(45)虹色★病棟

 

 

昼下がり、僕はユノの部屋でくつろいでいた。

 

ユノは室内温室の中に、僕は外にいた。

 

相変わらずユノの潔癖具合にはムラがあり、今日のユノは肉体的接触を避けがちな日だった。

 

浴室で濃厚に接触した翌日だからだろうか。

 

ここは失うための場なのに何やってんだと、我に返ったのだと思う。

 

翌日になれば、室内温室の中に僕を招いてくれるだろう。

 

焦ったら駄目だダメだ、僕は平気だ平気だと、心の中で言い聞かせているおかげで、不満感を無駄に膨らませないようにしている。

 

 

僕らはかつての配偶者、婚約者の話題を敢えて出していた。

 

その後の絡み合いを盛り上げるために嫉妬心を煽っているといった、高度な駆け引きのためではない。

 

顔の見えないX氏とY氏を想像する。

 

身体は寄り添い合い、でも思いは遠く過去に飛んでいる。

 

そこで思い出した事柄は、今の恋人に聞かせるために口に出す。

 

一緒に解釈の仕方を話し合う。

 

荒療治だけど話題に出すことで、過去の想いの整理しやすくなるのでは、と僕は思っている。

 

後ろめたさから早く解放されて、のびのびと恋がしたい。

 

ここを出て、ユノと恋がしたい。

 

その方法を僕は具体的に考え始めている。

 

 

僕は目を閉じ空を仰いで、ぽかぽかと温かい陽光を顔いっぱいに受けた。

 

ユノと二人、中庭のベンチに腰掛けていた。

 

ユノはキャラメル色のニットを、僕はチョコレート色のワンピースを着ていた。

 

見た目に美味しそうな2人だ。

 

 

 

 

「彼とは、どこで会ったの?

褒められた関係じゃなかったって言ってたよね?」

 

「聞きたい?」

 

「うん、聞きたい」

 

ニヤッと笑ったところが、僕に聞いて欲しそうに見えた。

 

「職場で知り合ったんだ。

俺はアルバイトたちをマネジメントする役目で、彼はフリーターをしていた。

手袋とマスクをした俺は異様ないでだちだ。

バイトたちが俺のことを面白おかしく陰口言ってただろうね。

でも、彼だけは違っていた。

初めての...恋だった。

...今から5年前の話だ」

 

「そう...だったんだ」

 

その人はユノにとって初めての人で、唯一心置きなく抱きあえる、と話していた。

 

彼相手ならば、彼のものもユノのものも互いに、汚いと恐れる不安はないという意味だ。

 

それならば...僕の場合はどうなんだろう。

 

僕らの接触は指で慰め合うまでに限られてはいた。

 

よく考えてみると、むき出しの性器を素手で触れられるユノが、どれほど僕に心を許しているのか、ここは大喜びすべき点なのだ。

 

「ラムネに餌をやろう」

 

ベンチから立ち上がり、僕らは温室へと移動することにした。

 

(...そうなると...)

 

実は僕の中に2つ、疑問が生まれていた。

 

1つ目は前々から気付いていたこと。

 

ユノは僕を含め他人のばい菌を恐れているのと同等に、ユノ自身のばい菌で他人を汚してしまうことを恐れている。

 

僕が聞きかじっている知識はあてにならないと前置きしておいた上で、ばい菌嫌いの人は、相手が家族や恋人ならば、ばい菌ルールが解除されるものなのか?ということだ。

 

ばい菌を嫌悪する点は、相手が誰であろうと差はないように思うんだよなぁ。

 

今のユノは、僕のことが好きだと言ってくれてるし、僕の身体に触れてくれる。

 

その逆については、肌に触れる直前、躊躇する瞬間も見受けられるけれど、まあまあ許してくれてると思う。

 

「昔のようでつい最近のように感じるし...もう5年になるんだな。

いなくなって半年も経っていない...」

 

僕の耳に、ぐさりとユノの胸にナイフが刺さる音が聞こえた気がした。

 

その激痛に顔を歪ませたユノを前に、僕も同様に傷を負ったかのような錯覚に襲われた。

 

カタカタっと心の小箱も震えた。

 

ユノは寒さに震えるかのように、両腕を巻きつけユノ自身を抱きしめていた。

 

ユノの喪失の痛みが遠のくまで、僕は彼の背中を撫ぜていた。

 

「褒められない関係、って?」

 

「5年前、俺には恩人がいた」

 

「恩人?

それって...?」

 

「その前に...」

 

ユノは僕と自身のマスクを顎下にずらすと、僕に口づけた。

 

「誰かくるよ...っ」

 

喪失と向き合う者たちが集うここでは、他人に興味を持つ者はいない。

 

彼らにとって身の回りも季節もどうでもよい事柄だから、温室をわざわざ覗く者は誰もいない。

 

「っふ...んん...っ...ふ」

 

僕らのキスは次第に熱く激しいものになる。

 

キスとキスの合間に、ユノは「チャンミンはエッチだね」と言った。

 

「え...どこ...が?」

 

僕も息継ぎの時に、尋ねた。

 

「ワンピースを着ているのに、勃ってる」

 

「あ~、そうだね」

 

ユノの唾液を味わいながら、僕のものはさらに膨張し、小さな下着から頭を出していた。

 

「いいことしてやる」

 

そう言ってユノはその場でしゃがみ込み、ワンピースの中に頭を突っ込んだ。

 

「ちょっと!

ユノ!」

 

そして、勢いよく下着を引き下ろされた。

 

「やだ...恥ずかし」

 

「かがんで」

 

ユノは自身の指をくわえると、唾液をまとわりつかせた。

 

「待って!

手袋!」

 

素手だったことを思い出し、僕はパニックになった。

 

「手袋は卒業した」

 

「でも...。

あっ、はぁ...っ!」

 

ユノの乾いた指は、固く閉じた入口の周囲をくるくると遊び、緩んだところでつぷり、と突き立てた。

 

「んっ...あっ...」

 

バランスを崩して尻もちつかないよう、鉄製フレームを掴んで身体を支えた。

 

ガラス窓はホコリとコケで曇っている。

 

僕の中でユノの指がいたずらする。

 

僕の肌を叩く音に合わせて、僕は喘いでしまう。

 

ユノはワンピースの中から身を起こすと、僕の背中にのしかかった。

 

「...いいっ...すご、これ...っすご...い、いい...!」

 

誰も覗かないと分かってはいても、万が一を考えるとドキドキしてしまって落ち着かなかった。

 

「どう?」

 

「うん...いいっ、いいけどっ...」

 

(早くイカないと...!)

 

加勢するため、自身のものを掴み激しく上下させた。

 

「ああぁっ...」

 

僕が放ったものがレンガ敷きの地面に降り注いだ。

 

今日はここまでだった。

 

ラムネは気を利かせてか、そっぽをむいて眠っていた。

 

 

(つづく)

 

 

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