くなってきていた。
「脚はガクガクでさ、声なんか出まくりなんだ。
『ユノ!もっと激しく!』って。
『ユノ!イイよー』って。
納期が迫ってて泊まり込みの社員が(疲れ果てて仮眠してたっていう設定だ)起き出してきてさ。
守衛さんに気付いて、『どうしたんですか?』って質問してさ。
守衛さんの指さす方を見たら、隣のマンションでエッチの真っ最中。
チャンミンは窓におでこくっつけて、その時には自ら腰を振ってんの。
『おい、あれを見ろよ』ってその社員さんは仲間を呼ぶんだ(ほかにも泊まり込みの社員がいたっていう設定だ)
でさ、チャンミンは20人というギャラリーの前で、俺とのエッチを披露するんだ。
見られてると思うと、ますます興奮してさ。
『僕の恥ずかしい姿を、見ず知らずの人たちに見られてる!』って」
ここまで一気に話し終えると、ユノは窓ガラスに映るチャンミンと目を合わす。
「困ったね、チャンミン?」
チャンミンは顎を上げ、口は浅く開かれ、潤んだ瞳には恍惚の光をたたえている。
ぴくぴくと痙攣するチャンミンの先端からは、とめどなく滴り落ちている。
(おいおいおいおい。
チャンミンよ...俺の言葉攻めだけで、感じてるじゃないか...。
予想通り、チャンミンは羞恥プレイがお好みのようだし。
俺の妄想力も凄かったが、チャンミン+長靴の破壊力は凄かった...はあ...)
「...ユノっ」
チャンミンは上ずった声で、ユノを呼ぶ。
「ん?」とチャンミンを覗き込むと、ぐいっと手首をつかまれてチャンミンの尻の方へ導かれた。
「挿れて...」
「...挿れるって...指をか?」
「違う...ユノのモノを挿れて欲しんだ」
「まだ早いって。
指2本がやっとだろ?
慣れていないんだから、入らないって」
「入らないかどうかは、やってみないと分かんないじゃないか!」
チャンミンはベッドに両手を突くと、腰を突き出した。
(チャンミンの中の、エロのスイッチを入れてしまったか!?)
「だって、今日の僕、一度もイッてないし...。
気持ちよくなりたいっ!」
切羽詰まった言い方に、ユノは「わかったよ」と頷き、枕元に置いたままだったコンドームの箱に手を伸ばす。
「まだそれほど、気持ちよくないんだろ?
無理にやんなくていいんだからさ」
「慣れていないからだよ。
それに...ちょっとだけ、気持ちよかったんだ」
「マジで?」
「うん。
あれが気持ちいいことなのか分かんないけど、多分...気持ちよかったんだ」
(確かに、チャンミンは反応していたな。
今夜はここまで進展する予定じゃなかったんだけどな...。
果たして出来るのかなぁ。
あんなにぎゅうぎゅうに締め付けられたら、気持ちいいどころか痛いかもしれない...)
先ほどの指の感触を思い出し、ぞっとしたユノだった。
さらに、視線を床に転じた際、チャンミンの長靴が目に飛び込んできてしまって、その滑稽な姿にぐぐっと笑いが込みあげてきてしまうのだ。
(俺がウケてしまうのは、長靴を履き続けていることなんだ。
なぜ脱がない?
履いてることを忘れてるのか?
さんざん恥ずかしい思いをしたんだろ?
そっか。
チャンミンは羞恥プレイで燃える質なんだ、絶対に)
「挿れるぞ?」
しごいて十分な固さまで育てたものを、チャンミンの後ろの入り口にあてがう。
「っんん...」
根元に手を添えて、肛門周りを円を描くように亀頭を滑らせた。
敏感な箇所をぬるつくもので刺激されて、それだけでチャンミンから切なげな声が漏れるのだ。
ところが、チャンミンの扉は固く閉ざされたままで、ほんの1ミリも受け入れる様子はない。
「無理だ、入んねぇ」
「そんなっ...」
ユノは指先と自身の先端のサイズを見比べてみる。
(入る気が全然しねぇ...。
無理やりねじこめばイケるかもしれない...でも、そんなことしたらチャンミンを怪我させてしまうよなぁ)
「チャンミン...今日は止めておこう」
「なんで!?」
「今の俺は手っ取り早く、ぴゅーっとしたいんだ。
チャンミンもそうだろう?」
「...うん」
「焦らずにいこうぜ、って、いっつも言ってるだろ?」
「うん」
「ケツの穴にこだわってるから、流れが中断するんだ。
今はもう...」
ユノはチャンミンの肩をつかんでこちらを向かせ、そのままベッドに押し倒す。
「チャンミンと一緒にイキたい。
お前のイッてる顔が見たい」
「ユノ...」
「リアルセックスは牧場でヤろうぜ」
ユノは自身のものとチャンミンのものとをまとめてしごき出す。
「っん...」
ユノの唇を受け止めながら、チャンミンはこくりと頷いたが、
「牧場!?」
「そうさ。
大牧場の草むらの中でさ、何十頭ものホルスタインに見守られながら、ヤろうぜ」
「ヤダよ」
「そんときは俺も長靴履いてっから、お揃いだし、いいだろ?」
「むぅ...」