ユノはチャンミンに両手を引っ張られ、床を引きずられていた。
「放せ!」
チャンミンにがっちり握られた手を振りほどくことが出来ず、ユノは両足をばたつかせた。
・
荷物のように引きずられているユノ...こんな状況に至ったのは以下の通りだ。
ユノとチャンミンは十数年来の恋人同士だった。
マンネリを恐れたユノは、『浮気ごっこ』をしようとチャンミンに提案したのだ。
マンネリなど感じていなかったチャンミンは当然、乗り気じゃなかった。
でも、しばらく連絡をとらずにいるのも、互いの存在のかけがえのなさが証明されるだろうから、と渋々頷いたのだった。
凝り性のユノは、チャンミンの浮気相手まで用意する念の入れようだった。
1か月間、一切連絡をとらなかった2人。
チャンミンの浮気が本気に変わってしまったのでは?と焦ったユノは、浮気か本気かを見極めるために、チャンミンを試すことにしたのだ。
チャンミンを縛り上げ、男女ものの『AV観賞の刑』に処すことで。
全裸で絡み合う男女を見ても、ぴくりとも反応しなかったチャンミンの下半身に大いに満足したユノ。
浮気疑惑が晴れたチャンミンは、手首の拘束が解かれると同時に、今度はユノを拘束したのだった。
チャンミンによる、ユノへのお仕置きの時間がこうしてスタートしたのである。
・
寝室まで引きずられたユノは、チャンミンによってベッドの上へと引き上げられた。
(何をされるか皆目わからんが、チャンミンのことだ、手荒なことは出来ないだろう。
あまあまの甘ちゃんだからなぁ...くすり)
面白くなってきたユノは、途中で抵抗を止めていたのだ。
チャンミンはユノの手首にネクタイを8の字に巻きつけた後、ベッドヘッドの柵に結び付けた。
「よし、と」
「チャンミン。
こんなゆるゆるじゃ、解けちまうぞ?
2重に巻かないと。
ほら...取れちゃった」
ユノは手首を掲げて見せる。
「あーー!」
「チャンミンは困ったちゃんだなぁ。
SMの女王様になりたかったら、容赦なくやらないと」
「SM!?
そんなつもりは、全然ないんだよ!」
「え?
違うの?
俺をむち打ちするんじゃなかったの?」
「むち打ち!?
僕にはそーんな趣味はありません!」
「まあまあ。
認めたくない気持ちはわかるよ。
あそこのチェストの引き出し開けてみて...1段目」
ユノの指示に従ったチャンミンは、その中身に驚愕するのだ。
「!!」
出てきたものは手錠...ふかふかのファーが巻かれている。
「それから...衣装もあるんだ、着てよ」
「衣装!?」
「引き出しの2段目」
「ユ、ユ、ユノーーー!?」
「チャンミンに着せたくって、用意したんだ。
着て見せて、な?」
肝心な箇所を隠す布切れのない、縁取りだけのブラジャー。
「ちゃんと下のものあるぞ」
「...これ?」
それをつまむチャンミンの手は震えている。
「ちっちゃい...んですけど...」
手の平におさまる革製の小さな三角。
「俺のは無理だけど、チャンミンのサイズなら収まるんじゃないかなぁ?」
「言っていいことと、悪いことがあるんだからね!」
ユノのひと言に、ブチっとキレたチャンミンは、ベッドに悠々と寝っ転がったユノに突進する。
「気にしてるんだから!
...小さいって...酷い、酷いよ!」
両肩をつかんで上下に揺するチャンミン。
「小さいなんて、一言も言っていないだろう?」
「言ってるのと同じだよ!」
「俺のモノは大きくないと、駄目なんだ。
何故だか、分かるだろ?」
ユノの問いかけに、チャンミンは動きを止めた。
「...分からない」
「チャンミンを悦ばせないといけないだろ?
だから、俺のモノは大きくないとダメなの!
わかった?
チャンミンは、サイズを気にしなくてもいいんだ。
そのままでいいんだよ」
ユノはチャンミンの頭をよしよし、と撫ぜた。
「うーん...」
納得したようなしないような、誤魔化されたような馬鹿にされたような、チャンミンの心情は複雑だ。
「ムカついたんだろ?
