上の写真は、僕の恋人が撮ったものだ。
組んだ腕を枕に、デッキに寝っ転がっていたから、刻々と形を変える雲でも眺めているのかと思った。
全く、いつの間にシャッターを切ったのやら。
「そろそろ行ってくる」
と僕に声をかけると、パシャーンと水しぶきを上げて飛び込んで、「おーい!」と波間から手を振った。
恋人はまさに水を得た魚のように、はしゃいでいる。
ボートに並走して泳いでいたかと思うと、潜水する。
心配になるほど潜水していたかと思うと、反対側にひょこっと顔を出す。
恋人が、水中に姿を消すたび僕の胸がギュッと苦しくなる。
このまま帰ってこないのかもしれない、って。
「おーい」と呼び声に、タラップをよじ登ろうとする恋人に手を貸す。
よかった、戻ってきた。
30分ほど泳ぎを楽しむと、デッキに上がって空を眺めたり、
僕とおしゃべりしたり、
お弁当を食べたり(僕が作った)、
歌を歌ったり(僕よりずっと上手い)、
「海に来るたび、僕は不安になる。
君が海に帰ってしまうのではないかって」
不安な気持ちをこぼすと、恋人はハハッと笑って僕の口をふさぐんだ。
そのままいい雰囲気になって、デッキの上でいちゃいちゃしたり。
そして、「潤してくる」と言って、海に飛び込んだ。
「心配するなー!
チャンミンの側から離れないって決めてるんだから!」
デッキのヘリから波間を見下ろすと、
らっこのようにぷかぷか水面に揺れながら、
僕の愛しい人魚は、両手でハートのマークを作ってみせた。
僕らのデートはこんな感じ。
月に一度は、恋人をボートに乗せて海遊びを楽しむ。
一緒に遊園地へ行くことも、ショッピングをすることも、登山もできない。
できないことがあまりに多すぎる。
だから、僕らが一緒にできる事柄を、ひとつずつ増やしているところなんだ。
恋人のために、自宅の庭にプールを作った。
すいすいと気持ちよさそうに泳ぐ恋人の側で、僕は読書をする。
プールに飛び込んで、恋人といちゃいちゃする。
夜は、プールサイドに敷いたマットで僕は眠る。
僕が寝坊しそうな朝は、尾びれで水面を叩いて、僕に水しぶきを浴びせて起こしてくれた。
寝ている僕をマットごとプールに引きずりこむという、度が過ぎた悪戯をした夜があって、
めちゃくちゃ腹を立てた僕は、寝室のベッドで3日間眠って、口もきかなかった。
4日目の早朝、プールの縁に腰掛けた恋人の、寂しそうな哀しそうな背中を見た時、
(この人を守れるのは、僕だけだったんだ)
裸足で庭へ下りると、恋人の濡れた背中を抱きしめた。
(この人には、僕しかいないんだった)
海からここまで連れてきたのは、僕の方だったのに。
いっぱい謝った。
雨の日や寒い季節には、側で眠れなくて困った。
そこで、地下に屋内プールを作った。
これで全天候OK。
鮮魚を運搬するような、タンク付きトラックを購入しようかと、僕は真剣に悩んでいる。
そうすれば、もっと遠くへ出かけられるから。
人魚の恋人でいるのは、こんな具合に大変だけど、僕は恋人のことを、海の底より深く愛しているから、全然苦じゃない。
恋人がボートで撮ってくれた僕の写真をしばらく眺めていた。
視線を横にやると、僕の美しい人魚がプールサイドで昼寝をしている。
水から上がっていられる時間を伸ばすための、訓練なんだそうだ。
おっと、そろそろプールに入る時間だ。
起こしてあげないと。
この人はうっかり屋だから、放っておくと日干し人魚になりかねないからね。
(おしまい)