~チャンミン~
思案を巡らす僕を、ユノは「大丈夫か?」と、心配そうにのぞき込んだ。
控え目ロゴのTシャツとアイスグレーのスリムパンツ...さりげなくテーブル下をのぞくと、流行りのスニーカー履き。
ブリーチしたてなのか、こまめにアフターケアをしているのか、髪の根元まで綺麗な金髪で、白い肌によく似合っている。
片耳にはピアスが3つ。
ところが、その黒目がちな眼は小動物のように無垢で、今どきな若者の見た目とのギャップにやられた。
しまった...人選を誤ったかな。
この男は『善良』過ぎるかもしれない。
騙して押し倒して、ヤルことだけヤッてバイバイする予定でいた僕。
ユノのアレを僕のアソコにずぶりと埋めて、がんがんに腰を振ってもらうつもりでいたのになぁ。
僕の欲望を満たす為に利用されるユノを思うと、ちくりと良心がとがめた。
「いただきまーす」と大口を開けた直前に、慈悲の情に邪魔されて、丸飲みすることに迷ってしまった虎...こんな感じ。
でも、ここで引いてしまうにはいい男過ぎた。
そうだそうだ、僕は恋愛に関してはクズ男なのだ。
僕の考えなど露知らず、運ばれてきたハイボールをちびちびとすすっている。
アルコールが苦手だという話は、本当のことみたいだった。
僕は店員さんを呼び止めて、イケメン過ぎる下戸のためにメロンソーダをオーダーしてあげた。
こういうさりげない気配りが、男の心をくすぐるんだなぁ。
計算づくの僕の言動...おいしそうな男を前にすると僕は下心を隠した...爪を隠した虎になるんだ。
「ズバリ訊いてしまうけど、フラれた理由って何?
あ!
言いたくなかったら、いいんだぞ」
ユノは僕を慰めようと、話を振ってくれた。
困ったな...。
ユノの警戒心を緩めるために、僕も失恋した設定で近づいてはみたものの、具体的なエピソードを何も用意していなかった。
「泣き言でも愚痴でも、口に出すと気が楽になるぞ。
俺はあんたとは初対面だから、かえっていいんじゃないかな?
これが友人だったら全力で励まされたり、別の子を紹介されたり余計なおせっかいを焼かれたりしてさ。
無理に話せとは言わないから」
本気で親身になってくるユノに、調子が狂う。
これぞというネタが思いつかなかった僕は、代わりにユノに話をふった。
「ユノは?
フラれた理由は何だったの?」
「んー」
言い渋るユノ。
ユノの過去の話なんて全然興味がなかったけど、僕は興味津々とばかりに、ずいっと身を乗り出した。
この角度だと、第3ボタンまで外した襟元から、僕の胸が見えるハズ。
マッチョ過ぎないギリギリラインを狙ってつけた、ガリガリでもない、ムッキムキでもない...いい感じの胸板が見えるはずだ。
もっと深く屈めば、乳首を見せられるけど、やりすぎは禁物。
ユノは女の子が好きなノーマル男子だから、男オトコしていない中性的であるのがいい。
「おい。
乳首が見えてるぞ。
ボタンをかけた方がいいんじゃないか?」
...駄目か...。
顔を赤らめている風でもなく、僕の胸元を指すユノはしごく真面目に言っているらしい。
見えたとしても初対面の者にずばり指摘できないのが普通だろう。
気づいていても気付いていないフリ、っていうの?
「かけた方がいいぞ。
ボタンが取れてるのかな?って、さっきから思ってたからさ」
「教えてくれてありがと」
「もしファッションとしてボタンを開けてたのなら、ごめんな。
見せつけたいのかな?とも思ってたからさ」
まるで僕に露出癖があるみたいじゃないか、と僕の方が顔を赤くして、ボタンを留めた。
「どうりですうすうするなぁって、思ってたんだ」
と、答えるしかない。
ユノには色気作戦は通じない。
これは強敵だぞ、と思った。
流れが中断してしまったが、
「話の続き。
フラれた理由って何?」
色気が無理なら、心の距離を縮める作戦に変更だ。
ユノの失恋に同調して、慰め、励まし...失恋同盟を結んで、「やっぱり寂しいな。ひとりになりたくない...」と言わせられれば、僕の作戦勝。
ユノは数秒ほどテーブルに視線を落としていた後、勢いよく顔を上げた。
そして、僕を上目遣いで見る。
黒目がちの目が小動物のようで、やっぱり可愛い、と思った。
(僕の方が、ユノにくらくらっときてどうするだよ、ね?)
「もし、付き合ってる子がえっちするのを拒んでいたら...どう?
あんたはどう思う?」
あり得ない...。
僕の常識ではあり得ない。
セックス無くして恋人でいる理由はどこにある?
(僕は恋愛感情抜きの方がリラックスできるけどね)
「...僕だったら落ち込むかなぁ。
好きじゃないのかな?って思うだろうね。
好きになったのなら、えっち抜きはダメでしょう」
と、答えた。
すると、
「...そっかぁ」
ユノはがっくり首を折り、「はあぁぁ」と深いため息をついた。
ユノの反応に、「ん?」と思った。
「ということは、彼女がえっちするのを嫌がってたの?」
「嫌がったというかなんていうか...。
え~っと、それは...うまくいかなかったっていうか」
と、歯切れが悪い。
ユノの太い首筋と太い鎖骨に僕はくらっときていて、早くこの身体に組み敷かれたくて仕方がなかった。
上品な顔つきのくせして、首から下は逞しい男そのもので、そのギャップにそそられる。
ユノの彼女の気が知れない。
だって、こんなにいい男なのに、彼とヤるのを渋るとは、なんて贅沢な子なんだ。
本当に今夜はついてる!
裸になってしまえば、そいつがどんな服を着てたなんて関係ないけれど、センスがいいにこしたことはない。
例えホテルに向かう道中であっても、互いに腰を抱いて歩く時、見栄えのする男だといい気分になる。
まあ、ちんちくりんだったり、太っちょにはそもそも食指が動かないんだけどね。
ルックス抜群、センスのいい服装...。
ユノが欲しい。
「嫌がってたのは俺の方なんだ」
「なんで!?」
(つづく)
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