(14-2)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

 

「...っ!」

 

まるちゃんにどストレートに言い当てられ、虚を突かれたユノは言葉を失った。

 

「だろ?」

 

ユノはカクカクと何度も頷いた。

 

「おいおい、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してんじゃないよ。

AVコーナーから出てきて、かつレンタルしてんだから、それしかないじゃん」

(まるちゃんの言葉選びは独特だ)

 

「まあ、そうなんだけど...。

どんなもんかなぁ、と思って軽い気持ちでさ、ぶらぶらしてただけ」

 

「先生んちに行った帰りだったんだろ?」

 

「お、おう」

 

このときユノは、「まるちゃんは何でもお見通しだな」と感心していたけれど、まるちゃんの推測自体、鋭い洞察力は必要としない。

 

ユノの自宅はここから離れており、あのレンタルショップはチャンミンの最寄りの店だ。

 

まるちゃんはユノの手からヘッドフォンを取り上げると、首に引っかけた。

 

PCを脇に押しやったあたり、ユノとのトークに集中してくれるようだ。

 

「いよいよ、そういう流れになったのか?」

 

「えっと...まあ...そんなような...感じ?」

 

もぐもぐチャンミンが可愛くて、押し倒してしまった時のことだ。

 

「付き合って2週間くらいだっけ?

今どき遅すぎるくらいじゃね?」

 

「そういうもん?」

 

「最後まで?

ユノの“先生”は経験大ありだから、うまいこといったんじゃね?」

 

まるちゃんの言葉に、ユノは「そうなんだよ、せんせは挿れられる側なんだってよ」と、言葉にするのははばかれて、心の中でつぶやいた。

 

「...いや」

 

「不発?」

 

「いや」

 

「先っぽだけ?」

 

「先っぽも何も、素肌にすら触れてない」

 

「なんだ。

そういう流れになったも何も無いじゃん。

で、うまいこと出来なくて、お勉強するためにあそこを偵察してたわけね」

 

「そんな単純なものじゃない」

 

まるちゃんは真っ直ぐ自分を見るユノの真剣な表情に、冗談を挟む余地がないと悟る。

 

「俺さ、いろいろ考えてしまったんだ」

 

ユノは万年コタツの天板に身を乗り出し、頬杖をついた。

 

「『態度が変だけど、どうしたの?』って訊けなかったことが発端さ。

...なんだか怖くって。

何でも話し合える仲にはほど遠いし、せんせの近くにいる時はすげぇ楽しいけど、無理をしてるみたいだ。

いい子ぶってるっていうの?」

 

「付き合いたてってのは、そういうもんじゃねぇの?」とまるちゃんはフォローする。

 

しかし、好きで好きでたまらなくて付き合えるようになり、幸せいっぱいなのだが、実際のところ、思ったほどの盛り上がりに欠けていた。

 

「そこで、俺は思ったんだ。

俺たちには決定的な『何か』が必要だ。

何かって、何だろう?

思い出を沢山つくることか?」

 

「セックスしかないだろ」

 

「YES。

俺ん中ではそうでも、先生はそのつもりじゃなかったみたいだ。

...思いっきり拒まれた」

 

ユノはその時のことを思い出し、力一杯押しのけられた顎を撫ぜた。

 

「ユノがせっかく仕掛けたロケット弾の火を先生が消しちゃった、ってことだな」

 

「...ムードが足らなかったから?

いきなり押し倒したからなぁ」と、ユノはぼやく。

 

「ば~か。

女でもあるまいに...。

男相手にムードなんか関係ないと思うんだけど?」

 

「そういうもん?

