【40】NO?

 

~嵐の予感~

 

~チャンミン~

 

 

「最低!

あなたはクズよ!

最低!

浮気者!」

 

リアの振り回す腕が、僕の顔や頭を打ち付ける。

 

「まるで私だけが悪いみたいに責めるなんて卑怯者!

好きな女がいるのなら、はっきりそう言えばいいじゃないの!」

 

リアの言う通りだったから、僕は叩かれるままでいたけれど、さすがに...痛い。

 

リアの手首を持って動きを封じたら、リアは崩れるように床に座り込んでしまった。

 

「どんな子?」

 

「床に座ってないで、起きて」

 

「私の知っている子?」

 

僕はリアの質問に答えず、彼女の手を引っ張って立ち上がらせようとした。

 

と、リアが僕の首にかじりついてきた。

 

リアの肩を抱くべきか、リアの腕を振りほどくべきか、僕は迷った。

 

僕は「好きな女がいるんでしょ?」の台詞で、視界が開けたような気がしたんだ。

 

リアには悪いけれど。

 

リアとの関係を清算しようと決意した理由。

 

リアとの生活がむなしくて、リアへの興味が薄れてしまったのは常日頃感じていたことで、「別れた方がいいのでは?」の気持ちは湧いては打ち消していた。

 

気持ちを打ち消していた理由は、変化を恐れていたこと。

 

過去に交際してきた女性たちとの間で経験した、辛かった時期を思い起こす。

 

関係を清算する際に発生する事柄...。

 

例えば...別れ話中のすったもんだ、引っ越し手続きと持ち物の線引き、友人たちへの説明...そして、心を襲う寂しく悲しい想い。

 

僕はリアの反応が怖かった。

 

そんな中、優柔不断な僕の前にあの子が現れた。

 

その日の夜に、僕はリアとの別れを決意した。

 

好きな人ができたから、リアと別れようと決意したんだった。

 

僕の気持ちが、ここで初めて明確になったのだった。

 

 

「別れる前に、ひとつだけお願いを聞いてくれる?」

 

「ああ」

 

リアと別れられるのなら、何でもしてやろうと思った。

 

最後のお願いを叶えてやろうと思った。

 

この時の僕のずるい考えが、その後、物事を複雑にしてしまったのだ。

 

 


 

 

~リア~

 

 

チャンミンに罪悪感を植え付けようと訴えたのに、通じなかった。

 

チャンミンは本気なんだ。

 

私のプライドはズタズタだった。

 

許せない。

 

本当に許せない

 

モデルの仕事が激減した今は、この部屋を私一人で維持はできない。

 

ここを出なくちゃいけなくなるのは困る。

 

あの人のところへ転がり込もうか?

 

捨て身でいけば何とかなるかもしれない。

 

チャンミンの方も、良心と罪悪感をもっと刺激してやれば、折れるかもしれない。

 

チャンミンが私から離れられないように、引き留める何かとは...?

 

これしか、ない。

 

抱き着いたチャンミンの耳元に囁いた。

 

「最後に1回だけ私を抱いて」

 

「え!?」

 

私の背中に回ったチャンミンの腕がビクリとした。

 

私の流す涙がチャンミンの肩に落ちる。

 

あなたのせいで泣いているのよ、って。

 

自分が可哀そう過ぎて、いくらでも泣けそうだった。

 

「1度だけ抱いてくれたら、チャンミンと別れてあげる」

 

「......」

 

「私のことを可哀そうだと思って...最後に...」

 

「...できない」

 

「チャンミンに断られたら、私...っく...っく...。

女としての自信を失っちゃう...」

 

「リアは自信を持っていいんだよ」

 

あと少しだ。

 

チャンミンの肩にもたせかけていた頭を起こし、間近から彼の顔を見る。

 

チャンミンも泣いているじゃない。

 

それにしたって...整った顔をしている。

 

私がチャンミンと付き合ったのは、チャンミンの顔とスタイルが理由なんだもの。

 

滅多にいない「いい男」だったから。

 

チャンミンには内緒。

 

私が「浮気」をしていることも、内緒。

 

もっと近づいて、チャンミンに口づける。

 

チャンミンは、唇を堅く引き結んだままだ。

 

「私とはキスもしたくないのね。

もう私は終わりなんだわ!

生きている価値なんてないんだわ!」

 

「リア!

落ち着けって!」

 

ごうごうと泣きわめく私を、チャンミンはきつく抱きしめる。

 

あと少し。

 

「死んでやる!

チャンミンと別れるくらいなら、私...死んでやるから!」

 

「リア!!」

 

この後の展開にふさわしい策がひらめいた。

 

チャンミンの腕の中から抜け出して、キッチンカウンター上のラックから包丁を抜く。

 

「リア!

よせ!」

 

私の手から包丁をもぎとろうとチャンミンが手を伸ばすから、刃先を自分の方に向ける。

 

「死んでやる!

全部チャンミンのせいよ!」

 

死ぬ気なんて、さらさらなかった。

 

隙を狙ったチャンミンが、私を羽交い絞めにする。

 

チャンミンは私の指を1本1本はがすようにして包丁を取り上げて、カウンター上に置いた。

 

「分かった、分かったから」

 

背後からきつく私を抱きしめた。

 

「死ぬとか、終わりとか、よしてくれ」

 

抱きしめられた私は、振り向いて片手をチャンミンの頬に添えた。

 

充血した目で、苦しそうな顔をしている。

 

そうよ。

 

チャンミンが悪いのよ。

 

抵抗しないことに心中ほくそ笑んだ私は、チャンミンと深いキスを交わしたのだった。

 

 

(つづく)

 

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