(16)秘密の花園

 

 

 

ユノのぎらついた視線にロックオンされたチャンミンは、身動きできずにいた。

社交術に長けているユノの涼し気な目元は、感情の読み取りにくいポーカーフェイスなものだ。

真っ先に感情が顕われてしまうチャンミンのものとは、性格が真逆だった。

不安定に揺れていた自身の焦点が、ユノの漆黒の瞳に捕らえられて、あっという間に恋に落ちた。

だから、チャンミンには分かる。

今のユノの瞳に、欲望の炎がめらめらとしていることを。

 

(...どうにかされちゃうのかな...)

 

逃げ出したい気持ちが3分の1。

襲われたい気持ちが3分の1。

ユノとどろどろにまみれあいたい気持ちが3分の1。

 

「チャンミン...いやらしい...」

 

股間を隠していたチャンミンの手が払いのけられた。

抵抗もせず両腕を脇に落としたチャンミンに、ユノはくすりと笑う。

チャンミンが何を期待しているのか、手を取るように分かったから。

ユノは視線だけで、チャンミンの身体のパーツをスキャンしていく。

 

(ガチな顔をしちゃって...可愛いんだから)

 

「チャンミン...」

 

指をそっとチャンミンの唇に触れる。

上気した肌は熱を帯びていて、うっすらと開いた唇からは、浅くて速い呼吸音が。

ねじ込まなくてもユノの指は、チャンミンの口内に迎い入れられた。

チャンミンの熱い舌が人差し指に絡みつくが、ユノはすっと指を引いてしまった。

あごから喉元、鎖骨へと...チャンミンの喉仏がこくりと上下した...視線を移す。

 

「チャンミン...裸で長靴履いちゃって...どこへ出かけるつもりだった?」

 

「サイズが合うかどうか...試着しただけだよ...!」

 

ユノの焦点が、左胸の乳首に合っている。

 

(見られているだけで...むずむずする...)

 

「ホントに、それだけ?」

 

(...舐めて欲しい...おっぱいを舐めて欲しい)

 

チャンミンの乳頭が小さく尖ってきた様子に、ユノは満足する。

 

「びんびんじゃん、チャンミン。

やらしいなぁ」

 

「そんなこと、ないっ...」

 

(舐めてやるもんか)

 

歯を当てたくなるのを、ユノは堪える。

 

「どうして服を着なかったわけさ?」

 

「着ようとしてたよ。

でも、ユノが長靴を履いて欲しい、って言うから...」

 

「へぇ」

 

ユノの焦点が下へと移動していくのにあわせて、チャンミンの下腹が波打った。

 

「へそ毛がすごいな...」

 

そう言ってユノは、ふっと息を吹きかける。

 

「ひゃん」

 

「剃っても、いい?」

 

「は!?」

 

「いやがる女子も多いらしいよ、毛深い男って」

 

「え!」

 

「胸毛はないくせに、へそ毛はもじゃもじゃだなんて、アンバランスじゃん。

剃ってつるつるにしようぜ」

 

「嫌だ。

女子にどう思われるかなんて、僕には関係ないもん」

 

そう答えつつも、下腹が泡で覆われ、ユノによって剃刀の刃が当てられる光景を思い浮かべると、妙に興奮してしまうチャンミンだった。

 

「なんで?」

 

「女の子なんてっ...興味、ないから」

 

「本当か?」

 

「そうだよ!」

 

(興味があるのは、ユノだけなんだから!)

 

「チャンミンの部屋にAVのDVDあったじゃん」

 

「嘘!?」

 

「嘘。

なかった」

 

「もー!

びっくりするじゃないか!

僕んちにはプレイヤーがないんだから、観られるわけないんだからな!」

 

「じゃあ、肴は何使ってるの?」

 

「......」

 

「教えろよ」

 

「言えない」

 

「『男色の歴史』か?」

 

「馬鹿ぁ!

違うよ!」

 

「じゃあ、何?」

 

「......ユノ」

 

「え!?

マジで?」

 

「悪いか」

 

「俺とやってるとこ想像して抜いてたわけ?」

 

「...うん」

 

「俺に挿れられて?」

 

「......」

 

「がんがんに突かれてるとこを?」

 

「......」

 

「そうなのか?」

 

「......」

 

「まさか...俺を『受け身』にしてたんじゃないだろうな!?」

 

「...正解」

 

「信じらんねーよ!」

 

「だって、受け身の気持ちなんて想像できないよ。

お尻をいじってみたけど、どこがいいのか分かんなかったし...」

 

「はしたないチャンミンに、お仕置きをしてやんないとな」

 

そう言ったユノは、中断していた視姦を再開する。

 

毛筋を辿って下っていくと、大本命の箇所に到達した。

 

チャンミンの黒々とした茂みの中で屹立するものが、ぴくぴくと上下に揺れている。

 

「...はぁ...はぁ...」

 

先端から透明な粘液が溢れ出て、今にも床に垂れ落ちそうだ。

 

満足そうに微笑んだユノは、やおら立ち上がった。

 

「ユノ...?」

 

身体をいじられることなく、あっさりと解放されてチャンミンは拍子抜けしてしまう。

 

ユノは大股で窓まで近づくと、勢いよくカーテンを開けた。

 

そして、チャンミンを振り返るとにやりと笑った。

 

「!!!」

 

煌々と明るい室内で、全裸で突っ立っている自分の姿が窓ガラスに映し出されている。

 

「チャンミン...いやらしいなぁ。

素っ裸だよ?

