(47)虹色★病棟

 

 

「『転勤先』と言い方を以前したのは、施設とか就労移行を受け入れている職場とか、説明が面倒だったからだよ」

 

「あ...そういえばそうだったね」

 

「何事も慌てちゃいけないんだ。

俺をサポートしてくれた人の『焦らずゆっくりいきましょうね』の言葉に励まされていた。

パニクってしまった時は、SOSを出せば駆けつけてきてくれたりね。

俺が社会に出てゆけるようになったのは、その人のおかげだ。

 

『恩人』と言ったのはそう言う意味」

 

「うん」

 

「俺はこんなんだから、友人が出来たためしはないし、彼女が出来た試しがない。

俺はひとりぼっちだったよ。

彼女が唯一、俺と社会を繋いでくれる窓口だったんだ」

 

『彼女』の言葉に、僕は敏感に反応してしまった。

 

眉をひそめた僕に気づいたユノは、慌てた風に付け加えた。

 

「サポートしてくれた人は女性だったんだ」

 

表情が変わらないままの僕がこだわっていたのが、そちらの『彼女』ではないのだとユノは悟ったようだった。

 

「そっちの『彼女』か。

『ノーマル』という言い方は好きじゃないけどな。

初めての真剣勝負な恋愛も恋人がたまたま男であり、彼だっただけさ」

 

ユノにとってのその人は、余程特別な人だったんだ...元気をなくしてしまいそうになって、すぐに思い直す。

 

僕の方だって、結婚したいと願う人がいたんだから、イーブンだ。

 

「潔癖という名の強迫観念と恋愛感情のせめぎ合いだった。

俺をサポートしてくれた人は、俺の恋愛に乗り気じゃなかった。

『ゆっくり、ゆっくり』としつこかった。

でも俺は、恋愛を優先させた。

努力しなくても、彼に身体を触られても平気になった。

...俺は他人との接近戦に慣れていない。

時間はかかったよ。

彼には付き合ってる人がいた、ってこともあるけれど...」

 

「だから、褒められた関係じゃないってこと?」

 

「それもあるけど...恋路を邪魔する彼女がうっとおしくなって、邪険に扱うようになった。

サポートの度が過ぎて、執着しているように感じるようになった。

好きな人が現れたことで、俺の傾向がマシになるのなら大歓迎じゃないか。

それなのに彼女は、恋に夢中の俺の姿に危なっかしさを感じたんだろうね。

しつこいようだけど、俺は接近戦が苦手だ。

俺のテリトリーに入り込める奴は1人で十分だ。

彼との恋でハンパな自信がついていた俺はこともあろうに、彼女は俺に対して恋愛感情を抱いている、と思い込むようになった。

今となっては、そうだったのか、プロとして当然のことをしただけなのかは分からないけどね...。

俺とは恋人以外の者には冷酷になれる人間なんだと、初めて知ったよ。

支援施設に訴えたんだ。

彼女は担当を外された。

俺も施設と距離を置くようになった」

 

 

話し終えたユノと聞き終えた僕は口を開かず、中庭のフェンス向こうの景色を眺めていた。

 

砂色の荒野の遠い向こうに、高層の建物群の影が霞んで見えた。

 

荒野を間に挟んで、僕はあっちにユノはこっちに暮らしていた。

 

「ごめんな...聞いていて愉快じゃないだろ」

 

「ううん...。

僕とユノはLOSTで知り合ったんだ。

過去は吐き出すべきなんだ」

 

「話す方も聞かされる方もシンドイなぁ...」

 

ユノのうんざりとした言い方に、「そんなことないない!」と僕はきっちり否定した。

 

ユノがもてあそんでたマスクの耳紐は千切れ、鼻のワイヤーは折れ曲がり、不織布は毛羽立ち、無惨な有様になっていた。

 

 

「今度は僕の番だよ」

 

「?」

 

きょとん、としたユノを温室の方へと誘った。

 

「チャンミン...!?」

 

僕はひざまずいて、ユノのファスナーを下ろした。

 

僕の意図を知ったユノが拒絶するかと思ったら、すぐに成り行きに任せたあたり、期待していたのだろう。

 

まだ頼りないものを頬張った。

 

「うっ...」

 

反射でくくっと痙攣したユノの腰を、腕で抱えた。

 

ふにゃふにゃとしていたものが、徐々に張りと固さを増し、ついには息継ぎが難しい程のサイズになる。

 

その変化が自分の愛撫によるものと分かり、喜びでいっぱいだ。

 

筋とシワの1本1本丹念に、ぺろぺろと舐めた。

 

ほおばった頭を前後にスライドさせた。

 

「...はあ...はぁ...」

 

さらにむくむくと、大きく固く育ってゆく。

 

最も太い血管が脈々と拍動するさまが、舌に感じられるほどだった。

 

はあはあ言う、ユノの低い声音が色っぽくて、僕を興奮させた。

 

僕のものだって、小さな下着じゃ覆いきれずに、下から顔を出していると思う。

 

「いいね...チャンミン...うまい、うまいよ」

 

ユノの両手に髪をかき混ぜられた。

 

「すげぇ、いい。

気持ちがいい」

 

気持ちよくなってくれて、僕は嬉しかった。

 

嬉しくて、持っている技を総動員させて頑張ってしまう。

 

ついに放たれたものを喉奥で受け止めながら、僕は頭上を見上げた。

 

ユノの頬を歪められ、目をつむっていた。

 

その表情は甘く切ないもので、先ほどの彼を思い出して顔を歪ませたものとは対極にあるものだった。

 

 

(つづく)

 

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