俺をしばきたいんだろ?
どうせやるなら本格的にやろうぜ」
「...本格的って...ええっ!?
あれを着るの?」
「チャンミン、今の自分の恰好、気付いてる?
下だけすっぽんぽんって...。
煽ってるのか、笑われたいのか...どっちなんだよ?」
「わっ!」
ワイシャツだけを身につけた姿に、チャンミンはその場にしゃがみこんだ。
(ユノにお仕置きされた時のままだった!)
両膝を内股にくっつけた座り方に、ユノは「こういうとこに、俺は弱いんだよなぁ」と。
「レザー・パンティを履いてくれ。
チャンミンのパンツはリビングだし、ついでだからさ、履いてみて?」
「う...」
チャンミンはたっぷり30秒、ちっぽけな革きれを見つめていたが、意を決してそれに足を通した。
(やべーーーーー!)
その姿にユノは内心、悶絶する。
(似合い過ぎて...怖い)
紅潮した頬は、ユノが興奮している証拠だと、チャンミンは嬉しくなってきた。
「黒革の女王様になって、俺のお尻をビシーッとやっちゃってくれ」
「ユノを叩けるわけないでしょう?」
「痛みも快楽を呼ぶらしいよ。
俺たちに足りないものは、刺激だ」
「え...ユノは僕と一緒にいて、つまんないの?」
「そういう意味じゃないけど...」
ぬくぬくと平和な関係性に、ぴりっとしたスパイスが欲しくなっていたのが、ユノの本音だった。
「僕といてつまんないんだな!」
日頃大声を出すことのないチャンミンだったから、ユノはビクッとする。
「僕だって...僕だって...!
ユノにはお仕置きが必要だね!」
「俺が何をしたって言うんだ?
チャンミンと違って、俺は女とデートなんかしてないぞ?」
「あれはっ!
デートじゃない!
一度だけご飯を食べただけだよ!」
「ふぅん」
「とにかく!
僕は怒っているんだ」
「何に怒ってるんだよ?
チャンミンとヤッてるとこを盗撮したことか?」
「...違う」
「お仕置きって...俺が何をしたっていうんだよ!?
お互いに『浮気っぽいこと』しようって決めたのに、お前ときたら、刺客の誰ひとり送り込んでこないんだから!」
「...だって...嫌だったんだもん。
男の人でも女の人でも、ユノに近づく人はみんな...許せない!」
「...チャンミン」
(胸アツ...胸キュン)
「そもそも『浮気ごっこ』を持ち出したユノに、僕はモーレツに怒ってるの!」
「はいはい。
分かったから、その『お仕置き』とやらをしてくれよ」
手錠をはめやすいよう、両手首をチャンミンに突き出してやる。
「僕は知ってるんですよ。
ユノが『どM』だってことに」
にたり、とチャンミンは笑う。
「『どM』なのはチャンミンの方だろ!?」
手錠に拘束された両手を万歳した格好で、ユノは仰向けに横たわっている。
チャンミンはベッドに上がると、ユノを跨いで大股で立った。
ユノの目線が、チャンミンのあの辺りにロックオンされてしまっても仕方がない。
「いい眺めだよ」
「見るな!」
チャンミンはワイシャツをいっぱいに引き落として、件の盛り上がりを隠す。
「...で?」
チャンミンもユノの上に立ちはだかったものの、その後の展開を考えていたわけではなかった。
(こんなちんちくりんなパンツを履かされて、結局自分は何がしたかったのか分かんなくなっちゃったよ!)
「チャンミン」
「何?」
「今日はなんの日だ?」
ユノの問いに、チャンミンは首を傾げた。
「...分かんない」
「チェストの一番下にいいものがあるから、取ってきて」
「僕にプレゼント?」と、首を傾げながらも、ユノからの贈り物は何でも嬉しいチャンミン。
1段目には手錠が入っていた、2段目にはコスチュームが入っていた。
じゃあ、3段目には?
「!!!!」
「可愛いだろ?」
それは、ふわふわの真っ白いファーの塊だった。
(つづく)
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