(15)会社員-愛欲の旅-

 

 

「チャンミン...温泉に行こうか?」

 

背筋をぴしっと伸ばしているのに、女子のように足を崩して座るチャンミンを誘った。

 

効能豊かな熱い湯に身を沈め、長時間狭いシートに押し込まれただるさをとりたかった。

 

...それもあるが。

 

チャンミンの裸を見てみたいか...う~ん、どうだろう。

 

男の裸を見たいか見たくないかと問われたら、積極的に見たいとはとても思えない。

 

俺と同じモノをぶらさげていて、どこにも膨らみのない身体だ。

 

チャンミンのことは好きだが、好きな気持ちとエロの欲求が未だに合致していない俺だった。

 

「行こうぜ。

まだ1時間あるんだ。

ちゃっと浸かって、ちゃっと出てくれば夕飯には間に合うぞ?」

 

チャンミンは俺の誘いを無視して、2個目のふかし饅頭(俺の分)をもぐもぐ食べている。

 

俺を焦らす作戦なんだろう、見え見えなのだ。

 

俺にしつこく誘われて、「仕方がないですねぇ」と渋々腰を上げる...って流れにしたいんだろう。

 

お茶を飲んでいる間に、最後まで残って漫画を読んでいた奴も消えていて、この部屋は俺たち二人になっていた。

 

「ほら、みんな行っちゃったぞ?

行こうぜ」

 

チャンミンに仕込まれたモノがどこにあるのか、この目で確認したかったのだ。

 

当たり前だけど、チャンミンは俺のしつこい誘いをピンクな意味にとらえた。

 

「...ユンホさんったらぁ」

 

チャンミンの頬が赤く染まっていた。

 

「ユンホさんはお風呂に入ってから派なんですね?」

 

「?」

 

「お風呂に入る前派だったら...」

 

チャンミンは俺の首元をくんくんしだした。

 

「はぁ...いい匂い」

 

俺の首を舐めんばかりに顔を寄せてくるから、「おい、離れろよ!」と身を引いた(実際は、ぺろっとひと舐めされたんだけど)

 

「ユンホさんの匂いを嗅ぎながら...興奮しちゃいますね。

ユンホさんは、どっち派でした?」

 

(この手にのるもんか)

 

チャンミンは純を装った台詞を吐くが、実は俺の過去の恋愛を探ろうとしているのだ。

 

ジェラシーの導火線に火をつけないよう、喜ばせる言葉を忍ばせて...。

(メモ帳のどこかには、チャンミンの嫉妬は面倒くさいの一文が書かれているはず)

 

チャンミンは俺の言葉の一字一句、漏らさず聞きとる男だからだ。

 

「さあ...。

経験ないからなぁ...どっちだろう」

 

言い終えて俺は「しまった!」と、口を押えた。

 

チャンミンを喜ばせようと張り切るあまり、振り切ったこと...大嘘を口にしてしまった。

 

「ユンホさんったら...」

 

チャンミンは目を真ん丸にし、小指を立てた両手で口を覆った。

 

「ユンホさんったら...!」

 

チャンミンの眼が半月型になっている。

 

がたっと入り口の引き戸が開く音がした。

 

忘れ物をとりにきた同室の1人が戻ってきたんだろう。

 

「ドーテイだったんですね!?」

 

「チャンミンっ!」

 

「うっそだぁ。

経験人数30人くらいいるかと...」

 

「しーっ!」

 

口を塞ごうと、チャンミンに飛び掛かった。

 

「きゃっ」

 

ごてん、と後ろに倒れたチャンミンの上に、俺がのしかかる格好になった。

 

「......」

「......」

 

そいつは驚いた風でもなく、ちら、と見ただけで、財布を取ると俺たちの脇を通り過ぎて部屋を出て行ってしまった。

 

「......」

「......」

 

かあぁぁっと熱くなった。

 

どうか、じゃれてプロレスごっこしていただけだと勘違いしてくれ!

 

「ご安心ください」

 

チャンミンは起き上がりこぼしのように身体を起こすと、俺の肩を叩いた。

 

「?」

 

俺の考えを読んだチャンミンはにっこり笑った。

 

「僕らの部屋は、『根暗部屋』なんです。

噂を広げることもないし、他人よりも二次元にしか興味がないのです!

ここは『ヲタク部屋』でもあるのです!」

 

威張って言うチャンミンはやはり...策士だ。

 

「そっか...さすが実行委員」

 

「未経験だったなんて...意外です」

 

「いやっ...そうじゃなくて」

 

「性交のハウツーにつきましては、僕に任せてください」

 

チャンミンはこくり、と頷いて見せた。

 

「わりと詳しいんです」

 

「ビーエルでか?」の言葉は控えた。

 

チャンミンの崇高な趣味をからかう発言はNGだから。

 

メンズ同士の繋がりについては未経験だから、さっきの俺の発言もあながち嘘じゃないな、と思った。

 

「温泉に行くぞ!」

 

諦めていない俺は、再度チャンミンを誘った。

 

「余興の準備がありますから!」

 

「俺が後で手伝ってやるから、風呂入りに行こう」

 

「それほどまでに僕と裸の付き合いがしたいんですね。

ユンホさんには申し訳ありませんが、夕飯の後まで待って下さいませんか?」

 

「...分かったよ」

 

「くたくたに疲れて帰宅した時...」

 

「?」

 

「お風呂?

ご飯?

それともあたし?

ユンホさんはどれを選びます?」

 

これは難題だ...。

 

答えを間違えないようにしないと...。

 

「あたし」と答えようとした時...チャンミンの人差し指で唇を塞がれた。

 

「答えは『余興の準備』です」

 

「3択じゃなかったのかよ!?」

 

チャンミンは超大型スーツケースを濡れ縁まで運ぶと、蓋を開けた。

 

その中身に俺は絶句することになった。

 

 

(つづく)

 

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