(37)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

自動ドアから姿を現したのは、まるちゃんだった。

 

(彼はユノの友達!)

 

まるちゃん側も、目を丸くして突っ立っているチャンミンに気づいたようだが、彼の表情はぴくりとも動かない(付き合いの長いユノだったら、まるちゃんの1㎜単位の表情の変化に気づけただろう)

 

ユノと別れた後、3時間超えの昼寝から目覚めたまるちゃんは、予約していた声優専門雑誌の受け取りにコンビニエンスストアを訪れていたのだった。

 

深々と被ったフードの影のせいで、口元しか見えない。

 

「君はユノさんの友達の...?」

 

食い気味に近寄るチャンミンに、コミュ障のまるちゃんは後ずさりした。

 

「......」

 

「ごめん...!」

 

まるちゃんとの初対面の日、口をきくのも億劫そうで終始無言だったことを思い出した。

 

今のチャンミンにとって、頼みの綱はコミュ障のまるちゃんだった。

 

ユノと連絡を取りたくとも、自身のスマートフォンはバッテリー切れを起こしている。

 

(僕と連絡が取れないことに、ユノは焦っているかもしれないし)

 

そこへタイミングよく、ユノの親友まるちゃんと遭遇できたのだ。

 

チャンミンは前回と同様、ユノへの伝言をまるちゃんへ依頼する気満々だったのだ。

 

「出入口を塞いでる」と伝えたいのだろう、まるちゃんは脇へ退くよう顎をしゃくった。

 

「ごめんごめん!」

 

2人は店脇の駐輪スペースまで移動した。

 

「え~っと、僕のこと知ってるよね?」

 

1秒遅れて、まるちゃんはこくりと頷いた。

 

親友相手ならば、自分たちの交際のことを打ち明けているだろうと見込んでの質問だった。

 

「君にお願いがあるんだ」

 

まるちゃんの眉間にしわが寄った。

 

「面倒なことじゃないよ。

ユノさんへの伝言を頼みたいんだ」

 

「嫌です」

 

間髪入れずの返答にチャンミンはたじろぐが、前回もひどくそっけなかったことを思い出した。

 

「僕のスマホが電池切れなんだ。

どうしても連絡を入れたいんだ。

だから、君の方からユノさんに伝えて欲しいんだ」

 

両手を合わせ頭を下げるチャンミンに心動かされたのだろうか。

 

「ユノ...落ち込んでた」

 

「やっぱり!?」

 

まるちゃんのぼそぼそ声に、チャンミンは頭を跳ね上げた。

 

「あんたに追い出されたって...」

 

「追い出してなんか...!」

 

否定してみたが、今朝の言動は追い出したようなものだった。

 

(ユノの話を聞きもせず、一方的にまくしたてた挙句、部屋に引っ込んでしまったんだから)

 

「泣いてた(嘘だけど)」

 

「ああ...僕のせいだ」

 

チャンミンは顔を覆ってしまったが、まるちゃんの攻撃は止まない。

(親友のユノを守るために、口を開くこともごく稀にある。ユノに対する気持ちを確かめるために、チャンミンの反応を引き出したかったのかもしれない)

 

「ユノさんに謝りたいんだ。

僕は今すぐ出掛けなくちゃいけないんだ。

...だから、君に言付けを頼みたい」

 

「......」

 

無言を肯定ととらえたチャンミンは、今朝の出来事を説明しだした。

 

その内容とは、アナルビーズがベランダにあった言い訳や、男とのセックスはノンケのユノには時期尚早だったこと、それなのに急ぎ過ぎた自分が悪いのであってユノが自分自身を責める必要はないこと、デートの予定を台無しにしてしまって申し訳ないこと...伝言としては長すぎるメッセージを並べ立てた。

 

まるちゃんは、ぺらぺら動くチャンミンの口元を見つめながら思う。

 

(相手がユノの友人とは言え、よくここまでぶちまけられるんだ?

すげぇなこの人。

恥ずかしくないのか?

...それほど、ユノと連絡が取れなくて焦ってるんだな。

クソ真面目であぶなっかしくて、エロが好き。

あいつが好きになるだけある)

 

「...ってことを、ユノさんに伝えたいんだけど、これから出掛けなくちゃいけないんだ。

ここを留守にするってことも伝えたいんだ」

 

「......」

 

まるちゃんはパーカーのポケットからスマートフォンを出すと、ユノの番号を表示させた。

 

ユノに伝えたいことがあるならば、直接話せという意味なのだろう。

 

「ありがとう!」

 

目の前に突き出されたスマートフォンをうやうやしく受け取った。

 

震える指で発信ボタンをタップした。

 

ところが発信音が鳴るばかりだった。

 

「出ませんね。

もう一度」

 

30秒呼び出し続けてみたが、ユノは電話に出ない。

 

3度目も発信音が鳴るばかりだった。

 

(僕からの着信だからって無視しているわけではないか)

 

「あの時、時間的ロスがあっても自宅に引き返すべきだった!」と後悔しても、今となっては時間的余裕がない。

 

「...ダメですね。

諦めるしかないですね」

 

チャンミンはがっくりと肩を落とした。

 

「お手数おかけしました」と頭を下げた。

 

「ユノさんと連絡が取れるようになったら、さっきの伝言をお願いします。

僕もスマホが復活次第、彼に連絡します」

 

「その依頼の有効期限は?」

 

なんとまるちゃんは、車に乗り込もうとしたチャンミンを呼び止めたのだ。

 

「え~っと...」

 

チャンミンは宙を睨み、目的地到着時間を頭の中で計算して「日付が変わる頃までには」と答えた。

 

まるちゃんが頷いたことに安心したチャンミンは、頭を下げるとそそくさと車に乗り込んだ。

 

 

 

ユノはチャンミンの職場を訪れることにした。

 

チャンミンの友人であるK指導員ならば、チャンミンが行きそうな場所を知っているかもしれないと思いついたのだ。

 

夜間教習が行われている場内教習コースは、煌々とともる照明で明るい。

 

終業を知らせるチャイムの音や、教習簿を携えた教習生たちでにぎやかな待合室が懐かしいかった。

 

つい最近まで、ユノもここに通う生徒だったのだ。

 

受付カウンターでK指導員の居場所を案内してもらうと、学科教習から事務所に戻る彼を階段下で待つことにした。

 

学科教習を終えた教習生たちの最後に、K指導員が現れた。

 

「ユノ君じゃないか?」

 

Kはユノを認めるなり驚きの表情を見せたが、すぐにユノの目的を悟ったようだった。

 

「チャンミンのことかな?」

 

「ええっ!?

分かりました?」

 

「ユノ君が僕に会いにくるなんて、それしかないでしょ?」と、Kはくくくっと笑った。

 

(つづく)

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