【51】NO?

 

~君の不在、僕は寂しい~

~チャンミン~

 

 

民ちゃん...。

 

僕「しか」出来ないから、という言葉にのせられて頷いてしまったけれど、このお願いは無謀だって。

 

僕は民ちゃんのお願いを引き受けたことを後悔してきた。

 

コンテストモデルの衣裳合わせに、僕が代役で行ってこい、なんて...。

 

身長もサイズも、それから顔も同じだけど、女ものの洋服を着ることに抵抗があった。

 

民ちゃんは義姉さんの出産が1週間早まったため、今夜の衣裳合わせに行かれなくなった。

 

留守番と甥っ子3人の子守のため、民ちゃんはあの後兄T宅に帰っていった。

 

男子トイレで思わず民ちゃんを抱き寄せてしまった。

 

けれども、この予定をすっかり忘れていたことに気付いた民ちゃんの素っ頓狂な声に、僕の突然の行動に対する民ちゃんの反応を確かめる機会を失ってしまった。

 

「うーん...それはちょっと...」と渋る僕の肩を力いっぱい叩いて言った(民ちゃんは力持ちだから、痛かった)

 

「髪の毛を染めて、と言ってませんから。

細かいサイズ調整したいそうです。

チャンミンさんは私とサイズが同じだから、全然オッケーですから。

今夜は衣装を試着して、それでおしまいです。

ね、簡単でしょ?

...ということで、よろしくお願いいたします」

 

なんて深々と頭を下げてお願いされたら、頷くしかないだろう?

 

 

 

 

サロンに向かう道中、ふりふりのレースだらけのものだったらどうしよう...と不安でいっぱいだった。

 

さっさと終わらせよう。

 

僕は素早くTシャツとハーフパンツを脱いだ。

 

椅子の背に置かれた銀色のものを手にした僕は、さーっと青ざめた。

 

「マジか...」

 

民ちゃん...いくら似ている僕らでもこれは...無理だ。

 

手の平におさまるくらい小さなショートパンツ。

 

履けないことはないけど、ぴったぴたじゃないか!?

 

男の僕には、無理だ。

 

ふりふりレースの方が、100倍もマシだよ。

 

問題の物を手にしばらく考え込んでいると、

 

「民さーん、未だですかぁ?」

 

嫌な予感はしてたけど、民ちゃんは僕が代わりに来ることを、ここの人たちに言っていないらしいぞ。

 

民ちゃんの馬鹿馬鹿。

 

「上の服も合わせてください。

それから、ブラは付けないでくださいね。

そのスタッズは、全部私が付けたんですよ?」

 

カーテンの向こうから急かされた。

 

「は、はい!」

 

ええい!

 

どうにでもなれ!

 

僕はその、小さな布切れに足を通した。

 

 


 

 

Aはカーテンの向こうから現われた民(実はチャンミン)を一目見て、自分の仕事ぶりに満足した。

 

恥ずかしいのか、民(実はチャンミン)はタオルで前を隠している。

 

「いいですね!

ぴったりじゃないですか!

後ろも見せてください!」

 

太ももの付け根ぎりぎりに斜めにカットしたラインが、民(実はチャンミン)の小さなお尻を引きたてている。

 

(Kさんが狙った通りだ!

中性的で...すごくカッコいい!)

 

「民さん、大丈夫ですからタオルをどかして下さい」

 

民(実はチャンミン)はぶんぶんと首を左右に振っている。

 

「女同士なんですから!」

 

民(実はチャンミン)が目隠しに覆っていたタオルを、Aに強引にむしり取られてしまった。

 

(やめろーーーー!!)

 

(あれ...?

ブリーチしたはずの髪の毛が黒い。

あれ?)

 

Aの視線は、キャップをかぶったままの民(実はチャンミン)の頭、肩の辺りから腰、足先までゆっくりと移動した。

 

「!!!」

 

「民さん、ここで待っててください。

Kさーん!」

 

シャワーを浴びて戻ってきたKの方へAは走っていく。

 

「Kさん、大変です!!

民さんったら、髪を短く切っちゃってますし、髪も黒に戻しちゃってます!

どうしましょう!」

 

「ええっ!」

 

Kはカラーリング剤をかき混ぜる手を止めて、VIPルームの前で突っ立っている民(実はチャンミン)を確認する。

 

(民さん、何てことをしてくれたんだ!

今から間に合うかな...)

 

「それから...Kさん!

民さんって...女の子ですよね?」

 

「そうだよ。

何を今さら?」

 

「男の人ですよ」

 

「?」

 

「すね毛が生えてます。

前はつるつるでした。

剃った毛って、あんなに早く生えるものでしょうか?

それから...あんなにガタイがよかったですかね?

民さんって、もっと華奢な人だったはず...ですよね?」

 

「?」

 

Kは民(実はチャンミン)の方を見やる。

 

「!!!」

 

民(実はチャンミン)の方へ向かいかけたKの手をひいて、Aは声をひそめて言った。

 

「正真正銘のメンズです!

だって...だって...」

 

Aのジェスチャーに、Kはつかつかと民(実はチャンミン)の方へ大股で近寄る。

 

Kはざっと民(実はチャンミン)の全身を観察したのち、にっこりと笑った。

 

「なーんだ。

民さんのお兄さんですか?」

 

細かい説明が面倒だったチャンミンは、「そんなところです」と軽く会釈をした。

 

そして、民が今夜来られなくなった事情を説明すると、

 

「ははは。

民さんは面白い人ですね。

ピンチヒッターにお兄さんを寄越すなんて。

あなたに来てもらって、実はとても助かってます。

スケジュールが押してて、今夜、試着してもらったのを見て足元をどうしようか決める予定だったんです」

 

Kはタオルをとって、チャンミンに手渡した。

 

物議を醸しだしている箇所がタオルで隠れて、チャンミンはホッとしたのであった。

 

「前は隠したままでいいので、靴をいくつか履いてみて下さいませんか?

足のサイズは?

...同じですか、助かります」

 

(恥ずかし過ぎる!

民ちゃんの馬鹿!)

 

 

(つづく)

 

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