ベッドは1つ。
ソファはあるが2シーター。
チャンミンはどこで寝る?
ひとつベッドで寝たりなんかしたら...何かが始まってしまいそうで、怖い。
何かが始まって欲しいけれど、勢いで突き進むには身体がしんどい。
チャンミンを床に寝かすわけにはいかないから、やっぱり...ベッドで寝るしかないか。
180越えの男2人寝るには、シングルベッドは狭過ぎる。
とかなんとか考えていたら、チャンミンはボストンバッグからかさばるものを取り出し、丸めたそれをくるくる広げた。
「...寝袋」
「やだなぁ、ユンホさん。
病人のユンホさんを襲うなんてできません。
そりゃあね、僕はユンホさんが大好きですけど、欲望に任せてそんなこと...できませんよ。
聞いたことがあるんです。
熱がある人とえっちすると温かくて気持ちいんですって。
ぐふふふ。」
ちょっぴり残念。
(話の後半部分はスルー)
「残念」だなんて口にしたら、チャンミンを大喜びさせてしまい、俺をどすけべ扱いする台詞のオンパレードになりそうだったから、黙っておいた。
「ユンホさん、辛くなったら僕を遠慮なく起こしてくださいね」
「オッケ」
広げた寝袋に横たわったチャンミンのために、ファスナーをあげてやった。
手足が寝袋の中におさまり、顔だけぴょこんと出した姿に、か、可愛い...。
可愛すぎて、チャンミンの額にキスしてしまっても仕方がない。
「駄目です!」
チャンミンの鋭い声に、2度目のキスの間際で俺は止まる。
照れた上での制止じゃないようだ、チャンミンの眼が怒ってる。
チャンミンの逆鱗ポイントが分からずにいると、
「ユンホさんの風邪が僕に伝染っちゃいます!」とのこと。
「あ...悪い。
そうだよな」
「僕が風邪を引いたら、ユンホさんの性格だと『俺のせいだ』って自分を責めますよね?
自己嫌悪でユンホさんを苦しませるわけにはいきません!」
...そこまで思い詰めたりはしないけれど、拒絶の理由が分かって安心した。
怖い目をして「駄目」と言われて、少しだけ傷ついてしまったから。
ナイーブになってしまうのは、チャンミンが俺と同じ男だからだ。
女性相手だと、俺じゃあ理解不能かつ理不尽な言動された時、「女性のことはよく分からん」のひと言で片付けられる。
男と女、違う生き物、理解できなくて当然だから、くよくよ悩んでも仕方がない...極論を言うと、俺は悪くない。
ところが、男のチャンミンの言動は、同性だから理解できる。
どうしても俺基準で、言葉の真意をとってしまうから、「嫌」と言うからには、本当に嫌なんだろうと。
...ん、待てよ。
チャンミンは、『嫌よ嫌よも好きのうち』タイプだ(そうに違いない!)
チャンミンの「いやん、馬鹿ぁ」は、「カモーン」かもしれない。
チャンミンを相手にするのは難しいなぁ。
・
「ユンホさんって...左利きですよね?」
「...うん」
「ご兄弟は?」
「妹がいるよ」
「え...お兄さんはいないんですか?」
俺の回答が予想外だったらしい。
「ユンホさんは僕のこと...女っぽいと思ってます?」
「...いいや」
「...嘘ですね」
(ぎく)
「じゃあ、僕のこと...男っぽいと思うことありますか?」
「男っぽいも何も、チャンミンは男じゃん」
「そうですけど...。
男らしい僕に...ドキドキすることありますか?」
「あるよ」
恋の媚薬を飲まされた夜と、昨夜のエレベーター内で抱き寄せた腰の固い感触に、ムラムラに近いドキドキ感を覚えたことを思い出した。
実際は「ドキドキ」というより、「こいつ、男なんだなあ」と再確認みたいな感覚だ。
嬉しそうにしているチャンミンのために、詳しく説明するのは止めにした。
「世の中出回っている情報は、玉石混交です。
正しい知識だけを注意深くゲットしますからね。
僕は何でも疑ってかかる質ですから、おかしな情報をつかんだりはしませんからね。
そこのところは安心してください」
「?」
「好きな人には、気持ちよくなってもらいたいんです。
僕...頑張りますから」
チャンミンはおそらく、アレのことを話しているんだろうけど、理解が追い付かない。
「ユンホさんは男らしいですし、俺について来いって感じです。
...でも、僕は分かってますからね。
僕に任せてください」
分かってるって...何をだ?