しかも、なぜか長靴だけ履いてんの」

 

「っ!」

 

チャンミンは両手で股間を覆い隠す。

手の平を、たっぷりと分泌された粘液が濡らす。

 

(なんて恥ずかしいんだ!)

 

「駄目だって、ちんちん隠したら」

 

「だって...恥ずかしい...」

 

(恥ずかしくてたまらないのに、どうして僕のモノはますます元気になるんだ?)

 

チャンミンは勃起したものをつかんで、下方へ曲げる。

 

「触ってあげないよ」

 

「それは...ヤダ」

 

「じゃあ、その手を離して」

 

「......」

 

手を離すと、抵抗を失ったチャンミンのペニスがバネのように正面を向いた。

 

「触って欲しい?」

 

「...うん」

 

「何を触って欲しい?」

 

「僕の...あそこを...」

 

「......」

 

「僕のっ...おちんちんを」

 

「よく言えたね。

正直が一番だぞ」

 

ユノに褒められ、頭を撫ぜられ、チャンミンの心は幸福感で満たされる。

 

(なんだろ...こんな気分)

 

ユノはチャンミンの背後に回り、彼の肩にあごを乗せて耳元で囁く。

 

「チャンミン、気付いてる?

外から丸見えなんだよ?」

 

「わっ!」

 

「おーっと、ちんちんを隠すなって。

大丈夫だって、向かいはどっかの事務所だから、誰もいないよ」

 

ユノの住むマンションの真横にはビルが建っており、ユノの部屋の正面は設計事務所が入居している。

 

「でもさ、誰かが残業してるかもね」

 

「電気点いてないし...」

 

「従業員の誰かがさ、忘れ物をとりに戻ってくるかもしれないじゃん。

あ、警備員さんが巡回にくるかもね。

でさ、ふと外を見たら、ふるちん男が立ってるの。

で、長靴だけ履いてるの」

 

「...っ...」

 

ユノに煽られているうち、チャンミンは妄想の世界に沈んでいく。

 

「びっくり仰天だねぇ。

でもさ、そのふるちん男があまりにもいい男でさ」

 

ユノはチャンミンの顎を撫ぜ、もう片方の手を下腹を撫ぜ、指先でへそをくすぐる。

 

「っん...」

 

「それに、めちゃくちゃ勃起させてんの...こんな風に」

 

チャンミンの脇腹を撫ぜ上げ、撫ぜおろす度、チャンミンの肌が痙攣する。

 

「...っうん...はぁ...」

 

「しかもさ、ふるちん男は、もう一人の男に後ろから突かれてるわけ。

ガンガンに突かれてるんだ。

ふるちん男はもう、よだれ出して、イっちゃってる顔をしてるんだ。

おーっと、チャンミン!

ちんちんを触ったら駄目だ」

 

ユノの語る妄想図に引き込まれていくうちに、チャンミンの手は自然と股間に伸びていたのだった。

 

「警備員のおじさんも興奮してきてさ。

ふるちん男と目が合うのさ。

ふるちん男...チャンミンは、おじさんに見られていると知って、興奮すんの」

 

「あ...はぁはぁ...はぁ...はぁ...」

 

チャンミンの呼吸が早くなってきた。

 

「チャンミンのちんちんはもっとデカくなっちゃって、自分でしごき出すんだ。

後ろからは、俺にパンパン突かれてて、ケツの中は気持ちいいし、前も気持ちいいしで、ひーひー言ってんの」

 

チャンミンを煽っているユノの股間も、欲望で熱くなってきていた。

 

「脚はガクガクでさ、声なんか出まくりなんだ。

『ユノ!もっと激しく!』って。

『ユノ!イイよー』って。

納期が迫ってて泊まり込みの社員が(疲れ果てて仮眠してたっていう設定だ)起き出してきてさ。

守衛さんに気付いて、『どうしたんですか?』って質問してさ。

守衛さんの指さす方を見たら、隣のマンションでエッチの真っ最中。

チャンミンは窓におでこくっつけて、その時には自ら腰を振ってんの。

『おい、あれを見ろよ』ってその社員さんは仲間を呼ぶんだ(ほかにも泊まり込みの社員がいたっていう設定だ)

