「チャンミン!
服もらってきたぞ」
「おかえりー」
夕食の準備をしていたチャンミンは、大きな紙袋をさげたユノの首にかじりついた。
「く、くるしぃぃ」
ユノはがっちりと首に巻き付いたチャンミンの腕を叩く。
(チャンミンの愛情表現は激しい。
外ではおとなしい顔をしてて、2人きりになった途端、豹変するんだから)
「ごめん...ん?
その袋は何?」
「ああ、洋服だ。
チャンミンのために貰ってきた。
うちのバイヤーが仕入れてきたサンプル品なんだ」
紙袋を逆さにしてどさっと中身を落とすユノに、チャンミンは「ユノは思い切りがよくて、大胆だ」と心の中でつぶやき、慎重派で優柔不断気味の自分と正反対だ、と思った。
「こんなにいっぱい、ただで貰えるんだ」
サンプル品のため、日常使いしづらい色柄ものや、トップスなのかボトムスなのか判別できない奇天烈なデザインのものばかりで、
「どれも僕にはとても、着こなせないよ」
「チャンミンはスタイルがいいから、大丈夫だって。
これなんかどうだ?」
「うーん...」
学生時代のショップ店員のバイトをしていたユノは、卒業後、請われてそのアパレルブランドに就職したのだった。
現在はMDとして全国各地を出張する忙しい身で、留守番役のチャンミンは寂しい思いをしていた。
(手足が長くてスリム体型だから、ユノは何を着ても似合う。
いつもお洒落で、カッコよくて...。
ユノが遠い存在になっていくみたいだ)
エプロンを付けた自分を見下ろしていると、「着てみ」とユノから洋服のひとつを手渡された。
「セーター?」
ニット素材のそれを広げてみると、長い。
非常に長い。
「セーター、じゃないね。
腕が...ない...ってことは、ベスト?
あれ?
...ベスト、でもない。
マフラーにしては、大きいよね。
ねぇ、ユノ、これ何なの?」
ユノの切れ長の目が細くなって、口角がきゅっと上がった。
いやな予感がしたチャンミンは、後退りする。
「やだ!」
(絶対に、エロいことをさせるつもりだ!)
「まだ何もしていないだろう?
ひどいなぁ、チャンミン」
ユノはチャンミンの頭をポンと叩いて、
「久しぶりに一緒に風呂に入ろうか?」と誘う。
「へ?」
「今週はずっと出張でいなかったからな。
チャンミンが恋しくて仕方がなかったよ。
先に行ってて、俺も追いかけるから。
ほら!
脱いだ脱いだ」
「う、うん」
ユノに急かされ、チャンミンはエプロンを外す。
バスルームに向かうチャンミンの後ろ姿を見送ったユノは、30秒待ってそっと脱衣所を覗いた。
浴室からシャワーの音が聞こえる。
「よし」
ユノは、チャンミンが脱いだ洋服、下着を回収する。
端をびしっと揃えて積まれたバスタオルとタオルも回収する。
そして、チャンミンが「何、これ?」と首をかしげていたニット素材のものを、洗濯機にひっかけておく。
「うーん...」
しばし考えた末、「やり過ぎは可哀想だな」と、ハンドタオルを1枚だけ浴室ドアの前にひらりと置く。
「ユノ―!
まだぁ?」
「悪い!
やっぱ、俺、メシの後にするわ」
「ええぇぇ!
そんなぁ...。
それなら、僕も夕飯の後にしたのに...」
チャンミンの不服そうな声に、ユノはニヤリとしてしまう。
「早く出てこいよ」
「わかった」
・
「ユノ!!!」
チャンミンの大声に、ユノは腹を抱えてくつくつ笑いを堪えていた。
「僕の服は!?
バスタオルもない!」
「タオルならそこにあるだろ?」
「こんなハンカチみたいなタオルじゃ、身体が拭けないよ!」
「バスタオルならこっちにあるから、裸で出てこいよ」
「恥ずかしいから、ヤダ!
ユノ!
パンツを持ってきてよ!」
(付き合って何年にもなるのに、チャンミンは恥ずかしがり屋なんだよなぁ)
「やなこった。
服なら、そこに用意しておいたから、それ着て出てこいよ。
絶対にチャンミンに似合うから」
「...ユノ。
これってどうやって着るの?
