(59)オトコの娘LOVEストーリー

 

~チャンミン~

 

病院までのタクシーの中、猛烈な睡魔に襲われた僕はうとうとしかけていた。

 

ジェットコースターみたいに感情が急上昇と急降下を繰り返して、ヘトヘトだったのだ。

 

これから数日間はお兄ちゃんちの家事手伝いで大わらわになって、思い煩う暇もないだろうから助かった。

 

ユノさんはタクシーに乗り込んでからずっと無言で、反対側のサイドウィンドウの外を見ている。

 

深夜過ぎに一人で行かせるのは心配だから送っていくって、僕を子供扱いするユノさん。

 

タクシーを使うから、外を歩くこともないのに。

 

でも、ちゃんと僕のことを思ってくれてることが分かって嬉しかった。

 

お兄ちゃんみたいに頼れる人。

 

ユノさんを見ていたら、YUNさんとのキスが遠い出来事になってきた。

 

それくらい、ユノさんとリアさんのことが衝撃だった。

 

ユノさんに質問したのに僕の欲しい回答は得られなかったし、彼の言い訳も聞けなかった。

 

病院まではあと30分以上はかかるから、時間は十分。

 

ユノさんに、もう一回質問してみよう。

 

「あ...!

忘れるところだった...」

 

YUNさんに連絡を入れなくては!

 

お義姉さんの出産の件で数日間お休みをもらうことは、面接の時に伝えてあったから、許可はもらえれるはずだ。

 

時刻はもうすぐ午前3時で、YUNさんは寝ている時間だろうからメールを送ることにした。

 

『夜遅いですので、メールにて失礼します...』とメールを打った。

 

YUNさんが恋人の背中を抱いて眠っている光景が、ぼわーんと頭に浮かんだのを首を振って消去した。

 

長文にならないように簡潔に文章を考え考え、送信ボタンを押した僕はふうっと息を吐いてシートに深くもたれた。

 

「チャンミンちゃん?」

 

窓の景色を眺めていたユノさんが、いつの間にか僕の様子を窺っていたのだ。

 

「上司に連絡をしました。

数日はお仕事を休まなければならないので...」

 

「そっか...」

 

「ふう」って深く息を吐いたユノさんの胸が、大きく上下した。

 

視線を落とすと、ユノさんは落ち着きなく膝をとんとんと指で叩いている。

 

何かイライラすることでもあるのかな...って思っていたら、

「ひ!」

 

リュックサックを抱えていた僕の手に、ユノさんの手が重なった。

 

ビクッと跳ねると、ユノさんの手に力がこもった。

 

隣のユノさんは、じっと視線を前に向けたままだ。

 

「え...っと?」

 

ユノさんの手の中でもぞもぞと指を動かしていたら、僕の指の間に彼の指が滑り込んできて、ぎゅっと握りしめられた。

 

こ...これは...『恋人繋ぎ』ではないですか!?

 

ぐんと体温が上がって、脇の下や手の平にどっと汗がにじみ出たのが分かる。

 

ユノさんの意図がわからなくて、繋がれた手と彼の横顔を交互に見た。

 

「チャンミンちゃん」

 

「はい...」

 

「ここでの生活は慣れた?」

 

「は、はい。

未だに反対方向の電車に乗っちゃうこともありますけど...なんとかやってます」

 

「そっか...。

仕事は楽しい?」

 

「楽しいと感じられるまでには至ってません。

おっちょこちょいですし、要領が悪くて...でも、上司の方が寛大な方なんです。

本当にありがたいことです」

 

ユノさんは僕の手を握ったままだ。

 

僕も男だけど、ユノさんの方が一回り大きな手をしていて嬉しかった。

 

ユノさんの手に包まれた指を動かして、彼の手の甲や指の節の骨を、指先でなぞる。

 

ユノさんは何も言わない。

 

「上司の人はいい人なんだ?」

 

「はい。

今夜は夕ご飯を御馳走してくれたんですよ...。

あっ!!」

 

しまった!!

 

仕事終わりに”上司と食事”...よくよく考えたら怪しい響きじゃないですか!(ユノさんに心配をかけてしまう)

 

「えっ!

そうだったの?」

 

繋いだ手に力がこもり、ユノさんが僕を覗き込む。

 

「えーっと...その...歓迎会みたいなものです...」

 

職場は僕とYUNさんの2人だけですけどね、と心の中で補足した。

 

「だから、ワンピースを着て行ったんだ?」

 

「そうです。

似合いもしないのに、着て行っちゃったんです...。

気合を入れ過ぎました」

 

両耳が熱い。

 

手の平も汗でびしょびしょだろうから、恥ずかしくて繋いだ手を引っ込めようとしたけれど、ユノさんは離してくれない。

 

「似合ってたよ、すごく」

「ホントですか!」

 

嬉しくてぱっと顔を上げたけど、ワンピース姿を見られた時の状況を思い出してしまった。

 

ユノさんはリアさんと、アレをしようとしていた(アレの後かな?前かな?最中かな?)

 

「あの状況で、よく見えましたね」

 

ぼそっと言った僕の声が、嫌味に満ちていてイヤになる。

 

「ちゃんと見えてたよ...あんな状況だったけれど...。

ねえ、チャンミンちゃん...」

 

ユノさんの声のトーンが低くなった。

 

「ひとつだけ言い訳させてくれないかな?」

 

そうなんだ。

 

ユノさんから言い訳が聞きたかったんだ。

 

(つづく)