(30)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

「せんせ!

なにすっ...!

 

ユノは両手を突っ張って、ぐいぐいと攻めてくるチャンミンの頭を退けようとした。

 

「......」

 

チャンミンはユノの抵抗の手を振り払いながら攻めてくる。

 

何が引き金となって、チャンミンを無害なヒツジから獰猛なオオカミへと変身させてしまったのだろう?

 

さっぱり分からなかった。

 

(せんせ!

どうしちゃったんだよ!

押し倒すは、パンツを脱がすは...フ〇ラ〇オしようとしてるし!)

 

チャンミンは、まさにユノのアレを口に含もうとしていた。

 

チャンミンの欲のスイッチはONになっていたが、ユノのそれはOFFのままだ。

 

「『今』っすか!?」

 

「はい。

『今』です。

何度も訊かないでください」

 

「いやっ...でも...心の準備が」

 

「僕らの場合、準備なんかしていたら、いつまで経っても『ひとつ』になれません」

 

ユノの両腿の間から頭を覗かせ、チャンミンはそう言い切った。

 

(...確かに)

 

本来、オトコにとって願ったり叶ったりの展開だが、これまでのチャンミンと今とのギャップが大き過ぎて、直ぐにスイッチを切り替えられずにいるユノだった。

 

大好きなはずなのに、恋人関係のメインディッシュを目前にして怖気付いている自分が情けなかった。

 

「せめてシャワーを浴びさせてください!

お願いします!」

 

「...分かりました」

 

チャンミンは押さえつけていたユノの両腿を解放し、引っ張りだしていたユノのものを下着の中に収めてやった。

 

「すんません!

風呂を借ります!」

 

ユノは引き下ろされたズボンのファスナーをそのままに、浴室へと駆けていった。

 

 

この日のチャンミンは、平常モードの彼ではなかった。

 

大好きな年下の彼氏に乱暴を働きかけたことを、恥じていなかった。

 

これが本来のチャンミンの姿だったのだ。

 

 

(俺...やっぱり駄目なんだな)

 

水圧を強めにしたシャワーが、ユノの肩と背中を叩いている。

 

(せんせのこと大好きなのに...)

 

ユノは「おい。やっぱり無理なのか?」と、うな垂れたままのそれに話しかけた。

 

(大丈夫だ。

少しびっくりしただけだ。

せんせがリードしてくれるし)

 

手の平で泡立てたボディソープを、全身くまなく滑らせた。

 

(何、童貞みたいなダサいこと言ってんだ?

引き気味でいたら、せんせを傷つけてしまうんだぞ?

大丈夫だ!

本番になったら何とかなるはずだ!)

 

気持ちを固めたユノが次に悩んだのが、シャワーを浴びた後、服を着るべきか否かだった。

 

(俺の後にせんせもシャワーするだろうから、裸でいるのはマヌケだよなぁ)

 

レバーをひねり、シャワーを止めた。

 

 

(俺のパンツがない!)

 

脱衣所に脱ぎ捨てたTシャツもズボンも下着も何もかもが消えていた。

 

チャンミンがまとめて全部、洗濯機に入れてしまったようだ。

 

ユノは仕方なく、用意されていたバスタオルを腰に巻いた。

 

「ユノさん。

お風呂、終わりましたか?」

 

「!」

 

ノックも無しにズカズカと、チャンミンが脱衣所へ顔を出した。

 

「はい!

いい湯でした」

 

「よかったです」

 

チャンミンはにっこり笑うと、ユノの頬にキスを落とした。

 

(せんせが...いつものせんせじゃない...!)

 

「僕もシャワーを浴びますね」

 

「はい、せんせ」

 

チャンミンは、ユノの額にもうひとつキスすると、服を脱ぎだした。

 

ユノの目前にさらされたチャンミンの裸の背中!

 

ユノはその場から身動きできずにいた。

 

前作でも触れたが、チャンミンは容姿が優れた32歳男性だ。

(生真面目な性格と朴訥な雰囲気が煙幕となって、その気で見ないと実はいい男なのだと気付かれにくい。

教習にも慣れて退屈してきた頃になって、女子教習生たちが気づく。

黄色いひそひそ声など意にも介さず、チャンミンは彼女たちの前を猫背で通り過ぎるのだ。

...なぜなら、チャンミンはゲイだから)

 

中年にさしかかった運動不足の身体であったが、無駄なゴツさがないおかげで拒否感が起きにくいのでは?、といった心配は無用だった。

 

ユノの目には、なまめかしく映っていた

 

(せんせ...)

 

小ぶりのお尻も細いウエストも全部、色っぽい。

 

大好きフィルターがそうさせていたのだろう。

 

ユノの身体からしたたり落ちた水滴が、脱衣所の白い床に水たまりを作っていた。

 

熱い視線に気づいたチャンミンは後ろを振り返り、「そんなに見ないでください」と照れ臭そうに言った。

 

「せんせの裸...初めて見るっす」

 

「僕も、ユノさんの服を着ていないところを初めて見ました」

 

チャンミン側も、初めて半裸のユノを目にしてバクバクと胸を高鳴らせていたのだ

 

やはり反応してしまったそこを、手にしたタオルで覆い隠した。

 

(小1時間内に、僕はユノとひとつになる。

教師と元教え子。

おままごとみたいな、幼く清い恋はもう終わりだ)

 

「寝室で待っていてください」

 

「は...はい、せんせ」

 

ユノは脱衣所を出て行った

 

もちろんチャンミンの視線は、ドアが閉まるギリギリまで、ユノの隆起したお尻に吸い寄せられていた。

 

 

設定温度24℃に冷房をきかせた寝室は、快適そのものだった。

 

(せんせの寝室も初めてだ)

 

ユノはベッドに腰掛け、キョロキョロと寝室内を見回した。

 

家具といえば、中央にセミダブルサイズのベッドが、その横にサイドテーブル代わりのローチェストが配置されただけで、衣服や季節外れのものなどは、壁一面のクローゼット内に収められているらしい。

 

カーテンが引かれた掃き出し窓の向こうは、リビングに繋がるベランダになっている。

 

ファブリックの色柄や家具のデザインを見る限り、がちがちにインテリアに凝っている風ではなさそうで、おかげでアットホームな雰囲気を醸し出している。

 

ユノは夏掛け布団に鼻を寄せた。

 

(すんすん。

せんせの匂いがする)

 

ユノはベッド下を覗き込んだ。

 

(このベッドでせんせがいろんなことを...!

お決まりのエッチぃ本は...。

...なかった。

つまんね~)

 

次に、ユノは枕をひっくり返してみた。

 

(ゴムも無し。

せんせはどこに用意してるんだろ?

俺だったら...)

 

ユノはローチェストの一番上の引き出しに注目した。

 

「おそらくあの引き出しの中かな」と、引き出しの取っ手に伸ばしかけた手を、寸でで止めた。

 

(こういう行為はNGだ)

 

頭を振り振りユノは寝室を出ると、脱衣所のドアに耳をくっつけた。

 

シャワーの音が聞こえる。

 

チャンミンが浴室に消えてから15分が経過していたが、もうしばらく時間がかかりそうだった。

 

 

(つづく)

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