~ユノ~
「汗をいっぱいかいたので、お風呂をお借りします」と言って、チャンミンは立ち上がった。
目の高さに彼女のお尻が迫ってドキッとする。
「どうぞ、ごゆっくり」
浴室に向かう彼女の背中を見送った。
・
「ユノさーん!」
「はっ!」
浴室から俺を呼ぶ大声で目が覚めた。
知らぬ間にうたた寝をしていたみたいだ。
「ユノさーん!」
「チャンミンちゃん!?」
俺は飛び起きると浴室まで走った。
「大丈夫?」
曇りガラス越しに、浴室内へ声をかけた。
・
「チャンミンちゃん?」
俺は曇りガラスの向こうへ声をかけた。
「お願いがあります」
「どうした?」
「あのですね。
僕の服を取ってきてくれませんか?
着替えを持ってくるのを忘れてました」
そういえば、部屋に寄らずに浴室に直行していたことを思い出した。
「着ていた服も...」
俺の背後で洗濯機が回っていた。
「洗っちゃったんだ、全部?」
「...はい」
「適当に何か持ってくればいいんだね?」
「引き出しの一番上に、Tシャツワンピが入ってます」
「どれでもいい?」
「はい。
それから、一番下にパンツが入ってますので...」
説明をしかけた彼女の言葉が止まる。
「Tシャツとパンツだね?
適当に選んでいいんだね?」
Bの下着を1年間洗濯してきたから、ショーツ程度では動じない。
「ストップ!」
彼女の部屋へ向かいかけたところを呼び止められた。
「ユノさん、ストップです!」
「他の物には触らないから安心して」
「持ってこなくていいです!」
「なんで?」
「恥ずかしいからです!
パンツを見られたくありません!」
「パンツくらい、どうってことないよ」
「そういうわけにはいきません!
バスタオル、取ってください!」
浴室のドアがわずかに開いて、その隙間から彼女の手がにゅっと伸びた。
(そこまで恥ずかしがらなくてもいいのに...)
「はい」と、彼女の手にバスタオルを握らせた。
「ユノさん、後ろ向いててくださいね!」
「え?」
「僕、部屋まで走りますから!」
(そっちの方が恥ずかしいだろ!)
「ちょっと待った!
俺、あっちに行っ...。
あでぇっ!!!」
彼女が勢いよく開けたドアが、俺の鼻に直撃したのだ。
「ううう...」
「わー!
ごめんなさい!」
激痛にうずくまっていると、
「鼻血!?
鼻血ですか!?」
「鼻血は...出てない」
「ごめんなさい!」
このパターン、以前にもあったぞ。
あわてんぼうの彼女の側にいると、ハプニングの連続だろうな(かかってこい)
「だ、大丈夫だから...。
チャンミンちゃんは、着がえておいで...」
俺は鼻を押さえたまま、ひらひらと手を振る。
「了解です!
すぐに手当てしに戻りますから。
僕に任せてください!
待っててくださいよ!」
「オケ...」
彼女はびしょ濡れのまま、バスタオルを身体に巻き付けただけの格好で洗面所を出ていった。
数秒もしないうちに、
「きゃあぁ!」
悲鳴と共にドターンという音。
この直後に、大大ハプニングが起きたのだ。
・
「チャンミンちゃん!」
俺は鼻の痛みを瞬時に忘れ、音がしたリビングへ走った。
フローリングの床に、仰向けでひっくり返っている彼女がいた。
濡れた身体から落ちた水で足を滑らせたらしい。
「大丈夫か!」
傍らに駆け寄り、白目をむいた彼女の頬をペチペチと叩く。
「チャンミンちゃん!」
「う...うーん...」
彼女はしばらく視線をさまよわせていたが、ようやく俺の顔にピントが合ったようだ。
「ユノ...さん?」
「よかったー。
濡れた足で走ったりしたら転んじゃうって」
「...すみません。
僕ってあわてんぼうのおっちょこちょいなんです」
転んだ勢いでバスタオルの結び目がほどけてしまったようで、彼女の胸元が露わになってしまっていた。
介抱に向かった時はそれどころじゃなかったが、彼女の無事を確かめた今になって、彼女の裸体を意識し始めた。
俺の視線に気づき、彼女は両手で胸元を覆った。
「見ないで!」
「見てない見てない」
俺はそっぽを向いてあげたが、ぺちゃぱいを通り越して真っ平な胸に驚いていた。
驚いた表情は決して見せてはならない。
「俺の肩をつかんで」
彼女の腰に腕を回し、抱き起こした時のことだ。
彼女のウエストから下を隠していたバスタオルが、パサリと床に滑り落ちた。
「!!!!!!」
俺の全身が凍り付いた。
世の中がひっくり返るとは、こういう場面をいうのだろう。
(つづく)
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