俺、男と付き合ったことねぇから加減が分からないよ。

例えば、タイミングとか会う頻度とか...記念日とか」

 

ユノは頭を伏せ、コタツの天板に額を付けた。

 

「ユノ~。

女子相手でも、大してマメじゃなかったくせによく言うよ。

2週間しか経ってないのに記念日も何もないだろう?」と、呆れるまるちゃん。

 

「お代わりいる?」

 

まるちゃんは立ち上がると、追加でお湯を沸かし始めた。

 

「あのなぁ、昼間も言ったけど、いつものユノでいいんだよ。

先生が男だからって変に意識しなくていいんだって。

フツーの恋愛だって!」

 

「分かってる...」

 

ユノは目をつむり、レンタルDVD店前で目撃したシーン...泣いて恋人にすがるチャンミン...この恋の出発点であり基準点...を思い起こした。

 

(確かに...同性同士だからって、何も変わらない。

フラれれば泣くし、好きだと言われれば嬉しいものだ。

俺はせんせが好きだ。

せんせと恋愛してる...!)

と、ユノの想いは以前も今も変わらないが、今夜大きくつまずいてしまったのだ。

 

ユノは天板から頭を起こすと、台所から戻ってきたまるちゃんをびしっと見つめて言った。

 

「せんせにはぜ~ったいに言えないことがあるんだ」

 

「AVに繋がることだろ?」

 

ユノは頷いた。

 

「せんせから拒否られたってこともあるけど...正確に言うと、出来なかったんだ」

 

「まさか、勃たなかったとか?」

 

「なんで分かった?」

 

「もし俺だったら、男相手に勃たないから」

 

「まるちゃん基準ではかるなよ」と、ユノはぷいっと顔を背けた。

「せんせのことは好きだけど、それとエロとが結びつかないんだ。

だって、憧れの人だったから」

 

「ふ~ん。

先生に拒まれたから、AVコーナーをうろついた理由はハウツーを求めていたんじゃないってことね」

 

ヤカンはしゅんしゅんと、湯が沸いたのを知らせ、ユノは立ち上がってガスの火を消した。

 

「欲の有無...。

『好き』と『好きの嗜好』の違い」

 

「そういうこと」

 

「この2つが離れてるわけね」

 

「そうなんだ。

一瞬興奮しかけたけど、吹っ切れるほどじゃなかった。

憧れの気持ちが強かったせいなのか、それとも...」

 

しゅん、と頭を垂れたユノに、まるちゃんはトドメを刺した。

 

「先生が男だから」

 

「そうじゃない...と思う。

そう思いたい...。

そうかも...しれない。

俺があそこにいったのは...そっち系のものを探してたってこともあるけど、普通のやつも借りようかなぁ、って」

 

「女の子のやつ?」

 

「ああ。

先生を好きになってから、女の子相手にムラムラくることに罪悪感があったけど、そんなこと言っていられなくなった。

そもそも性欲自体が枯れてるんじゃないかって。

だってさ~、せんせといると清い気持ちになっちゃってさ。

いわゆる、カンフル剤っていうの?

女の子の裸を観れば、エロい気持ちになれるかも...って」

 

「借りてきたやつ...観れば?」

 

「えっ!?」

 

「俺は寝る」

 

そう言って、まるちゃんはずりずりとベッドまで這ってゆき、布団にもぐり込んでしまった。

(ちなみにまるちゃんの夏掛け布団には、推しキャラがどどーんとプリントされた痛カバーがかけられている)

 

「ノイズキャンセリング・イヤホンして寝る」

 

ユノに背を向けたまるちゃんだったが、1分もしないうちに起き上がった。

 

「そうだ!」

 

親友宅でAV鑑賞などしたくないし、AVを観る気になれないユノは、まるちゃんの背中を眺めながら、思い悩んでいた。

 

「なんだよ、寝るんじゃないのか?」

 

「ひとりじゃ観にくいだろうから、俺おススメのやつはどうだ?

これなら、付き合ってやれるぞ」

 

「いや...付き合わなくていいよ」

 

浮かない表情のユノを無視して、まるちゃんはキャビネットの最上段をゴソゴソ漁った。

 

ユノは手渡された1本のDVDに息を呑んだ。

 

「...アニメじゃん」

 

「実写版がよかった?」

 

「ったりまえだろ!

俺はアニメ女子に興味はねぇんだよ!」

 

 

夜も更けてきて、ユノはまるちゃん宅に泊まらず帰宅することにした。

 

まるちゃんと会話することで道しるべが出来るかと期待していたが、この夜は悩みを語るだけで終わったユノだった。

 

 

(つづく)

 

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