僕はシャワーを浴びていた。
頭上から降り注ぐ熱いお湯が、一日の労働で強張った首や肩をほぐしてくれて、とても気持ちがいい。
真っ白なタイルを踏む僕の足は、血色よく染まっている。
「ひっ!」
視界をかすめたものに、僕は硬直する。
髪をかきあげた手が止まった。
恐怖が喉を締め、僕は呼吸を忘れた。
とぐろを巻いていたのが鎌首をもたげ、僕と目を合わせた。
ずるりずるりと、僕に忍び寄るそれ。
くねくねとくねらせて、僕を狙って近づくそれ。
青光りする銀色のうろこが、ぬめぬめと。
ゆっくり蛇行して、僕を目指している。
それの眼は漆黒だった。
魅入られた僕は、身じろぎせず、それの到着を待つ。
「...あ」
二又の赤がちろりちろりと、僕の小指をくすぐった。
固く引き締まっているのに、弾力ある筋肉の鞭が僕の足首をかする。
螺旋を描いて、ずるりずるりと僕の膝を上昇する。
繁殖力凄まじいつる草のように、僕の右足を巻きつくそれから、目が離せない。
「あ...」
内股の皮膚を引きずられて、ぞくりと寒気が下腹を襲う。
それは柔らかく過敏な中心を探している。
緩んだ瞬間を狙って、それは割れ目にこうべを埋める。
僕のそこは、既にパクパクと口を開けて待っている。
「ああ...っ」
侵入してきた固く引き締まったそれ。
強烈な痺れが背筋を貫く。
それは中で円を描きながら、奥へ奥へと突き進む。
「...ん...はっ...」
それが身をくねらすごとに、僕は喉を反らして高い悲鳴を漏らす。
いつの間に、それは僕の腕ほど太く膨れ上がっていた。
それの胴身は、僕の両膝をきつく締め付けている。
僕の中で、うねりくねらすしなかやかな身体。
僕の内壁もうねりながら、それを締め付ける。
...と、それは一旦、頭を引き抜いた。
鎌首が僕の弱いところを刺激して、その瞬間視界が真っ白になる。
間髪入れずそれは、獲物を狙うかのように、僕の穴倉に飛び込んだ。
「...んあっ...!」
限界まで開いた入口をみしみしと、さらに引き延ばしながら僕の中に入ってくる。
それは管の中でのたうって、僕の胃袋を目指している。
僕の中は、それでいっぱいに埋められる。
胃に達したそれは、いずれ僕の喉から顔を出すかもしれない。
恍惚の大波にさらわれた。
腰の力が抜け、鏡に両手を付いて半身を支えた。
「...ん」
滑らせた手の平で曇った鏡が拭き取られ、うっとりと色に酔う僕が映し出される。
「どう?」
耳朶に熱く吐息がかかる。
「いい。
すごく...いい」
鏡の中の、美しいその人と目が合った。
僕をぞくりとさせる、低くて優しいその人の声。
青みを帯びた、つやつやと濡れた瞳。
この一対に射すくめられた僕は、蛇の前の子ネズミのようになってしまうのだ。
その人の腕に後ろから、僕の腰は抱かれていた。
背中を押され、僕は深く身を屈めた。
肌と肌が打ち合う音。
シャワーが降り注ぐ中、バスタブをつかむ僕の指が白くなる。
その人に刺し貫かれて、僕は甘い悲鳴をあげる。
僕の腰に巻きつく腕に、じわりじわりと力がこめられる。
その人に丸飲みにされるのか。
僕がその人を丸飲みにするのか。
その人のものを、蠢く穴奥へと飲み込みながら、どちらなんだろうと僕は考えていた。
(おしまい)
[maxbutton id=”23″ ]