でさ、チャンミンは20人というギャラリーの前で、俺とのエッチを披露するんだ。

見られてると思うと、ますます興奮してさ。

『僕の恥ずかしい姿を、見ず知らずの人たちに見られてる!』って」

 

ここまで一気に話し終えると、ユノは窓ガラスに映るチャンミンと目を合わす。

 

「困ったね、チャンミン?」

 

チャンミンは顎を上げ、口は浅く開かれ、潤んだ瞳には恍惚の光をたたえている。

ぴくぴくと痙攣するチャンミンの先端からは、とめどなく滴り落ちている。

 

(おいおいおいおい。

チャンミンよ...俺の言葉攻めだけで、感じてるじゃないか...。

予想通り、チャンミンは羞恥プレイがお好みのようだし。

俺の妄想力も凄かったが、チャンミン+長靴の破壊力は凄かった...はあ...)

 

「...ユノっ」

 

チャンミンは上ずった声で、ユノを呼ぶ。

「ん?」とチャンミンを覗き込むと、ぐいっと手首をつかまれてチャンミンの尻の方へ導かれた。

 

「挿れて...」

 

「...挿れるって...指をか?」

 

「違う...ユノのモノを挿れて欲しんだ」

 

「まだ早いって。

指2本がやっとだろ?

慣れていないんだから、入らないって」

 

「入らないかどうかは、やってみないと分かんないじゃないか!」

 

チャンミンはベッドに両手を突くと、腰を突き出した。

 

(チャンミンの中の、エロのスイッチを入れてしまったか!?)

 

「だって、今日の僕、一度もイッてないし...。

気持ちよくなりたいっ!」

 

切羽詰まった言い方に、ユノは「わかったよ」と頷き、枕元に置いたままだったコンドームの箱に手を伸ばす。

 

「まだそれほど、気持ちよくないんだろ?

無理にやんなくていいんだからさ」

 

「慣れていないからだよ。

それに...ちょっとだけ、気持ちよかったんだ」

 

「マジで?」

 

「うん。

あれが気持ちいいことなのか分かんないけど、多分...気持ちよかったんだ」

 

(確かに、チャンミンは反応していたな。

今夜はここまで進展する予定じゃなかったんだけどな...。

果たして出来るのかなぁ。

あんなにぎゅうぎゅうに締め付けられたら、気持ちいいどころか痛いかもしれない...)

 

先ほどの指の感触を思い出し、ぞっとしたユノだった。

 

さらに、視線を床に転じた際、チャンミンの長靴が目に飛び込んできてしまって、その滑稽な姿にぐぐっと笑いが込みあげてきてしまうのだ。

 

(俺がウケてしまうのは、長靴を履き続けていることなんだ。

なぜ脱がない?

履いてることを忘れてるのか?

さんざん恥ずかしい思いをしたんだろ?

そっか。

チャンミンは羞恥プレイで燃える質なんだ、絶対に)

 

「挿れるぞ?」

 

しごいて十分な固さまで育てたものを、チャンミンの後ろの入り口にあてがう。

 

「っんん...」

 

根元に手を添えて、肛門周りを円を描くように亀頭を滑らせた。

敏感な箇所をぬるつくもので刺激されて、それだけでチャンミンから切なげな声が漏れるのだ。

ところが、チャンミンの扉は固く閉ざされたままで、ほんの1ミリも受け入れる様子はない。

 

「無理だ、入んねぇ」

 

「そんなっ...」

 

ユノは指先と自身の先端のサイズを見比べてみる。

 

(入る気が全然しねぇ...。

無理やりねじこめばイケるかもしれない...でも、そんなことしたらチャンミンを怪我させてしまうよなぁ)

 

「チャンミン...今日は止めておこう」

 

「なんで!?」

 

「今の俺は手っ取り早く、ぴゅーっとしたいんだ。

チャンミンもそうだろう?」

 

「...うん」

 

「焦らずにいこうぜ、って、いっつも言ってるだろ?」

 

「うん」

 

「ケツの穴にこだわってるから、流れが中断するんだ。

今はもう...」

 

ユノはチャンミンの肩をつかんでこちらを向かせ、そのままベッドに押し倒す。

 

「チャンミンと一緒にイキたい。

お前のイッてる顔が見たい」

 

「ユノ...」

 

「リアルセックスは牧場でヤろうぜ」

 

ユノは自身のものとチャンミンのものとをまとめてしごき出す。

 

「っん...」

 

ユノの唇を受け止めながら、チャンミンはこくりと頷いたが、

 

「牧場!?」

 

「そうさ。

大牧場の草むらの中でさ、何十頭ものホルスタインに見守られながら、ヤろうぜ」

 

「ヤダよ」

 

「そんときは俺も長靴履いてっから、お揃いだし、いいだろ?」

 

「むぅ...」