「民ちゃ~ん」
「はいはい」
「民ちゃ~ん」
「はいはい」
民ちゃんの背後に近づいて、彼女をうしろから抱きしめていた。
民ちゃんはぴったりとくっついた僕に構わず、ごくごくと水を飲んでいる。
「ねぇ、民ちゃん」
僕は民ちゃんの耳下に、鼻先をこすりつけた。
「はいはい、何ですか?」
民ちゃんは僕の彼女だ。
僕と同じくらい背が高くて、ボーイッシュだけど可愛い子だ。
民ちゃんの肩にあごを乗せて、何度も彼女の名前を呼んでいた。
ミニバー正面に取り付けられた鏡に、僕らの顔が映っている。
僕と民ちゃんは瓜二つの顔をしているから、並んだ2つの顔は双子以上。
はた目には、双子の青年二人がじゃれついているように見えるだろう。
でも、僕らは他人同士で、民ちゃんは女の子だ。
僕らの馴れ初めや、ここに至るまでの過程の説明は、長くなるから省略する。
要約すると、僕は民ちゃんに夢中だと言うこと。
僕らは昨晩、ホテルに一泊していて、ひとつベッドで眠った。
目覚めたところ、隣にいるはずの大好きな人がいなかった。
あれ...?と、部屋中を見回すと、ミニバーにしゃがみこんだ民ちゃんの顔が、冷蔵庫の灯りに照らされていた。
分厚いカーテンで外の様子は分からないけれど、ヘッドボードのデジタル時計で早朝だと知ったのだ。
「早起きだね?」
「喉がカラカラだったんです。
昨夜は飲み過ぎました」
民ちゃんはアルコールが苦手で、350mlのビールひと缶でべろべろになれる。
僕が持ち込んだシャンパンを、「美味しい美味しい」と、僕が止めるのをきかなかった民ちゃん。
グラス1杯のシャンパンで、大の字になって眠ってしまったのだ。
クリスマスイブにぴったりなアイテムでも、民ちゃん相手には相応しくなかった。
僕が悪かった。
「だろうね。
あ~あ、民ちゃんはさっさと寝ちゃうし、寂しかったなぁ」
かつて僕が贈ったパジャマを着た民ちゃんを、もっと強く抱きしめた。
「...チャンミンさんの言いたいことは分かってますよ」
「...嘘!?」
「チャンミンさんの暴れん坊が、私のお尻にあたってます」
「これは、寝起きの生理現象だから仕方ないよ」
「ふ~ん。
ホントにそれだけですかぁ?」
「......」
民ちゃんが指摘するように、それだけじゃない。
奮発してとったこの部屋は、民ちゃんへのクリスマスプレゼントだったのだ。
「クリスマスに欲しいものはある?」と聞いてみた。
そうしたら、「チャンミンさんと楽しく過ごせるだけで十分です」と、物欲のない民ちゃんは答えた。
非日常的な時間を過ごしたくて、こうしていい感じのホテルにいるのに、僕らのクリスマスイブは清い一夜だった。
僕も男だし、民ちゃんは可愛いし、焦れていた僕はこうして民ちゃんにくっついて甘えていたのだ。
こういう雰囲気を察してくれるかどうかは...期待薄だ。
「...しよ?」
「へ?」
「民ちゃん...しよ?」
「......」
「今から...しよ?」
「はっきり、言っちゃいますか?」
「うん。
民ちゃんとしたい」
「したくてたまらないんですか?」
「うん」
「したくてしたくてたまらないんですか?」
「うん。
分かるでしょ?」
「...確かに...すごいですね」
「民ちゃんでも分かる?」
「子供じゃないですからね」
「だから...しよ?」
「......」
「イヤ?」
「イヤじゃないですよ」
「駄目?」
「駄目じゃないですよ」
「ホントに?」
「嘘はつきませんてば」
「触ってもいい?」
「もう触ってるじゃないですか!?」
僕の手は民ちゃんのパジャマの裾の下に忍び込んでいて、彼女の平らなお腹を撫ぜていた。
すべすべの肌で、触っているととても気持ちがいい。
一応、いつ肘鉄をくらってもいいように、下腹に力を入れていた。
「あの...チャンミンさん。
私...寝ちゃったでしょう?」
「寝ちゃってたよね。
夜9時なのに」
「チャンミンさんへのクリスマスプレゼント、用意してたんです」
「僕に?」
期待していなかったけど、「あれぇ、プレゼントはないんだぁ」とちょっぴり残念だったのは確かだ。
「他に誰がいます?
