(31)ぴっかぴか

 

~ユノ~

 

こ、こ、こ、この部屋は何なんだ!

 

恥ずかしながら、俺はラブホを利用したことがない(童貞だから当然か)

 

だから、『元』ラブホだとかいうチャンミンの部屋に興味津々だった。

 

テレビや雑誌、ネットで知った程度の情報に過ぎないが、室内に入ってすぐどーんとデカいベッドが鎮座している点は...さすが『元』ラブホ。

 

チャンミンがベッドは広い、と話していたのも納得のサイズだ。

 

「ベッドはそのまんまなんだ。

気持ち悪くないか?

ほら...何かいろいろと染みついていそうじゃん」

 

「何かって...何?」

 

「分かってるくせにとぼけるなよ」

 

すべてがもの珍しくて、部屋の造作を見て回っていた。

 

壁紙は想像を裏切らないパープル色。

 

窓の内側に壁紙が貼られた引き戸があるのは、室内に外光が差し込んだら困るからだろうな。

 

クローゼットがないため、部屋の一辺を大型のハンガーラックと収納ケースが埋めていた。

 

吊るされた大量な衣服は手入れがゆき届いており、チャンミンらしいな、と思った(俺が貸した服に文句を垂れたのも当然か、とも思った)

 

「ここは家具家電付き物件だったんだ。

それにベッドは床に固定されてるんだ、簡単には撤去できないよ。

長期出張や転勤の人にはうってつけなところ。

僕もここにず~っと住むつもりはないから、ここで十分なんだ」

 

「なるほどね」

 

「先にお風呂に入る?

湯船にお湯を張ろうか?」

 

「......」

 

俺が無言になってしまったのには訳がある。

 

俺が最も驚いたのは、ベッドの横にあるガラス張りの空間!

 

風呂が丸見え!

 

(やたら洗い場が広くて、バスタブは円形なんだ)

 

気乗りがしない俺に、チャンミンは「ロールスクリーンがあるから、見えないよ」と。

 

ただ、そのロールスクリーンが外側にある点が気に入らない...と警戒した時、「ゆの」とチャンミンにTシャツの袖をつんつんと引っ張られた。

 

(出た!『ゆの』)

 

「ゆののシャワータイム...見ちゃおうっかなぁ」

 

「ば、馬鹿野郎!」

 

「もう時間も遅いし、一緒に入っちゃおうかなぁ?

時短になるでしょ」

 

「お断りする」

 

俺の裸を舌なめずりしながら、舐めるように見るチャンミンなんて、容易に想像できてしまうではないか!

 

「僕の裸ならもう見ちゃったんだから、平気でしょ?

僕らは男同士だし、恥ずかしがることはないでしょ?」

 

「そりゃそうだけどさ、あんたは男が好きなんだろ?

俺が女子の裸を見た時みたいな気分になるんじゃないのか?」

 

「大丈夫。

そういう目で見たりしないから。

ね、一緒に入ろうよ。

バスタブの中がピンクになるんだ」

 

「...わかったよ...」

 

「え...ホントに?」

 

さして抵抗しないうちに頷いた俺に、チャンミンは驚いたようだった。

 

俺はクタクタだったのだ。

 

昨夜から今まで、俺の顔色は赤くなったり青くなったり、驚きの連続(その全部がチャンミンがらみのこと)

 

なんと濃い24時間だったことか!

 

風呂に入って、とっとと眠りたかった。

 

どうせ丸め込まれ押し切られるんだ、無駄な抵抗は止めよう、と。

 

「風呂に入ろうか。

眠いんだ。

どこが入り口?」

 

脱衣所はなく、ドアを開けるとすぐ浴室だった。

 

浴室のドアの前で衣服を脱ぐことになってしまうが、頭がぼうっとしていて、俺の身体を舐めるように見るチャンミンなんて、意識の外に追いやった。

 

照れれば照れる程、チャンミンは歓喜する男だ。

 

甘ったれた言葉使いと妖しく誘う目付き、色気ある身体つき...ふむふむ。

 

タクシーの運ちゃんの元彼の台詞は、あながち誇大したものじゃなさそうだ。

 

押したり引いたり、困ってみせたり、相手を翻弄させる達人だな、うん。

 

そうして、自身に夢中にさせるんだ。

 

だいぶこの男の生態にくわしくなってきたぞ...自分に感心している間じゃない!

 

...ん?

 

俺は今、もしかして食虫植物の袋の縁に立たされているのか?

 

チャンミンに身をゆだねる姿を想像して、股間を反応させかけたんだ。

 

俺のチェリーが危険にさらされている!!

 

(つづく)

 

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