巻くの?」
「真ん中の穴に頭を通すんだ。
脇を縫っていないベストみたいなもんさ。
『バイオハザード』でアリスが捕らわれて、白い布切れを着ていただろ。
前と後ろだけ隠れる。
あんな風だって」
「......」
ユノは、バスルームから出てくるチャンミンを今か今かと待つ。
「...ユノ」
床に座ったユノの視界に、水を滴らせた素足が飛び込んできた。
見上げると、巨大なマフラーを縦に垂らした格好のチャンミンが...。
熱いシャワーで上気した頬で、口をへの字にして、じとっとした睨み目でユノを見下ろしている。
「チャンミン...よく似合ってる」
「ユノ...一緒に風呂に入ろうって...僕をだましたな」
(まさか、本当に着てくるとは思わなかった。
冷静に眺めると滑稽な格好だが...滑稽だが...。
うん、なかなかいい眺めだ)
ユノはうっとりと見惚れる表情になり、立ち上がるとチャンミンの背後にまわった。
・
~ユノ~
「こっちにおいで」
チャンミンの肩をつかんでくるりと回転させて、リビングに置いた姿見に映す。
「!」
俺の間近のチャンミンの耳がさらに真っ赤になった。
「似合ってる...それに...すごく、セクシーだよ」
吐息が耳にかかり、チャンミンはぶるっと震え、首筋が粟立った。
片腕でチャンミンの肩を抱き、もう片方の手で身体のラインに沿って撫でおろした。
「んっ...」
ニットはチャンミンの身体の前面と背中を隠しているが、両脇はすっかり開いている。
その切れ目から手が忍び込ませ、チャンミンの下腹の筋肉をひとつひとつ確かめるようになぞった。
「ん...」
柔らかなタッチに、への字に口角を下げていたチャンミンの口が半開きになってくる。
「あ...」
チャンミンは、鏡に映る自身の恍惚とした表情と、ニットの下でうごめく俺の手の動きから目が離せないようだ。
チャンミンの肩を抱いていた手を離すと、反対側の切れ目から手を滑らせた。
胸の方へ撫ぜ上げていくと、指先に小さく固くなった突起に触れる。
「やっ...」
中指の腹で転がすと、さらに固く尖ってきた。
「あん...」
出た、チャンミンの女っぽい喘ぎ。
そういえば、ここ数年は女の子とヤッてないなぁ、と思ったりして。
チャンミンは乳首攻めが大好物なんだ(指摘すると、大抵真っ赤になって否定する)。
そして、この可愛らしい突起がチャンミンをメロメロにするスイッチなんだ。
俺だけが知っている。
鏡に視線を移してみると、あごを上げて潤んだ目をしたチャンミンと目が合う。
チャンミンと目を合わせたまま首筋に唇をつけ、軽く吸い付いた。
「あっ...」
愛撫するだけだった乳首を、ぎゅっと摘まむと、
「ひぃっ...」
チャンミンの膝がかくんと揺れたため、片腕で腰を支えてやる。
俺の舌は、チャンミンの髪からしたたるシャンプーの香りがする水滴と、チャンミンの汗を味わっていた。
「チャンミン...えっちだなぁ」
「え...?」
チャンミンの腰の中心がニットの一部を押し上げている。
恥ずかしくて仕方がないチャンミンは目を反らしたが、意地悪な俺はそれを許さない。
顎をつかんで、正面を向かせた。
「えっちな自分をしっかり見ないといけないだろう?」
「っや...恥ずかしい」
ニットの下から手を抜いて、今度は生地の上からその部分を爪先でひっかいた。
「っあ...」
「この服って、エロいよなぁ。
俺に触られるための服だよなぁ、チャンミン?
気に入った?」
生地ごと摘まむように上下にこする。
ニットの荒い生地が、敏感な部分を刺激する。
「う、うん...。
もっと...」
「もっと...何を?」
「触って...強く...」
指先はじわりと湿り気を帯びてきたのを知る。
「どこを?
