(47)チャンミンせんせとイチゴ飴

 

「はあはあはあはあはあはあはあはあはあ」

 

200mを全速疾走し、ゴールで崩れ落ちた陸上選手のように、ユノとチャンミンは荒々しい呼吸で全身を揺らしていた。

ユノはチャンミンに覆いかぶさる格好で、チャンミンはユノの腰に両脚を巻き付けた格好でそのままじっとしていた。

数分ののち、チャンミンの意識は夢から現実へと徐々に戻ってゆき、ユノの腰を拘束していた両膝を解いた。

ユノは装着していたゴムを外した。

その中に溜められた液体をしばし見つめた後、口を結びティッシュペーパーでくるんだ。

チャンミンは未だぐったりと放心しているようだった。

 

(ふっ。

せんせ、可愛い)

 

ユノはチャンミンの隣に横になると、しみじみとチャンミンを眺め、汗で濡れた彼の前髪を額からのける。

 

「せんせ?

大丈夫っすか?」

 

頬をつつかれて、うつろだったチャンミンの眼はユノの顔に焦点が合っていった。

 

「ユノさん...?」と、パチパチと瞬きした。

(『ユノさん』呼びに戻ってる...残念)

「失神してたっしょ?」

「...どれくらい?」

「う~んと、5分かそれ位っす。

せんせ、そこ汚れてます」

 

ユノはティッシュペーパーでチャンミンの腹と胸に飛び散ったものを拭きとった。

 

「めっちゃ飛んでますね。

しかもすげえ量」

「ユ、ユノさんこそどうなんですか?」

「見ます?

ゴミ箱にありますよ。

え~っと」

 

ユノがベッド下のゴミ箱に手を伸ばした時、チャンミンの目前に、ユノの股間がさらされた。

 

「ユノさん!

隠してください!」

チャンミンは両手で目を覆った。

「目のやり場に困ります!」

 

ぷい、と真っ赤な顔を背けてしまったチャンミンを見て、ユノは「仕方ないっすね」とため息をつくと、ハンガーラックに引っかかっていた下着を身に付けた。

 

「男同士なんすから、恥ずかしがる必要ないのに...」

「!」

 

チャンミンも自分こそ全裸のままだったと思い出し、大慌てでベッド下に丸まっていたタオルケットで股間を隠した。

 

「今さら、なに隠してるんすか?

さっきまで見せまくりだったじゃないっすか」

「あれはあれ。

今は今です!」

あっちこっちに放り投げられた衣服を身に付けていった。

アルコールは大量の発汗とともに抜けてしまったようだった。

 

「!」

 

素面に戻ったチャンミンが思い出したこととは...「そんなことより!」突然叫んだかと思うと、ベッドを駆け下り部屋のドアに飛びついた。

 

「......」

 

耳を澄ますと、階下からはTVの音と、父親の笑い声がするだけ。

父親に話しかける母親の陽気で高い声もしてこない。

(よかった~)

 

行為に没頭している間はお互いしか見えていないし、快楽の追求にのめり込んでいることから、ドアノブが回る音にも、室内で繰り広げられる光景を目の当たりにして「ひっ!」と息をのむ声にもまるで気づけなかっただろう。

 

(それはない...よね?

父さんは足の怪我で2階に上がってくるのは困難。

母さんは帰ってきていない...いないと言い切れるのか!?

実は帰宅していて、僕らを呼びに上がってきていたかもしれない!?

花火大会に行くのかと、僕らに声をかけようとしていたかもしれない!?

そして、見てはいけない光景を目にしてしまい知らんぷりを決め込もうとしているのかもしれない!?)

 

チャンミンは青ざめた。

 

「どうしたんすか?」

「えっと...僕らがアレしてたこと...バレてたらどうしようと思って」

「さあ...。

俺、ドアに背を向けてたし、せんせの声はうるさいし、全然わかんないっす」

「嘘っ!」

「声がデカかったのは確かっす。

『ヤバい』と思って口を塞いだら、手を噛みつかれるし」

ユノは赤く点々と付いた歯形をチャンミンに見せた。

「すみません」

「いいって。

そんだけよかったってことですからね。

俺たちのセックス...見られてないっすよ」

「どうして分かるのですか?」

「俺はせんせより理性保っていたから。

せんせってば、あっちの世界にいっちゃってたし」

 

チャンミンはユノの言葉を否定できず、「...そうですね」と認めざるを得なかった。

 

「あの...ユノさん」

「はい?」

「あの...あの嫌じゃなかったですか?

僕とのその...あれ。

男とヤッて、気持ち悪くなかったですか?」

「はあ?

何言ってんすか?

あんだけ盛り上がったのに」

 

ユノは顔を覆ってしまった チャンミンの手をどけた。

 

(泣いちゃった!?)

「僕...ユノさんが好きなんです」

「知ってますってば」

「男で、すみません」

「そういうの、もう止めましょうよ」と、ユノはチャンミンの頭を抱いた。

 

チャンミンはユノの肩に頭を預けた。

 

「俺だって、正直ちゃんとできるか不安でしたよ。

昨日みたいになるんじゃないかってね。

でも、そうはならなかった」

「......」

「好きな人と繋がりたい

せんせ、すげぇ色っぽかったし。

女の子のつもりで抱いたわけじゃないから」

「はい...分かってますよ」

 

チャンミンは涙をぬぐい、笑った。

涙をぬぐった後に見せた笑顔に、ユノのハートは撃ち抜かれたのだった。

 

「よし!」

ユノは手を叩いた。

「そろそろ行きましょうか?

お祭りに」

「はい。

そうですね」

 

真夏の日没はしばらく後だが、窓の外は薄暗くなりかけているようだった。

ユノとチャンミンは立ち上がった。

 

(つづく)

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