(45)ぴっかぴか

 

~チャンミン~

 

シャワーの後、さっぱりした僕らはベッドに横たわり、風量強のエアコンの風に涼んでいた。

 

照れくさくて、数十センチの空間を隔てている。

 

揃って上はTシャツ下はボクサーパンツと軽装だ。

 

僕は先ほどからユノの股間から目が離せずにいた。

 

目を反らしてもその吸引力は凄まじい。

 

なぜかというと、ユノが穿いている下着は僕のものだからだ。

 

ユノ本人の下着は穿くのをためらうほどぐちょぐちょ状態だった

「あんたがしゃぶりまくったからだろうが?」

「ユノこそいっぱい汁出しちゃってさ。

うちで洗濯したげる」

 

僕はユノの手から下着をもぎとり、ぽいっと洗濯機に放り込んだ。

 

「僕のパンツを貸したげる」

 

僕は素早く引き出しを探り、ユノに穿かせたいと思った下着をピックアップした。

 

「これ貸したげる」

「それはちょっと...」

 

無理やり掴ませた下着に、あからさまに嫌な顔を見せるユノ。

 

ユノに貸そうとした(何ならプレゼントしたい)下着は、もちろんビキニ型。

 

日常的には普通のボクサーパンツを穿いているけれど、男に狩りに行くときは断然ビキニ型(なんならノーパンの時もあったりして)

 

ユノを2本の指でその小さな布切れをぶらさげ、僕の好意を受け取るか拒否るか迷っているらしい。

 

「それ、一応新品だよ」

「......」

「嫌ならべちょべちょのを穿く?」

「......」

「それとも、ノーパンで帰る?」

「わ...分かった。

お借りします」

 

ユノは渋々頷くと、僕に背を向け下着に足を通し始めた。

 

その後ろ姿に、僕は内心「しめしめ」とほくそえんでいた。

 

(ユノったら、やっぱり素直だなぁ)

 

僕にとってジャストサイズでも、僕よりお尻や太ももの筋肉が発達しているユノが穿くとぴっちりとしていて、「たまんねぇ」状態だった。

 

(はみ出しそう...ごくり)

 

 

「チャンミンのこと、教えてくれよ」

「僕のこと?

そうだなぁ...僕の好物はイケメン」と、ふざけてみた。

 

「んなこと知ってるよ」

「ユノはイケメン」

 

ユノが好きと言っているようなものだけど、いつもの癖で男をよいしょする言葉をつい吐いてしまう。

 

軽い男だと認知されてしまっているのを、イメージ挽回したい気持ちがあった。

 

チャラい男だと思われたくない気持ちが芽生えてきたのかも。

 

「金髪だからそう見えるだけだよ。

あんたこそ、イケメンだと思うけど?」

 

ユノは僕の言葉を深読みせず、さらりと受け流してくれた。

 

「ユノは?

好きなものは何?」

「う~ん...何だろね。

そう問われると無いかも。

日々淡々と暮らしているなぁ」

 

友達も多そうで、休日ごとに趣味だ付き合いだで忙しくしていそうだったから意外だった。

 

「何の予定も入れずに引きこもってる、っていう意味じゃないんだ。

彼女がいればデートしたり、友達と遊びに行ったり...それなりに予定はあるんだけどさ。

充たされてないっていうか」

 

「え、そうなの?」

 

僕は仰向け寝から半身を起こし、ユノの方に向き直った。

 

「恵まれてるはずなのに、なんだかなぁ、って。

自分探し中っていうやつ?

だせぇよな。

こういうヤツってよく聞くだろ?」

「聞くね」

 

僕はうんうんと、心の中で首がもげそうになるほど頷いていた。

 

「俺んとこは規模の小さいチェーン店だから、総菜の企画に参加させてもらえたりしてやりがいはある。

でもさ、たまにポテトサラダを前にして虚しくなるんだ。

俺、何してるだろって思う時があるよ。

何が足りないんだろう、ってさ」

 

僕らのピロートーク。

 

不足している互いのデータの交換スタートだ。

 

ノンケを落とす時はひと手間が必要だ。

 

彼らの警戒心を解くためにHする前に、サービス精神で「君のことが知りたい」興味津々な顔をして質問してあげる。

 

ホントは全然興味が無いし、Hの後はバイバイするんだから、彼らの個人的データは余計なものなんだ。

 

でも、今回に限って例外だ。

 

「最近はばあちゃんのケアしに実家に帰ることが多かったかも。

ばあちゃんの痴呆が酷くなってきて、母さんだけじゃ面倒みきれなくなったんだ。

まさかあんたんとこのホームだとはねぇ」

 

僕が勤める老人ホームに、ユノのおばあちゃんが入所してきたと知った時は驚いた。

 

ユノじゃなくても、必然性を感じてしまった。

 

「そういえば、あんたって何で介護士になったんだ?」

「ご老人たちなら、僕といて色目を使わないし、僕自身もムラっとこないからね」

「職業選択の動機が不純過ぎるなぁ」

 

「マジか」と僕を蔑む目で見るユノ。

 

「嘘に決まってるでしょう?

やだなぁ、信じないでよ。

性欲は一生ものだから、年食ってるから安心とは言えないんだ。

今の仕事はなりたくてなったんだ」

「あんたって実はいい子なんだな?」

 

よしよしと僕の頭を撫ぜるユノの手を払い除けた。

 

「何だ、それ?」

 

「いい子」という言い方が可愛くてクスクス笑った。

 

「言っとくけどね、僕は滅多に話さないんだからね」

「何を?」

「僕は滅多に身の上話はしない、って言うこと」

「どうして?」

「僕はご覧の通り軽薄な男で、いろんな男とトラブルを起こしている。

だから、深入りするのが嫌なんだよ」

「コロコロと付き合う男が変わるのもそのせいなのか?

交際人数が凄かったよな?」

「厳密に言うと、交際にまで至っていないよ。

ひと晩だけの関係はほとんどだよ。

僕は『軽い男』さ」

 

僕の真の姿をぺらぺらと、ユノに明かしていた。

 

僕のみっともない過去は今後、ぽろぽろと出てくるだろうし、その都度ユノが引いてしまうんじゃないかとヒヤヒヤしたくない。

 

「誰かとがっつり付き合う経験は少ないんだ。

ああいう目に遭いたくないからね」

「ああ...あのタクシーの奴がそうだったな」

「あいつはマシな方」

 

タクシードライバーの前カレの一件では、まるで自分の方が被害者みたいな顔をしてしまった。

 

あれはカッコ悪かった。

 

彼を怒らせるようなことをしたのは僕なんだから自業自得。

 

「じゃあさ」

 

ユノも寝返りをうち、僕と対面した。

 

「俺のこともポイするのか?」

 

ユノの質問は織り込み済みだった。

 

(つづく)

 

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