「浮気が本気になってどうする?」
ユノはチャンミンの鼻に触れんばかりに顔を寄せて、こう言った。
どすのきいた低い声音に、チャンミンの背筋に寒気が走った。
ユノとチャンミンは交際15年の恋人同士。
15年も一緒にいれば、関係もだれてくる。
『浮気ごっこ』をしよう!
マンネリを打開するために閃いたのが、これだった。
・
チャンミンのお相手の人選に、ユノは頭を悩ませた。
(美人過ぎるのも駄目だ。
チャンミンは美人に弱い。
本気になってもらったら困る。
10人並み以下の容姿で、地味で大人し過ぎる女も駄目だ。
女の方がチャンミンに夢中になってしまう。
かと言って、男をあてがったら危険だ。
『ウケ』同士じゃ繋がろうにも、繋がれなくて、ベッドの上で困り果てるチャンミンが哀れだ。
『タチ』に目覚めてもらっても困る。
『タチ』役をあてがったら...俺だけの穴に俺以外のものがぶち込まれてると想像したら...嫉妬で狂い死んでしまうではないか!
とにかく、男は駄目だ、女じゃないと。
それならばと、派手で美人じゃなく、地味な冴えない女の中間を狙ったのがいけなかったのか...)
「誰が交際していい、と許可をした?」
チャンミンはユノの質問に答えられない。
口はユノのネクタイで塞がれており、「んーんー」と唸ったり、首を振るしかないのだ。
チャンミンの両手は後ろ手に、ユノのネクタイで拘束されていた。
・
ここはユノの部屋。
「チャンミンちまで送ってやるよ」
疲れた肉体で、満員の終電に揺られることに気が重かったから、ユノの親切にチャンミンは素直に喜んだ。
ゲームの最中は、口をきかない、電話もメールも禁止だった。
(ユノったら...。
先にギブアップしたのは、ユノだね...うふふふ)
勝利の予感にほくそ笑んでいられたのもつかの間。
(あ...れ...?)
ユノが運転する車が向かった先は、チャンミンの部屋ではなく、ユノの部屋。
ユノの黒目がちの眼の中に、真っ赤な炎がゆらめいていて、白い肌が青ざめていた。
ユノはダイニングチェアを、リビングの真ん中に引きずってくると、「ここに座れ」とチャンミンに命じた。
チャンミンは、ユノの意図が読めないまま、素直に従った。
チャンミンの首からネクタイがほどかれ、「ああ、脱がされるんだ」と期待が膨らむ。
(ユノとは一か月もご無沙汰だったからな...ドキドキ)
...と、呑気にしていられたのもそこまでだった。
「あっ!」という間に、チャンミンは猿ぐつわをかまされた。
続いてユノは、自身の襟元からネクタイをしゅるりと抜き取った。
そして、チャンミンの両手を背もたれの後ろで組ませ、その手首にネクタイをぐるぐる巻きにした。
「!!」
チャンミンは抗議の意を伝えたくても、口は塞がれているから唸るしかない。
「さて、と」
チャンミンの真正面には大画面テレビ。
ユノはリモコンを手にし、チャンミンの背後に立った。
「お仕置きの時間だ」
リモコンを操作し、画面に映し出されたものに、チャンミンは目を剥き、即座に顔を背けた。
「んーんー!」
「おーっと、チャンミン。
前を向いてろ」
背けるチャンミンの頭を両手で挟み、正面に向ける。
「よく見るんだ」
テレビ画面に映し出されたのは、全裸の男女。
「んーんー!」
「チャンミン...あの二人は、何をしているのかな?」
チャンミンはぎゅっと目を閉じる。
「おーっとチャンミン。
目をつむったら、『黒』とみなすぞ?」
ユノの脅しに、チャンミンは慌てて目を見開く。
あんあんと啼く女の高い声。
男に乳房と股間をまさぐられて、身をよじる女。
「さて、と」
ユノはチャンミンの足元に胡坐をかくと、ある一点を凝視し始めた。
男の腰の動きに合わせて、ギシギシとマットレスが軋む音。
「ズボンが邪魔だ」
ユノは映像を一時停止させた。
チャンミンのボトムスのウエストを緩め、左右の裾をつかむと、一気に引きはがした。
「んーー!!!」
勢い余って尻もちをついてしまったユノは、敏捷に起き直った。
そして、足をジタバタさせるチャンミンに構わず、最後の1枚も脱がせてしまう。
「んー!!」
とんでもなく恥ずかしい恰好に、チャンミンの目に涙が浮かんだ。
(下だけすっぽんぽんだなんて...!)
(チャンミン、許せ。
これは全て、俺たちのためにしていることなんだ)
ユノは再生ボタンを押し、チャンミンの両脚の間の観察に戻った。
「ムスコを挟むなって!
脚を広げてろ」
両膝をぐいっと押し広げた。
TVでは、フィニッシュが近い証拠に、女が啼きっぱなしだ。
「どうだ、チャンミン?
興奮するか?」
ユノはチャンミンのアソコから目を反らさず、問いかける。
「......」
(そっか、チャンミンは喋れないんだった)
「浮気相手と...おっと、言い間違えた...本気になった女と、こんなことしてたのか?」
チャンミンはぶんぶんと首を振る。
「してないのか?」
チャンミンはこくこくと首を振る。
「嘘をつくんじゃない。
一か月も付き合っておいて、指一本触れてないなんて、あり得ないよ」
ネクタイの下で、もごもごとチャンミンは何か言っている。
「ふうん。
じゃあ、手くらいは繋いだか?」
一瞬の間を置いた後、チャンミンは軽く頷いた。
「それじゃあ、キスくらいはしたか?」
「......」
「したんだな?」
渋々と言った風に、チャンミンは頷いた。
「そうか...チャンミンは、俺という恋人がいるのに、女とキスしたってわけか?」
ユノは後ずさりをしてチャンミンから離れると、「そっか...」ともう一度、哀し気につぶやいた。
(つづく)
[maxbutton id=”23″ ]