チャンミンが教えてくれないと、わかんないよ」
低い声音でささやいて、チャンミンの耳たぶを咥えた。
「ここ」
チャンミンは俺の手首をつかむと、ニットに隠された勃起したものへと導いた。
強引に握らされたそれは、手の平の下で脈々として、熱く固い。
「ずるいなぁ。
チャンミンばっかり。
俺の方の面倒はみてくれないの?」
なんて言ったけど、俺の方もチャンミンに負けず劣らず、といったところだ。
二人の身体の向きを90°変えたら、ぴたりと身体を重ねた様が鏡に映し出された。
チャンミンが着ているものは前と後ろだけを隠しているだけだから、脇腹から腰、脚まで丸見えだ。
だけども、肝心なものは前も後も見えなくて、余計にそそられる。
チャンミンの尻を覆っていた部分を、背中の方へ跳ね上げた。
チャンミンの固く引き締まった小さな尻が露わになった。
こんな服...裸みたいなものだ。
いや、裸よりエロチックだ。
チャンミンの背を押して前かがみにさせ、自身のベルトを外しにかかる。
「おっ」
チャンミンの長い片手が伸びてきて、後ろ手にもかかわらず器用に俺のパンツのファスナーを下ろした。
さらにチャンミンは深くかがんで、鏡の脇に置いたボトルを取って俺に手渡す。
ここまで用意万端なのは、俺たちがいつでもどこでも愛し合えるように。
(ずっと以前、ナシでやったらチャンミンを怪我させてしまって、それ以来、絶対に使うようにしている。
この点、男同士だと不便だと思う)
チャンミンの尻の割れ目に沿って垂らしたそれを、たっぷりと指に絡めた。
・
・
・
「ひゃっ...!」
「きつ...いっ...」
「んーっ」
「そっか...久しぶりだったからな...、うっ」
「ユノ...、奥まで...もっと...」
「んっ...これ...以上、入らねぇ...」
「あっ...もっと...」
「チャンミン、ケツの力抜けったら」
「う...ん...ひっ...」
「こら!
挿れたまま、動くな!
こらっ!」
「...これなら、どう?」
「前向きはやりずらいんだよ...ほら、もっと脚持ち上げろ」
「あぁぁぁ...いい、いいよ、ユノ!」
「ふっ...ん」
「キス...キスして、ユノ...」
「んー」
「好き、ユノ。
好き...」
「ふっ...」
「...聞こえない...。
ユノの『好き』が聞こえないよぉ...あん...」
「好きだよっ...はっ...」
「好き...ユノ、好きー...」
「こらっ!
脚をゆるめろ!
これじゃあ...うっ...動かせないだろっ...!」
・・・
履きなれない革靴が、柔らかな芝生を交互に踏みつける。
ステッキを握った手の甲に、チャンミンの手が重なった。
「こんな格好じゃなけりゃ、夜のアウトドア・セックスしてたのにな」
「虫に刺されそうだから、それはヤダなぁ」
「そこ?
チャンミンの気にするとこって、そこなわけ?」
「ユノはいいけどさ、僕の場合はお尻丸出しになるわけでしょ?」
「俺だったら、誰かに見られるかもしれない、ってことを気にするけどなぁ。
...そっか!
チャンミンは、誰かに見られながらヤルのが好きだったんだ。
鏡の前くらいで、あれだけ興奮するくらいだからなぁ?」
「......」
「怒るなって。
とっとと家に帰ろうぜ」
「え?
途中で抜け出していいの?」
「いいって。
俺たちみたいな庶民が2人ばかり消えたって、だーれも気づかないさ」
「ふふふ。
そうだね」
「チャンミン。
またアレを着てくれよ」
「えー」
「アレを着たチャンミン...すげぇ、よかった」
「気が進まないなぁ」
「チャンミンを触りたい放題だし」
「......」
「あんな恥ずかしい恰好...」
「次はユノが着てよ」
「やなこった。
前の布が邪魔だろ、俺の場合?」
「僕の場合だって、邪魔じゃないか!」
「あー、確かに。
でもさ、ぺろってめくればいいことじゃん」
「言っとくけどな、アレはエロ用じゃないんだぞ?
れっきとしたブランドものなんだ。
うまく着こなせば、ファッショナブルな服なんだぞ」
「ホントかなぁ?」
「ふふん。
実はアレに合わせるズボンもあるのだ」
「ユノ!
隠しているなんてひどいよ!
裸んぼうでアレを着せるなんて...恥ずかしいよ」
(おしまい)