~ユノ~
こ、こ、こ、この部屋は何なんだ!
恥ずかしながら、俺はラブホを利用したことがない(童貞だから当然か)
だから、『元』ラブホだとかいうチャンミンの部屋に興味津々だった。
テレビや雑誌、ネットで知った程度の情報に過ぎないが、室内に入ってすぐどーんとデカいベッドが鎮座している点は...さすが『元』ラブホ。
チャンミンがベッドは広い、と話していたのも納得のサイズだ。
「ベッドはそのまんまなんだ。
気持ち悪くないか?
ほら...何かいろいろと染みついていそうじゃん」
「何かって...何?」
「分かってるくせにとぼけるなよ」
すべてがもの珍しくて、部屋の造作を見て回っていた。
壁紙は想像を裏切らないパープル色。
窓の内側に壁紙が貼られた引き戸があるのは、室内に外光が差し込んだら困るからだろうな。
クローゼットがないため、部屋の一辺を大型のハンガーラックと収納ケースが埋めていた。
吊るされた大量な衣服は手入れがゆき届いており、チャンミンらしいな、と思った(俺が貸した服に文句を垂れたのも当然か、とも思った)
「ここは家具家電付き物件だったんだ。
それにベッドは床に固定されてるんだ、簡単には撤去できないよ。
長期出張や転勤の人にはうってつけなところ。
僕もここにず~っと住むつもりはないから、ここで十分なんだ」
「なるほどね」
「先にお風呂に入る?
湯船にお湯を張ろうか?」
「......」
俺が無言になってしまったのには訳がある。
俺が最も驚いたのは、ベッドの横にあるガラス張りの空間!
風呂が丸見え!
(やたら洗い場が広くて、バスタブは円形なんだ)
気乗りがしない俺に、チャンミンは「ロールスクリーンがあるから、見えないよ」と。
ただ、そのロールスクリーンが外側にある点が気に入らない...と警戒した時、「ゆの」とチャンミンにTシャツの袖をつんつんと引っ張られた。
(出た!『ゆの』)
「ゆののシャワータイム...見ちゃおうっかなぁ」
「ば、馬鹿野郎!」
「もう時間も遅いし、一緒に入っちゃおうかなぁ?
時短になるでしょ」
「お断りする」
俺の裸を舌なめずりしながら、舐めるように見るチャンミンなんて、容易に想像できてしまうではないか!
「僕の裸ならもう見ちゃったんだから、平気でしょ?
僕らは男同士だし、恥ずかしがることはないでしょ?」
「そりゃそうだけどさ、あんたは男が好きなんだろ?
俺が女子の裸を見た時みたいな気分になるんじゃないのか?」
「大丈夫。
そういう目で見たりしないから。
ね、一緒に入ろうよ。
バスタブの中がピンクになるんだ」
「...わかったよ...」
「え...ホントに?」
さして抵抗しないうちに頷いた俺に、チャンミンは驚いたようだった。
俺はクタクタだったのだ。
昨夜から今まで、俺の顔色は赤くなったり青くなったり、驚きの連続(その全部がチャンミンがらみのこと)
なんと濃い24時間だったことか!
風呂に入って、とっとと眠りたかった。
どうせ丸め込まれ押し切られるんだ、無駄な抵抗は止めよう、と。
「風呂に入ろうか。
眠いんだ。
どこが入り口?」
脱衣所はなく、ドアを開けるとすぐ浴室だった。
浴室のドアの前で衣服を脱ぐことになってしまうが、頭がぼうっとしていて、俺の身体を舐めるように見るチャンミンなんて、意識の外に追いやった。
照れれば照れる程、チャンミンは歓喜する男だ。
甘ったれた言葉使いと妖しく誘う目付き、色気ある身体つき...ふむふむ。
タクシーの運ちゃんの元彼の台詞は、あながち誇大したものじゃなさそうだ。
押したり引いたり、困ってみせたり、相手を翻弄させる達人だな、うん。
そうして、自身に夢中にさせるんだ。
だいぶこの男の生態にくわしくなってきたぞ...自分に感心している間じゃない!
...ん?
俺は今、もしかして食虫植物の袋の縁に立たされているのか?
チャンミンに身をゆだねる姿を想像して、股間を反応させかけたんだ。
俺のチェリーが危険にさらされている!!
(つづく)
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