店のトイレットで繋がったばかりなのに、全然足りなかった。
ここまでの10分がもどかしいほど長く、人目をはばからずの濃厚なキスに、通行人をぎょっとさせてしまう。
互いの腰に回した腕をきつく引き寄せているせいで、足取りはまるで酔っ払いのようにふらふら。
二人揃ってスキニーなボトムスのため、欲の昂ぶりは明らか過ぎるほど明らかだ。
ユノは肩に羽織ったコートで、チャンミンはオーバーサイズのニットの裾を引っ張り下げて隠した。
・
チャンミンをドアに押しつけると、ユノは彼の右脚をすくいあげ、自身の腰に巻きつけさせた。
「はあはあはあ...」
ユノは薄い生地越しにくっきりと浮かんだそこを、チャンミンのそこにこすりつけた。
互いの敏感な箇所だけに、そこを隔てる布の存在がとてももどかしい。
「...んん...ふぅふぅ...ん」
チャンミンはユノの頬を両手で包み込み引き寄せて、彼の口腔内で舌を踊らせた。
顔の傾きを何度も変えて、唇を重ねなおす。
ちゅうちゅうと舌と鳴らす湿った音。
「...んっ、んっ...」
チャンミンの右手はユノの前を握り、その形かたどるように上下にしごいた。
繋がるという目的を、店のトイレットで一度は果たしたわけだが、足りるはずがない。
狭く汚い場所で、次の客に急かされながら、肝心な箇所だけ出しただけの、性急なものだったから。
せっかくのびのびと、ありとあらゆる体位で繋がれる場所に移動してきたのだ。
15年ぶりなのだ。
前戯に時間をかけてじっくりと、味わい楽しむつもりでいたのに、そんな余裕はないようだ。
一刻も早く。
揃って細身のボトムスのため、唇を合わせたままスマートに脱がせ合う...というわけにいかない。
ブーツのファスナーを下ろそうと片足立ったところでバランスを崩し、尻もちをついてしまったチャンミン。
ユノも汗ばんだ肌に張りついてしまったボトムスを下ろすのに、一苦労の様子。
早く、早く。
気が急いているのもあって、スムーズに脚が抜けずにいるユノのため、チャンミンはボトムスの両裾をつかんで、皮をはぐように引っ張った。
「はあはあはあ」
よりによって二人とも、自身のシンボルを隠せないスキニーでタイトなボトムスを身についていたのだ。
15年ぶりの再会だ。
自身を最高に見せる恰好で現れたいといった、彼らなりの可愛い見栄。
トイレットで繋がった時に、「あれ?」とユノもチャンミンも、驚いていたこと。
「チャンミン...ノーパンかよ...」
「ユノ...パンツ履いていないんだ...」
締め付けから解放されたものは斜め上を向き、先端に浮かんだ雫が光っている。
「はあはあはあ」
二人の興奮は沸点に達した。
・
再び唇を合わせ、ユノは片足にボトムスを引きずったままのチャンミンをベッドへと誘導する。
チャンミンは互いのものをまとめて握って、しごいた。
「...んっ、ふぅ...ふう...ふぅ...」
手の中で熱く脈打つユノのものが、自身のものとぴたりと重なり合っている。
片手では握りきれない2本に、チャンミンの鼓動は早鐘のように打つ。
早く、早く。
全身の血流がそこ一点にむけて集中し、ユノの視界には目前のチャンミンが映るのみ。
「はあはあはあはあ」
早く、早く!
ユノはチャンミンを仰向けに倒す。
チャンミンは脚をばたつかせ、片脚にまとわりついていたボトムスを脱ぎ去った。
手探りでつかみとったものは、ゴムのパッケージと紙マッチ。
紙マッチは枕元に放り投げ、パッケージは口に咥えて開封し、ユノのそそり立ったものに素早く装着してやった。
427号室。
ドアを開けてから2人は言葉を発していない。
聞こえるのは荒々しい呼吸音と水音だけ。
早く、早く!
