あなたのものになりたい(14)

 

 

~チャンミン~

 

 

「もう一度したいです」

 

僕らの息が整うまで休憩したのち、僕はお兄さんにおねだりした。

 

お兄さんは「さすが若いな」と笑って、僕の上に覆いかぶさった。

 

2度目のえっちは甘くとろけそう。

 

お兄さんに両脚をからめ、お兄さんの揺さぶりを受け止めた。

 

僕の意識は1度目と同じようにぶっとんでしまった。

 

お兄さんは上手い。

 

今みたいにお兄さんも、沢山のお客とやっていたんだと思うと悲しくなった。

 

僕らの過去は、どれくらいの回数交われば遠くなってくれるのだろうか。

 

 

 

 

えっちの後のお兄さんは優しい。

 

「尻は痛くないか?」

 

いつもみたいに、僕を安心させる低くおだやかな声で気遣ってくれる。

 

僕のそこは『元商売道具』、心配しなくたっていいんですよ。

 

「いいえ。

全~然」

 

身体を丸めて、お兄さんの太ももにほっぺたを摺り寄せた。

 

お兄さんが放ったもののえっちな匂いがする。

 

「猫みたいだなぁ」と、お兄さんは笑った。

 

「『犬』じゃなくてですか?」

 

僕の過去と絡めて冗談っぽく言った。

 

「そうだなぁ。

今のチャンミンは、エサを催促する猫みたいだ」

 

僕の前髪を梳いてくれる。

 

「そうですね。

僕は犬じゃなくて、僕は猫になりたいです。

猫を撫ぜてみたいなぁ。

爪でがりっと引っかかれたりして...ふふふっ。

にゃあにゃあ、って...可愛いんだろうなぁ。

毛皮は柔らかいんだろうなぁ」

 

「猫、飼おうか?」

 

僕は首を振った。

 

「お兄さんを取られてしまうから、猫は欲しくありません。

お兄さんのペットは僕だけです」

 

「...チャンミン...」

 

「僕はね、誰かのものになっていると安心できるみたいです。

イゾンって言うんでしたっけ?」

 

僕はテレビが大好きで、少しずつ物識りになっていく。

 

「僕はお兄さんの、『所有物』でいたいです。

えへへっ。

お兄さんみたいに難しい言葉を使ってみました」

 

「チャンミン!」

 

お兄さんの突然の怒鳴り声に、僕の肩がビクッと震えた。

 

「所有物だなんて、自分を貶めるようなことは言うんじゃない。

お前は俺の同居人。

友人同士だ」

 

「...お兄さん?」

 

「大きな声を出して、すまなかった...」

 

「...友人...」

 

うっとりした。

 

「素敵な響きです。

僕はお兄さんの友人にショーカクしてたんですねぇ。

友人かぁ...いいですねぇ」

 

僕には友だちという存在はいない。

 

お店の仲間たちはみんな、ライバルだった。

 

「でもな。

友人同士はセックスはしない」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ」

 

「お兄さんと僕はえっちをしましたよ。

僕たちは友人同士じゃないですね」

 

「...そうだな」

 

「それなら何ですか?」と質問しようと思った。

 

お兄さんと裸で抱き合えただけで、僕の幸せのタンクは溢れそうだった。

 

だから、黙っていた。

 

きっと、嬉しい言葉を僕にくれる。

 

いっぺんに幸せをもらったりなんかしたら...僕みたいな人間には勿体ない。

 

元気がなくなった時のために、とっておこうと思った。

 

 

 


 

 

~ユノ~

 

 

チャンミンとのセックスは極上の営みだった。

 

さすが、と言うべきか。

 

俺もプロだった、チャンミンも同様だ。

 

快楽へのスポットを知り尽くしている。

 

愛情に満ちた行為だったのか?

 

YESだ。

 

俺の膝の上で眠ってしまったチャンミンの頭を撫ぜた。

 

汗で湿った柔らかな髪を梳いた。

 

俺のものをしゃぶっていたのが嘘みたいな、あどけなく、幼い寝顔だ。

 

手の平の下、体熱を発散する形のよい頭蓋骨。

 

丸めた背中も撫ぜた。

 

ふくらはぎが痺れてきたが、そのままじっとしていた。

 

とうとうチャンミンを抱いてしまった。

 

所有し所有されることは、安心と満足感を生んでくれる。

 

いつか失ってしまうのではないかの怯えも生まれる。

 

俺はチャンミンを所有したいわけじゃなく、対等に肩を並べていたい。

 

答えを出すのをずっと躊躇していた。

 

 

俺はチャンミンを愛している。

 

 

 

 

チャンミンは商売道具である身体の魅せ方を熟知している。

 

無意識なんだろうが、動作の端々の...例えば腰かける行為ひとつを見ても、しなをつくっている風に見えるのだ。

 

あの店の個室でチャンミンを抱いた時、客である俺を小馬鹿にしたような言葉選びも、上目遣いの眼も、計算づくだったんだろう。

 

だからか、無防備で無垢な笑顔を見せられると俺はほっとした。

 

「お兄さ~ん!」

 

大声で呼ばれてバルコニーに出た途端、俺はずぶ濡れになってしまった。

 

チャンミンのいたずらは大胆だ。

 

バケツいっぱいの水を、俺にぶちまけたのだ。

 

怒りなんてこれっぽちも湧かず、俺は大笑いしていた。

 

「よかった~。

お兄さんったら難しい顔をしているんですもの...。

お仕事が大変なんですね~」

 

バスタブサイズのたらいに水を張り、そこで水浴びをしていたらしい。

 

大人らしい振る舞いなど知らないチャンミンは、子供のようにはしゃいでいる。

 

下着一枚になったチャンミンは、デッキチェアに寝っ転がった。

 

「暑いですねぇ」

 

「暑いな」

 

空を仰いだりなんかしたら、目がやられてしまうほどぎらつく眩しい太陽。

 

夏が訪れた。

 

手でひさしをつくって、眼下の街並みを見下ろした。

 

公園沿いを流れる川から、白い光が川面できらめいている。

 

バルコニーのモルタル塗りの床は、濡れるそばから蒸発してしまう。

 

「そんな池みたいなところで遊んでいないで、プールに連れていってやろうか?」

 

「これはね、池なんですよ。

魚を飼いたいです。

丸い葉っぱの草もここで育てるのです」

 

なるほど...たらいの周囲を先日注文した溶岩で囲っていた。

 

「へぇ、それは楽しそうだね」

 

「はい。

明日にはメダカが届きます」

 

「水着を買ってあげよう」

 

「やった」

 

チャンミンの下着は、水に濡れてあれの形そのままに張り付いていた。

 

以前の俺だったら、その光景に目を反らしていた。

 

今の俺は違う。

 

チャンミンの腰を抱き、バルコニーに繋がる寝室へといざなった。

 

冷房のよく効いた快適な部屋と、ひんやりとしたシーツ。

 

太陽の熱を浴びたチャンミンの肌が熱かった。

 

 

 

 

チャンミンとの同居生活が始まって2か月が過ぎた頃。

 

俺はあることに気付いた。

 

これまで気付かなかった自分に呆れるほどだったが、巧妙に隠していたチャンミンがいじらしくなった。

 

俺が留守から帰宅した日のことだった。

 

 

(つづく)

 

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