チャンミンさんしかいないでしょう?」
僕の鼻先に触れる民ちゃんの耳が真っ赤になっていた。
か、可愛い...と思いながら、「プレゼントって何?」と尋ねてみたら、
「チャンミンさんが今、触ってます」
やっぱり、そうだったか!
指先に触れるものに、「あれ?」と思ったんだ。
レース生地の細やかな網地。
民ちゃんはいつも、つるっとシンプルな、黒オンリーの機能性重視の下着を付けている。
以前、民ちゃんにこんなことを言われた。
「想像してみてください。
チャンミンさんが可愛いブラジャーとパンツを付けてたら気持ち悪いでしょう?」
民ちゃんに言われるがまま、自分が紫色のすっけすけのランジェリーを身につけた姿を想像してみた。
その気味悪さに、思わず顔をしかめてしまった直後、
「ほら、変な顔してる。
でしょう?
私がセクシー下着を付けるってことは、そういうことです!」
民ちゃんを傷つけてしまったと気付いた時には遅かった。
その後フォローしてみたけど、取り合ってくれなかった。
民ちゃんは両手で顔を覆っている。
耳だけじゃなく、ほっぺも真っ赤になっている。
民ちゃん...可愛いなぁ。
ミニバーの鏡に映る民ちゃんのパジャマのボタンが、僕の指によってひとつひとつ外されていく。
そっとパジャマの上を脱がして、そのまま床に落とした。
民ちゃんの華奢な肩も背中もあらわになった。
う...か、可愛い...。
ワイヤーの入っていない透けた生地が、彼女のあるかなきかの、ほとんどないと言ってもいい胸をおさめている。
たまらなくなって、僕は民ちゃんを力いっぱい抱きしめて、彼女の喉に噛みつくようにキスをした。
「んんっ...」と漏らす民ちゃんの声が甘い。
普段はほにゃららと子供っぽい民ちゃんだけど、そういう時の彼女は大人の女性らしく色っぽい。
そんなギャップも民ちゃんの魅力だ。
僕の腕の中でくるりと身体の向きを変えると、僕の首にぎゅうっとしがみついてきた。
その気のスイッチが入った民ちゃんと、貪るようにキスをしながら、部屋中央に鎮座した巨大なベッドに背中からダイブする。
民ちゃんの手が僕の下着にかかり、僕も彼女のパジャマの下を脱がせる。
いつもなら下着もいっしょに脱がせてしまうことも多々あるが、今夜は民ちゃんの下着姿をとっくりと眺めたい。
仰向けに寝かされた民ちゃんは、両手で顔を覆ったまま「恥ずかしー!」を連呼している。
もじもじとこすり合わせている両膝のてっぺんに、キスをした。
見下ろす民ちゃんの身体がとても綺麗で、エッチな気持ちも忘れて見惚れてしまった。
民ちゃんは骨っぽい身体付きやペチャパイを気にしているけれどね。
今年のクリスマスプレゼントのルールは、『モノではなくコト』だったのだ。
だから僕は、リッチな気分で過ごす時を民ちゃんに贈った。
民ちゃんが僕に贈ってくれたものは、僕をとろとろで甘々な気分にさせてくれるもの。
きっと明日には、民ちゃんの下着はシンプルなものに戻ってしまうだろうけどね。
ブラを外そうと手を伸ばしたら、「駄目です!」と拒まれた。
「今さら...どうして?」と尋ねたら、
「せっかくの可愛いブラです。
付けたまま、です!」
民ちゃんの可愛いお願いに、胸がキュッとした。
30男でも大好きな人を前にすると、胸がときめく時があるのだ。
僕は頷くと、民ちゃんの長い前髪をかきあげ、小さな顔を両手で包み込んだ。
・
絶頂の瞬間、突いたヘッドボードに灯るデジタル時計。
時刻は、午前6時。
12月の日の出は遅いから、きっと外は未だ暗い。
民ちゃんには内緒にしてること。
実はもう一晩、この部屋をとっているんだ。
だから僕らは、たっぷり愛し合える。
(おしまい)
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