(3)お仕置きの時間(前編)~チャンミンver.~

 

 

「浮気が本気になってどうする?」

 

ユノはチャンミンの鼻に触れんばかりに顔を寄せて、こう言った。

 

どすのきいた低い声音に、チャンミンの背筋に寒気が走った。

 

ユノとチャンミンは交際15年の恋人同士。

 

15年も一緒にいれば、関係もだれてくる。

 

『浮気ごっこ』をしよう!

 

マンネリを打開するために閃いたのが、これだった。

 

 

 

 

チャンミンのお相手の人選に、ユノは頭を悩ませた。

 

(美人過ぎるのも駄目だ。

チャンミンは美人に弱い。

本気になってもらったら困る。

10人並み以下の容姿で、地味で大人し過ぎる女も駄目だ。

女の方がチャンミンに夢中になってしまう。

かと言って、男をあてがったら危険だ。

『ウケ』同士じゃ繋がろうにも、繋がれなくて、ベッドの上で困り果てるチャンミンが哀れだ。

『タチ』に目覚めてもらっても困る。

『タチ』役をあてがったら...俺だけの穴に俺以外のものがぶち込まれてると想像したら...嫉妬で狂い死んでしまうではないか!

とにかく、男は駄目だ、女じゃないと。

それならばと、派手で美人じゃなく、地味な冴えない女の中間を狙ったのがいけなかったのか...)

 

「誰が交際していい、と許可をした?」

 

チャンミンはユノの質問に答えられない。

 

口はユノのネクタイで塞がれており、「んーんー」と唸ったり、首を振るしかないのだ。

 

チャンミンの両手は後ろ手に、ユノのネクタイで拘束されていた。

 

 

 

ここはユノの部屋。

 

「チャンミンちまで送ってやるよ」

 

疲れた肉体で、満員の終電に揺られることに気が重かったから、ユノの親切にチャンミンは素直に喜んだ。

 

ゲームの最中は、口をきかない、電話もメールも禁止だった。

 

(ユノったら...。

先にギブアップしたのは、ユノだね...うふふふ)

 

勝利の予感にほくそ笑んでいられたのもつかの間。

 

(あ...れ...?)

 

ユノが運転する車が向かった先は、チャンミンの部屋ではなく、ユノの部屋。

 

ユノの黒目がちの眼の中に、真っ赤な炎がゆらめいていて、白い肌が青ざめていた。

 

ユノはダイニングチェアを、リビングの真ん中に引きずってくると、「ここに座れ」とチャンミンに命じた。

 

チャンミンは、ユノの意図が読めないまま、素直に従った。

 

チャンミンの首からネクタイがほどかれ、「ああ、脱がされるんだ」と期待が膨らむ。

 

(ユノとは一か月もご無沙汰だったからな...ドキドキ)

 

...と、呑気にしていられたのもそこまでだった。

 

「あっ!」という間に、チャンミンは猿ぐつわをかまされた。

 

続いてユノは、自身の襟元からネクタイをしゅるりと抜き取った。

 

そして、チャンミンの両手を背もたれの後ろで組ませ、その手首にネクタイをぐるぐる巻きにした。

 

「!!」

 

チャンミンは抗議の意を伝えたくても、口は塞がれているから唸るしかない。

 

「さて、と」

 

チャンミンの真正面には大画面テレビ。

 

ユノはリモコンを手にし、チャンミンの背後に立った。

 

「お仕置きの時間だ」

 

リモコンを操作し、画面に映し出されたものに、チャンミンは目を剥き、即座に顔を背けた。

 

「んーんー!」

 

「おーっと、チャンミン。

前を向いてろ」

 

背けるチャンミンの頭を両手で挟み、正面に向ける。

 

「よく見るんだ」

 

テレビ画面に映し出されたのは、全裸の男女。

 

「んーんー!」

 

「チャンミン...あの二人は、何をしているのかな?」

 

チャンミンはぎゅっと目を閉じる。

 

「おーっとチャンミン。

目をつむったら、『黒』とみなすぞ?」

 

ユノの脅しに、チャンミンは慌てて目を見開く。

 

あんあんと啼く女の高い声。

 

男に乳房と股間をまさぐられて、身をよじる女。

 

「さて、と」

 

ユノはチャンミンの足元に胡坐をかくと、ある一点を凝視し始めた。

 

男の腰の動きに合わせて、ギシギシとマットレスが軋む音。

 

「ズボンが邪魔だ」

 

ユノは映像を一時停止させた。

 

チャンミンのボトムスのウエストを緩め、左右の裾をつかむと、一気に引きはがした。

 

「んーー!!!」

 

勢い余って尻もちをついてしまったユノは、敏捷に起き直った。

 

そして、足をジタバタさせるチャンミンに構わず、最後の1枚も脱がせてしまう。

 

「んー!!」

 

とんでもなく恥ずかしい恰好に、チャンミンの目に涙が浮かんだ。

 

(下だけすっぽんぽんだなんて...!)

 

(チャンミン、許せ。

これは全て、俺たちのためにしていることなんだ)

 

ユノは再生ボタンを押し、チャンミンの両脚の間の観察に戻った。

 

「ムスコを挟むなって!

脚を広げてろ」

 

両膝をぐいっと押し広げた。

 

TVでは、フィニッシュが近い証拠に、女が啼きっぱなしだ。

 

「どうだ、チャンミン?

興奮するか?」

 

ユノはチャンミンのアソコから目を反らさず、問いかける。

 

「......」

 

(そっか、チャンミンは喋れないんだった)

 

「浮気相手と...おっと、言い間違えた...本気になった女と、こんなことしてたのか?」

 

チャンミンはぶんぶんと首を振る。

 

「してないのか?」

 

チャンミンはこくこくと首を振る。

 

「嘘をつくんじゃない。

一か月も付き合っておいて、指一本触れてないなんて、あり得ないよ」

 

ネクタイの下で、もごもごとチャンミンは何か言っている。

 

「ふうん。

じゃあ、手くらいは繋いだか?」

 

一瞬の間を置いた後、チャンミンは軽く頷いた。

 

「それじゃあ、キスくらいはしたか?」

 

「......」

 

「したんだな?」

 

渋々と言った風に、チャンミンは頷いた。

 

「そうか...チャンミンは、俺という恋人がいるのに、女とキスしたってわけか?」

 

ユノは後ずさりをしてチャンミンから離れると、「そっか...」ともう一度、哀し気につぶやいた。

 

 

(つづく)

 

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