【短編】恋人のTシャツ★

 

身体を丸めて眠るあなたを起こさないよう、

マットレスを揺らさないよう、

そっとベッドから降りた。

 

すやすやと眠るあなたが、あまりにも美しかったから、

つるんとしたおでこに軽く唇を押し当てた。

 

昨夜、僕らが脱ぎ捨てていった衣服を、順番に拾い上げていく。

 

胸に沁みる甘い余韻。

 

ちょっとしたイタズラを思いついた僕。

 

きっと驚くだろうな。

 

そして、ちょっとだけ怒るだろうな。

 

でも、あなたのことだから、最後には笑顔になってくれるはず。

 


 

目覚めたら隣には彼はいなくて、

半身を起こしてぼんやりした頭で昨夜のことを思い出す。

 

長期出張から戻ったばかりのチャンミンに、性急に求められるまま身を預けた。

 

私たちが抱き合うのは1か月ぶりだったから、それはもう...。

 

重だるい身体も、甘い余韻だ。

 

コーヒーのいい香りが漂ってくる。

 

床に散らばっているはずの下着を探したけれど、見当たらない。

 

困ったな。

 

「起きた?」

 

チャンミンが寝室に私を呼びに来た。

 

「朝ごはんが出来たよ。

キッチンまでおいで」

 

慌てて私は布団にもぐりこみ、顔だけ出した。

 

抱き合う時は、いくらだって裸の姿をさらけ出せるのに、一夜明けて、昼間の光の下では恥ずかしい。

 

「私の服は?

とってくれる?」

 

とお願いしたら、チャンミンったら。

 

「それがないんです」

 

って、眉を下げて困った顔で言うんだ。

 

「ない?」

 

意味が分からなくて、首をかしげていたら、

 

「全部、洗っちゃったんです。

僕のものも、あなたのものも」

 

ふふふ、っとチャンミンは笑う。

 

「え!?」

 

「僕のTシャツを貸してあげますよ。

さあ、早く起きた起きた。

お腹が空いたね。

ご飯にしましょう」

 

手渡されたTシャツに袖を通すと、チャンミンの匂いに包まれて、甘やかな気持ちになる。

 

 


 

 

「素敵な眺めですねぇ。

僕が貸した服を着た恋人って、色っぽいものですねぇ」

 

「恥ずかし過ぎる!」

 

チャンミンが引いてくれた椅子に、Tシャツの裾をぎゅっと引っ張りながらそろそろと腰かけた。

 

「はい、コーヒー」

 

「ありがとう」

 

チャンミンが淹れてくれたコーヒーは、熱くて濃くて、美味しくて。

 

青いニットを着たチャンミンの背中を見つめる。

 

私のために、美味しいものを作ってくれるチャンミンの背中。

 

こういった、日常のちょっとした景色の1カットを、

チャンミンと過ごすひとときを、大切にしたいと思った。

 

 


 

 

「乾燥機が壊れちゃったんですよね。

乾くまでに...半日はかかるでしょうね」

 

と言ったら、

 

「帰れないじゃないか!」

 

って当然ながら、あなたは怒った。

 

「困りましたね。

どこにもでかけられませんね」

 

そう言ったら、あなたは僕の作戦に気付いて、

 

「仕方がないなぁ」

 

って苦笑した。

 

僕は、あなたのちょっと困った顔が大好きなんだ。

 

ブラインドを閉きった窓ガラスの向こうは、初夏の景色。

 

今日も暑くなりそうだけど、

 

エアコンの効いた快適な部屋で、

 

僕らは一日二人きり。

 

さあ、何をして過ごしましょうか?

 

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