(29)ぴっかぴか

 

ユノの手を引いて、僕は自宅への道を急いでいた。

 

終電まであと30分、途中で気が変わって逃げ出してもらったら困るのだ。

 

ユノとアレをしたいわけじゃなくて(そりゃあ、アレできたら素敵なことだけど)、あの男がユノに植え付けようとした悪いイメージを、できるだけ早く払拭したかったのだ。

 

どうせ僕という男はアバズレみたいな奴だって、早々と開き直るのは止めにした。

 

僕に引っ張られる格好でいたユノは、今は僕と肩を並べて歩いている。

 

「手を離せよ」

「逃げられたら困るもん」

 

その理由もあったけど、ユノと手を繋いでいたかった動機の方が大きいかな。

 

ユノの手首はがっちりと頑強...男の手...胸キュン。

 

いつもの僕が戻ってきた

 

「逃げねぇよ。

まあ、拉致られてるようなものだけどな。

逃げないから、手を離せよ」

 

「照れないで。

誰もいないんだし、ね」

 

間もなく日付が変わろうとしている時刻、片道3車線の幹線道路の歩道を歩いている者などいない。

 

脇道に入ると閑静な住宅地で、直ぐ近くに小学校がある。

 

さっきのファミリーレストラン前を通り過ぎて、シャッターの下りたドラッグストアとガソリンスタンドの前も通り過ぎた。

 

最後、コンビニエンスストアの前で右折したら直ぐだ。

 

後ろポケットの中のスマホが震えていたけど、知らんぷりした。

 

今夜のお相手を探している...後腐れのない...セフレのうちの一人からだろう。

 

「はい、到着しました」

「!!!」

 

案内された建物を見るなり、ユノは僕の手を振りきった。

 

逃げだそうとしたユノの手首を、両手でつかんで捉えた。

 

「離せ!」

 

僕の手をふりほどこうとするユノに、負けるもんか!

 

「ユノ!

違うって!」

 

「何度も言ってるだろ!

俺はあんたと寝るつもりはない!」

 

さすが逞しいユノだ。

僕は半ば引きずられてしまい、腰を落として必死に抵抗した。

 

「分かってるってば!」

 

「俺を騙したな!」

 

「騙してない!」

 

「ラ、ラ、ラブホテルじゃねぇか!」

 

「『元』ラブホテル!

ラブホテル『だった』建物だってば!」

 

「信じらんね~!

そんなバカな話あるかよ!」

 

ユノは真剣に頭にきているようだ。

 

目尻がキュッとキツネみたいに切れあがり、黒目がちの眼がギラッと輝いているのが、暗がりにも関わらず、よく分かった。

 

怒りでマヂになったユノの顔...悪くないねぇ。

 

ユノが逃げ出そうとしたのも当然か。

 

「ホントにホントの話!

見てよ、郵便ポストがあるでしょ?

暖簾もないでしょ?

看板もないでしょ?

営業してないでしょ?」

 

僕の指摘にユノは恐る恐るエントランスに近づいて、郵便ポストを確認している。

 

引き返して門柱のプレートに刻まれた『メゾン・ラスベガス』のマンション名に、腕を組みしかめっ面をしていた(僕もこの名称は気に入っていない)

 

壁の色がど派手なパープル色だし、メルヘンな門構えではあるけれど、そこを無視すればれっきとしたマンションだ。

 

暖簾(正式な名称は分からない)がはずされた駐車場には、住民の車が並んでいる。

 

「う~ん...」

 

「ね?

最近流行ってるんだよ。

ラブホテルを賃貸物件にリノベーションするってのが。

プライバシー面はばっちりだし、お風呂もトイレもある。

強いて欠点を上げれば、キッチンが狭いことかなぁ」

 

鍵を...と後ろポケットを探りかけた僕は、重大なミスを思い出した。

 

「...どうしよう」

 

部屋のカードキーは財布の中、財布は革パンのポケット、革パンはユノんち!

 

せっかくユノを連れてきたのに、部屋に入れないなんて!

 

「ほれ」

 

目の前に差し出されたのは僕の財布。

 

「...ありがと」

 

「財布がないと不便だろ?

あんたのズボンはまだ俺んちだけど」

 

「助かったよ。

ゆの、ありがと」

 

「...ま、まあな」

素っ気ない言い方なのは、照れてるからだね。

 

僕は財布からカードキーを取り出して、正面玄関ドア横のプレートにかざした。

 

「オートロック式なのだ。

ほら、グズグズしてないで、さっさと付いてくる!」

 

物珍しそうにきょろきょろするユノに、おいでおいでと手を振った。

 

(つづく)

 

 

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