恋人たちのゆーふぉりあシリーズ
女の子って不思議な生き物だ。
彼女たちの感想とは、なんでもかんでも『可愛い』で済ませてしまえるのだ。
くすくす笑っていたかと思うと、俺を置いてずんずんと先を歩いていってしまう。
何か機嫌を損ねるようなことを口にしてしまったのか?と首を捻っていると、今度は泣き出すのだ。
柔らかくていい香りがして、大抵は俺よりも背が低いから、「どう?」と俺の反応を欲しがって見上げられると、胸がきゅんとしてしまうのも事実。
確かに彼女たちは可愛い。
下心を隠してこうして隣にいるのだけれど...楽しいのは確かなんだけどなぁ。
何か違うんだよなぁ。
女の子と付き合いたい理由ってなんだろう?
...などと、俺はぼんやりと考えていた。
・
「ユノ君の番だよ」
どんっと背中を叩かれたせいで、手にしたジュースを膝にこぼしてしまった。
ムカッとしたけど、ここは堪える。
「一緒にいて嬉しいの、こんな風にふざけてる私って可愛いでしょ?」って、言いたいのか?
俺の背中にもたれた俺の彼女Aは、首にしがみついてぐらぐらと俺を揺する。
「やめろって!」
人前での過剰なスキンシップは嫌いではないが、今日の俺は不快に感じてしまう。
一度目につくと、Aのやることなすこと全て、ささいなことが気に障ってくる。
そして、苛立つ自分にも苛立つ。
好きで付き合っているんだ、イライラするのなら一緒にいなければいいじゃないか、って。
彼女を作ること自体が、俺には向いていないのかなぁ。
とは言え、『彼女』ナシの生活は味気なく寂しいと思うのだ。
Aとの交際に意味や理由を求めたり、疑問を持つようになったのは、昨日あたりからのこと。
きっかけ...みたいなものはあった。
あいつの存在のせいだ。
・
春休みに突入していた。
車で3時間程の観光地に2泊3日、俺たち4人はやってきていた。
昨日から、いわゆる『Wデート』とやらをしていた。
俺の彼女Aの友人Dに最近、彼氏が出来たのだとか。
その彼氏とやらは奥手過ぎて、交際1か月も経つのにキスどまりなんだとか。
(加えて、そのキスもやみくもに口内を探るだけの、お粗末なものなんだとか)
関係を深めたい...要するにセックスまで進んでしまいたい。
Dの彼氏も可哀想に...そんなデリケートなことまで、俺に知られてしまって。
「旅行に一緒にいこうよ、4人で。
お泊りすれば、エッチしないわけにはいかないでしょ?」
「よく知らない奴と旅行なんてなぁ...」
全く気乗りしなかった。
「Dちゃんとその彼氏2人だけで、泊りがけの旅行にでも行けばいいじゃん」と、Aの提案をはねのけた。
どうやらAは、俺との旅行を期待していたらしい。
顔を歪めてしまったAの表情に弱い俺は、渋々頷いたのだった。
・
1日目は移動日で、夕方過ぎに現地に到着した。
2日目の今日はアウトレットモールで買い物し、宿泊するビジネスホテルに昨日と同じく夕方遅くに到着した。
「疲れた~!」
どさっと大量の買い物袋を床に落とし、交互にシャワーを浴びてさっぱりとさせた。
俺とAでひと部屋、Dと彼氏でひと部屋といった部屋割は前夜と同じだ。
日中、人目があって遠慮していたんだろう、二人きりになった途端、大胆になったAにキスをせがまれた。
「じきにDちゃんたちが来るから」と、深いキスになるのをやんわりと拒んだ。
肩すかしを食らったAは、不満な表情をしていたけどね。
その気にならなかったんだから、仕方ない。
コンビニで買い込んできたものをベッドの上に広げるといった、安上りな飲み会が始まった。
学生の旅行なんてこんな感じだと思う。
俺はちらりちらりと、Dの彼氏とやらを観察していた。
彼はチャンミンと言って、学部は違うが俺と同い年。
正直言って、10人並みのDには勿体ないと思った。
すれ違う者の3人に1人は振り向いてしまうような、いい顔をしていた。
スタイルもよい。
自身の容姿の良さに気付いているのかいないのか、積極的に自分を前面に出すことはないキャラで、Dの隣でニコニコと楽しそうにしている。
質問を振ると、考え考え言葉を選びながら答えるだけじゃなく、こちらにも質問を投げかけてくれて、会話が途切れない。
美味そうに食べるのが好印象だった。
空いた容器を片付け、新しいものの封を開けてやったりと、気がきく。
感じのよい奴だと思った。
ところが俺は今朝がた、AとDの会話を漏れ聞いてしまったのだ。
会話の内容が内容だけに、俺はチャンミンの顔をまともに見られない。
女の子とは、己の彼氏の報告会をするものなのだろうか。
俺が知らないだけで、えっちの内容まで赤裸々にバレてしまっている...ぞっとした。
・
今日の朝方のことだ。
俺とAの部屋にDがやってきた。
寝起きのえっちでもしようかとその気でいたのに、邪魔者Dの登場に俺は内心で舌打ちをしていた。
スウェットパンツを押し上げる、やる気満々の下半身を見られたくなくて、俺は背を向けたまま寝たふりをしていた。
俺は熟睡しきっているものと思い込んだ彼女たちは、ひそひそと『彼氏とのえっち事情』を報告し合っていたのだ。
肝心なワードは避けてはいたが、どうやら前夜のチャンミンはDを満足させてあげられなかったらしいのだ。
お粗末なえっちだったらしいのだ。
サイズのことなのか、テクニックのことなのかまでは不明。
Dはチャンミンとのえっちに満足できなかった...か...。
見た目もテクも両方抜群なんて、パーフェクトな奴はそうそういない。
Aの方こそ、俺を傷つけまいと『感じている』ふりをしてくれているかもしれないんだし。
そもそも、Dの方に問題がある可能性もある。
そんなことを考えながら、ベッドの上での酒盛りで、脚を崩して座るチャンミンの股間についつい目がいってしまうのだ。
細身のズボンを履いているが、パーカーの裾が邪魔をしている。
サイズが平均以下だったとしても、テクでそれをカバーすればいいことだしなぁ。
でも、経験値が低いのなら...つまり、童貞...テクがなくても仕方がないか。
もしくは、「自分は上手い」と、ひとりよがりながむしゃらなえっちをする奴なのかもしれない(キスも下手だと聞いているし)
そこに注目してしまう俺こそ失礼極まりないなと、視線を上げた時、チャンミンとバチっと目が合ってしまった。
俺の内心なんて知るよしもないチャンミンは、にっこりと笑いかけるんだ。
なぜだか「ドキン」としてしまい、男の微笑みにドギマギしてしまった自分に驚いた。
(つづく)
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