~ユノ~
「最低!
あなたはクズよ!
最低!
浮気者!」
リアの振り回す腕が、俺の顔や頭を打ち付ける。
「まるで私だけが悪いみたいに責めるなんて卑怯者!
好きな女がいるのなら、はっきりそう言えばいいじゃないの!」
リアの言う通りだったから、俺は叩かれるままでいたけれど、さすがに...痛い。
リアの手首を持って動きを封じたら、彼女は崩れるように床に座り込んでしまった。
「どんな子?
私の知っている子?」
俺はリアの質問に答えず、彼女の手を引っ張って立ち上がらせようとした。
と突然、リアが俺の首にかじりついてきた。
リアの肩を抱くべきか、彼女の腕を振りほどくべきか悩んでいた。
「好きな女がいるんでしょ?」の台詞で、視界が開けたような気がしたんだ。
リアには悪いけれど。
リアとの関係を清算しようと決意した理由。
リアとの生活がむなしくて、彼女への興味が薄れてしまったのは常日頃感じていたことで、「別れた方がいいのでは?」の気持ちは湧いては打ち消していた。
気持ちを打ち消していた理由は、変化を恐れていたこと。
過去に交際してきた女性たちとの間で経験した、辛かった時期を思い起こす。
関係を清算する際に発生する事柄...。
例えば...別れ話中のすったもんだ、引っ越し手続きと持ち物の線引き、友人たちへの説明...そして、心を襲う寂しく悲しい想い。
リアの反応が怖かった。
そんな中、優柔不断な俺の前に“あの子”が現れた。
その日の夜に、俺はリアとの別れを決意した。
好きな人ができたから、リアと別れようと決意したんだった。
俺の気持ちが、ここで初めて明確になったのだった。
「別れる前に、ひとつだけお願いを聞いてくれる?」
「ああ」
リアと別れられるのなら、何でもしてやろうと思った。
最後のお願いを叶えてやろうと思った。
この時の俺のずるい考えが、その後の物事を複雑にしてしまったのだ。
(つづく)