「チャンミン...温泉に行こうか?」
背筋をぴしっと伸ばしているのに、女子のように足を崩して座るチャンミンを誘った。
効能豊かな熱い湯に身を沈め、長時間狭いシートに押し込まれただるさをとりたかった。
...それもあるが。
チャンミンの裸を見てみたいか...う~ん、どうだろう。
男の裸を見たいか見たくないかと問われたら、積極的に見たいとはとても思えない。
俺と同じモノをぶらさげていて、どこにも膨らみのない身体だ。
チャンミンのことは好きだが、好きな気持ちとエロの欲求が未だに合致していない俺だった。
「行こうぜ。
まだ1時間あるんだ。
ちゃっと浸かって、ちゃっと出てくれば夕飯には間に合うぞ?」
チャンミンは俺の誘いを無視して、2個目のふかし饅頭(俺の分)をもぐもぐ食べている。
俺を焦らす作戦なんだろう、見え見えなのだ。
俺にしつこく誘われて、「仕方がないですねぇ」と渋々腰を上げる...って流れにしたいんだろう。
お茶を飲んでいる間に、最後まで残って漫画を読んでいた奴も消えていて、この部屋は俺たち二人になっていた。
「ほら、みんな行っちゃったぞ?
行こうぜ」
チャンミンに仕込まれたモノがどこにあるのか、この目で確認したかったのだ。
当たり前だけど、チャンミンは俺のしつこい誘いをピンクな意味にとらえた。
「...ユンホさんったらぁ」
チャンミンの頬が赤く染まっていた。
「ユンホさんはお風呂に入ってから派なんですね?」
「?」
「お風呂に入る前派だったら...」
チャンミンは俺の首元をくんくんしだした。
「はぁ...いい匂い」
俺の首を舐めんばかりに顔を寄せてくるから、「おい、離れろよ!」と身を引いた(実際は、ぺろっとひと舐めされたんだけど)
「ユンホさんの匂いを嗅ぎながら...興奮しちゃいますね。
ユンホさんは、どっち派でした?」
(この手にのるもんか)
チャンミンは純を装った台詞を吐くが、実は俺の過去の恋愛を探ろうとしているのだ。
ジェラシーの導火線に火をつけないよう、喜ばせる言葉を忍ばせて...。
(メモ帳のどこかには、チャンミンの嫉妬は面倒くさいの一文が書かれているはず)
チャンミンは俺の言葉の一字一句、漏らさず聞きとる男だからだ。
「さあ...。
経験ないからなぁ...どっちだろう」
言い終えて俺は「しまった!」と、口を押えた。
チャンミンを喜ばせようと張り切るあまり、振り切ったこと...大嘘を口にしてしまった。
「ユンホさんったら...」
チャンミンは目を真ん丸にし、小指を立てた両手で口を覆った。
「ユンホさんったら...!」
チャンミンの眼が半月型になっている。
がたっと入り口の引き戸が開く音がした。
忘れ物をとりにきた同室の1人が戻ってきたんだろう。
「ドーテイだったんですね!?」
「チャンミンっ!」
「うっそだぁ。
経験人数30人くらいいるかと...」
「しーっ!」
口を塞ごうと、チャンミンに飛び掛かった。
「きゃっ」
ごてん、と後ろに倒れたチャンミンの上に、俺がのしかかる格好になった。
「......」
「......」
そいつは驚いた風でもなく、ちら、と見ただけで、財布を取ると俺たちの脇を通り過ぎて部屋を出て行ってしまった。
「......」
「......」
かあぁぁっと熱くなった。
どうか、じゃれてプロレスごっこしていただけだと勘違いしてくれ!
「ご安心ください」
チャンミンは起き上がりこぼしのように身体を起こすと、俺の肩を叩いた。
「?」
俺の考えを読んだチャンミンはにっこり笑った。
「僕らの部屋は、『根暗部屋』なんです。
噂を広げることもないし、他人よりも二次元にしか興味がないのです!
ここは『ヲタク部屋』でもあるのです!」
威張って言うチャンミンはやはり...策士だ。
「そっか...さすが実行委員」
「未経験だったなんて...意外です」
「いやっ...そうじゃなくて」
「性交のハウツーにつきましては、僕に任せてください」
チャンミンはこくり、と頷いて見せた。
「わりと詳しいんです」
「ビーエルでか?」の言葉は控えた。
チャンミンの崇高な趣味をからかう発言はNGだから。
メンズ同士の繋がりについては未経験だから、さっきの俺の発言もあながち嘘じゃないな、と思った。
「温泉に行くぞ!」
諦めていない俺は、再度チャンミンを誘った。
「余興の準備がありますから!」
「俺が後で手伝ってやるから、風呂入りに行こう」
「それほどまでに僕と裸の付き合いがしたいんですね。
ユンホさんには申し訳ありませんが、夕飯の後まで待って下さいませんか?」
「...分かったよ」
「くたくたに疲れて帰宅した時...」
「?」
「お風呂?
ご飯?
それともあたし?
ユンホさんはどれを選びます?」
これは難題だ...。
答えを間違えないようにしないと...。
「あたし」と答えようとした時...チャンミンの人差し指で唇を塞がれた。
「答えは『余興の準備』です」
「3択じゃなかったのかよ!?」
チャンミンは超大型スーツケースを濡れ縁まで運ぶと、蓋を開けた。
その中身に俺は絶句することになった。
(つづく)
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