チャンミンはユノの腰に両足を絡めて引き寄せる。
~ユノ~
俺の上で、細い腰をなまめかしくくねらす彼。
丸眼でふっくらとした涙袋、切なげに下げた両眉。
幼い目元に反して、四角い顎は男らしい。
腕を伸ばして、胸の先端を摘まんで捻った。
「あああんっ!」
俺の根元がぎゅっと締め付けられた。
電流が走ったかのように、チャンミンの半身がのけぞった。
そうそう、チャンミンはここが好きなんだよ。
汗で滑る手を、シーツで拭った。
腰をつかみ直し、引き落とす。
同時に自身の腰を突き上げる。
ばちんと互いの肌と骨がぶつかる音。
俺のものを、チャンミンの腸壁がうねりながら中へと引きずり込む。
万力のように握力が増す入口は、俺のものを食いちぎろうとしているかのようだ。
喉を見せて天を仰いだチャンミンは、自身の手首を噛んでいる。
俺たちは今、下半身に支配されている。
15年ぶりなんだ、仕方がない。
貫いても貫いても、まだまだ足りない。
甘くスロウに抱くのは、2回目で。
まずは荒々しく抱いてしまうのを許して欲しい。
~チャンミン~
僕の両足首を高々とつかみ、スナップをきかせた腰の動き。
僕の中は鋭く突かれる。
柔和なラインを描く頬、小さな鼻と顎。
僕に吸われ甘噛みされたせいで、下唇が赤くぽってりと腫れている。
熟れすぎたフルーツみたい。
高貴で上品な顔立ちなのに、首から下は隆々と逞しい。
ああ、愛しい。
黒目がちの眼だけがらんらんと、肉食獣のようだ。
繋がり合うそこを手で確かめた。
ああ、ユノのものが僕の中に埋められている。
こんなに太いものが挿っているなんて...。
すっぽすっぽと空気が漏れる音、にちゃにちゃとねばつく音。
お店のトイレットで一度注ぎ込まれたもののおかげで、滑りはとてもよい。
ユノの鼻息、低い呻き声。
僕の女の子みたいな高い喘ぎ声。
僕ときたら、さっきから「大きい」「ユノ」「好き」の3つの単語しか発していない。
両膝が肩につくまで折りたたまれた。
深く挿入したまま、ユノは腰を小刻みに振る。
そうそう、そこなんだ。
僕の弱いところばかりが断続的に刺激された。
「ひゃあ、あ、ああああ、あ、あ...っ」
とうとう僕は、言葉を忘れてしまったよ。
ユノの濃くて、熱くてものが、僕の奥の奥に放たれた。
分かる、分かるよ。
くっくっと痙攣するユノの腰に合わせて、どくんどくんと注ぎ込まれるのが。
「はあはあはあはあ」
僕の上に倒れ込んできたユノを、抱きしめた。
僕らは酸素を求めて全身を大きく上下させている。
暑い。
とても暑い。
力が入らない。
でも...もっと、もっと。
まだまだ足りない。
ゴムの空袋を握りしめていたことを、気付いた。
ははは、それどころじゃなかったんだよね。
ユノは長くしなやかな腕を伸ばして、紙マッチ...僕がさっき放り投げたものを摘まみあげた。
ユノを待つ間、僕が燃やしてしまったから、全ての軸がちぎり取られてしまっている。
パッケージの裏に、走り書きした部屋番号。
『NO.427で
-C』
「もしかして、部屋を取ってたの?」と、ユノは呆れたように言った。
「...うん」
「俺に会えるとも限らないのに?」
「予感がしたんだ。
絶対に会えるって」
僕の言葉にユノは、照れくさそうに目を細めた。
「...もう1回しようか?」
望むところだ。
僕は大きく頷いて、ユノの首にタックルした。
ユノといっぱいいっぱい、抱き合いたい。
(おしまい)
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