(3)ぴっかぴか

 

 

 

~チャンミン~

 

思案を巡らす僕を、ユノは「大丈夫か?」と、心配そうにのぞき込んだ。

 

控え目ロゴのTシャツとアイスグレーのスリムパンツ...さりげなくテーブル下をのぞくと、流行りのスニーカー履き。

 

ブリーチしたてなのか、こまめにアフターケアをしているのか、髪の根元まで綺麗な金髪で、白い肌によく似合っている。

 

片耳にはピアスが3つ。

 

ところが、その黒目がちな眼は小動物のように無垢で、今どきな若者の見た目とのギャップにやられた。

 

しまった...人選を誤ったかな、この男は『善良』過ぎるかもしれない。

 

騙して押し倒して、ヤルことだけヤッてバイバイする予定でいた僕。

 

ユノのアレを僕のアソコにずぶりと埋めて、がんがんに腰を振ってもらうつもりでいたのになぁ。

 

僕の欲望を満たす為に利用されるユノを思うと、ちくりと良心がとがめた。

 

「いただきまーす」と大口を開けた直前に、慈悲の情に邪魔されて、丸飲みすることに迷ってしまった虎...こんな感じ。

 

でも、ここで引いてしまうにはいい男過ぎた。

 

そうだそうだ、僕は恋愛に関してはクズ男なのだ。

 

僕の考えなど露知らず、運ばれてきたハイボールをちびちびとすすっている。

 

アルコールが苦手だという話は、本当のことみたいだった。

 

僕は店員さんを呼び止めて、イケメン過ぎる下戸のためにメロンソーダをオーダーしてあげた。

 

こういうさりげない気配りが、男の心をくすぐるんだなぁ。

 

計算づくの僕の言動...おいしそうな男を前にすると僕は下心を隠した...爪を隠した虎になるんだ。

 

「ズバリ訊いてしまうけど、フラれた理由って何?

あ!

言いたくなかったら、いいんだぞ」

 

ユノは僕を慰めようと、話を振ってくれた。

 

困ったな...。

 

ユノの警戒心を緩めるために、僕も失恋した設定で近づいてはみたものの、具体的なエピソードを何も用意していなかった。

 

「泣き言でも愚痴でも、口に出すと気が楽になるぞ。

俺はあんたとは初対面だから、かえっていいんじゃないかな?

これが友人だったら、全力で励まされたり、別の子を紹介されたり余計なおせっかいを焼かれたりしてさ。

無理に話せとは言わないから」

 

本気で親身になってくるユノに、調子が狂う。

 

これぞというネタが思いつかなかった僕は、代わりにユノに話をふった。

 

「ユノは?

フラれた理由は何だったの?」

 

「んー」

 

言い渋るユノ。

 

ユノの過去の話なんて全然興味がなかったけど、僕は興味津々とばかりに、ずいっと身を乗り出した。

 

この角度だと、第3ボタンまで外した襟元から、僕の胸が見えるハズ。

 

マッチョ過ぎないギリギリラインを狙ってつけた、ガリガリでもない、ムッキムキでもない...いい感じの胸板が見えるはずだ。

 

もっと深く屈めば、乳首を見せられるけど、やりすぎは禁物。

 

ユノは女の子が好きなノーマル男子だから、男オトコしていない中性的であるのがいい。

 

「おい。

乳首が見えてるぞ。

ボタンをかけた方がいいんじゃないか?」

 

...駄目か...。

 

顔を赤らめている風でもなく、僕の胸元を指すユノはしごく真面目に言っているらしい。

 

見えたとしても初対面の者にずばり指摘できないのが普通だろう。

 

気づいていても気付いていないフリ、っていうの?

 

「その方がいいぞ。

ボタンが取れてるのかな?って、さっきから思ってたからさ」

 

「教えてくれてありがと」

 

「もしファッションとしてボタンを開けてたのなら、ごめんな。

見せつけたいのかな?とも思ってたからさ」

 

まるで僕に露出癖があるみたいじゃないか、と僕の方が顔を赤くして、ボタンを留めた。

 

「どうりですうすうするなぁって、思ってたんだ」

 

と、答えるしかない。

 

ユノには色気作戦は通じない。

 

これは強敵だぞ、と思った。

 

流れが中断してしまったが、

 

「話の続き。

フラれた理由って何?」

 

色気が無理なら、心の距離を縮める作戦に変更だ。

 

ユノの失恋に同調して、慰め、励まし...失恋同盟を結んで、「やっぱり寂しいな。ひとりになりたくない...」と言わせられれば、僕の作戦勝。

 

ユノは数秒ほどテーブルに視線を落としていた後、勢いよく顔を上げた。

 

そして、僕を上目遣いで見る。

 

黒目がちの目が小動物のようで、やっぱり可愛い、と思った。

 

(僕の方が、ユノにくらくらっときてどうするだよ、ね?)

 

「もし、付き合ってる子がえっちするのを拒んでいたら...どう?

あんたはどう思う?」

 

あり得ない...。

 

僕の常識ではあり得ない。

 

セックス無くして恋人でいる理由はどこにある?

 

(僕は恋愛感情抜きの方がリラックスできるけどね)

 

「...僕だったら落ち込むかなぁ。

好きじゃないのかな?って思うだろうね。

好きになったのなら、えっち抜きはダメでしょう」

 

と、答えた。

 

すると、

 

「...そっかぁ」

 

ユノはがっくり首を折り、「はあぁぁ」と深いため息をついた。

 

ユノの反応に、「ん?」と思った。

 

「ということは、彼女がえっちするのを嫌がってたの?」

 

「嫌がったというかなんていうか...。

え~っと、それは...うまくいかなかったっていうか」

 

と、歯切れが悪い。

 

ユノの太い首筋と、太い鎖骨に僕はくらっときていて、早くこの身体に組み敷かれたくて仕方がなかった。

 

上品な顔つきのくせして、首から下は逞しい男そのもので、そのギャップにそそられる。

 

ユノの彼女の気が知れない。

 

だって、こんなにいい男なのに、彼とヤるのを渋るとは、なんて贅沢な子なんだ。

 

本当に今夜はついてる!

 

裸になってしまえば、そいつがどんな服を着てたなんて関係ないけれど、センスがいいにこしたことはない。

 

例えホテルに向かう道中であっても、互いに腰を抱いて歩く時、見栄えのする男だといい気分になる。

 

まあ、ちんちくりんだったり、太っちょにはそもそも食指が動かないんだけどね。

 

ルックス抜群、センスのいい服装...ユノが欲しい。

 

「嫌がってたのは俺の方なんだ」

 

「なんで!?」

 

 

(つづく)

 

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