任せてくれ...って何をだ?
「僕は頼りないかもしれませんけど、いちお、男ですからね」
「そうだな。
チャンミンは立派な男だよ」
「では。
おやすみなさい」
「おやすみ」
俺は数分ばかり寝付くことが出来ず、目を開けていた。
「...チャンミン?」
ベッドの下の、長々とした塊に声をかけてみたけれど、返事がない。
看病する側がとっとと寝てしまうなんてなぁ...いかにも、チャンミンだなぁと思った。
「ふう...」
じっと耳をすましていれば、チャンミンの可愛い寝言が聞けるかもしれない。
と思いついたものの、夕食後に服用した風邪薬が効いてきたのか、重だるい眠気に襲われてきた。
「...にく...」
俺がキャッチできた寝言はこのひと言だけ。
(焼き肉の夢でも見ていたんだろうか)
・
寝袋チャンミンの語りの意図が、やっとで理解できた!
意気込んでいるチャンミンの方こそ、無理をしているんじゃないか?
こういうことは最初の印象でなんとなく決まるんじゃないかなぁ。
どう見たってチャンミンは、そっち側なイメージだ。
いや...待てよ...。
これはあくまでも、俺が勝手に抱いているイメージだ。
実のところ、チャンミンは征服欲が強い質かもしれないんだ。
なんせ、呪文でトラになってしまった時、チャンミンは攻めまくっていた。
勢いにタジタジとなった俺は、チャンミンに襲われるがままだった(馬鹿力だった)
あれが本性だとすると...。
スラックスの前にくっきりと浮かんだアレ...なかなか立派なサイズだった。
アレが俺の..............................................................無理無理無理無理、無理!
俺の部屋に泊まった夜の「僕に任せて宣言」
さらに、ウメコの助言を真に受けたりなんかしたら...素直なチャンミンのことだ...。
俺の脳裏に、チャンミンに組み敷かれ、彼の身体に四肢を絡めた俺のアヘ顔が浮かんだ。
ぞっとした。
悪い、チャンミン。
俺はこれっぽっちも、押し倒される気はないんだ。
俺の方こそチャンミンを押し倒す気満々なんだ。
俺の愛撫に「ひゃん」とか喘いだりして、すげぇ可愛いはずだ。
・
カウンターに頬杖をついたウメコは、「なるほどねぇ...」と嘆息交じりにつぶやいた。
「ユノもチャンミン君も、挿れる気でいるってことね」
「そうなんだ」
俺はウメコ製のサラダ(ちぎりキャベツにカリカリベーコンを散らした上に、熱したごま油をかけたもの)を消費していた。
(ウメコの店にはメニューがない。客のリクエストに応じて、大抵のものは作ってくれるのだ)
「それでユノは困ってるってことね」
「ああ」
「どっちがそっちになるかは、その人の傾向によるものだからねぇ。
あなたたちの場合、前もって確認しておかなかったからねぇ。
勢いでくっついちゃったからねぇ」
「くっつけたのはお前だろ!」
「酷いわねぇ。
私がいなきゃ、あなたたち未だに同僚止まりよ」
その通りだったから、俺は黙るしかない。
「ユノ。
諦めなさい」
「?」
「あなたはチャンミン君に抱かれるしかないの」
「どうしてウメコが断言できるんだよ!」
「ヤル気いっぱいのチャンミン君を応援したくてねぇ」
「ウメコっ...まさか...!」
「そうなの」
「チャンミンに何を唱えた!?
何を飲ませた!?」
(つづく)
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