~チャンミン~
「さあさあ、たんと召し上がれ」
シズクは、ビニル袋からどんどん取り出す。
ダイニングテーブルじゃなくて、ここがいいとシヅクが言うから、床に座って彼女からの差し入れを食べることにした。
僕はあぐらを組んで、シヅクと対面して座る。
「ねぇ、シヅク...セレクトが妙というか、変わってるというか...」
「えっ?どこが?」
シヅクは、床の上に正座をして、グラスにスポーツドリンクを注いでいた。
「飽きたらいかんと思って、バリエーション豊かにしてみたんよ」
ゼリー飲料レモン味、ゼリー飲料マスカット味、ゼリー飲料ライチ味、ゼリー飲料アップル味。
(おいおい)
プレーンヨーグルト、ストロベリーヨーグルト、ブルーベリーヨーグルト、アロエヨーグルト、オレンジゼリー、ピーチゼリー。
(おいおいおい)
「こいつら液体だからさ、めっちゃ重いのなんのって」
(おいおいおいおい!)
「あんたは、風邪っぴきでしょ?
冷たくてさっぱりしてて、消化がよくて、身体への吸収がよくて、
ビタミンが摂れるっていえば、これらしかないでしょ?
シヅクさんの心遣いに、涙がでちゃうね、チャンミン?」
さっき大泣きしていたシヅクは、真っ赤に充血した目を三日月にしてにっこり笑った。
僕はどう反応したらよいかわからなかった。
嬉しさ反面、呆れていたし、シヅクのズレっぷりや極端なとこに、どう反応したらよいかわからなかったのだ。
「......」
黙りこくっている僕の様子に、
「どうした、チャンミン?
頭が痛いのか、僕ちんは?」
シヅクは僕の肩に手を添えて、僕の顔を覗き込んだ。
(まただ。
僕はこれに弱いみたいだ)
さっきの涙でシヅクのアイラインはすっかり消えてしまっていて、目元がうんと幼い感じになっている。
呆れてた、なんて言ったけど、本当は、僕はじわじわと感激していた。
嬉しかった。
「私もいっただきまーす」
シヅクは、もう一つの袋から続々と食べ物を取り出し始めた。
「えっ...これ全部シヅクが食べるの?」
シヅクの体型を見、ずらり並んだ食べ物を見、絶句している僕。
「馬鹿もん!
んな訳ないだろ!
いろんな種類があって、迷ったから、全種類買ってみたまでのことよ」
最後にビールの缶が出てきた。
「おっと、あんたは飲んじゃいかんよ、風邪なんだから」
シヅクは手を伸ばす僕の手を、ピシャリと叩いた。
「痛いよ、シヅク」
僕はがっかりして、ストロベリーヨーグルトを選ぶ。
仕方なさそうにヨーグルトを食べる僕を見て、
「余った分は、明日のチャンミンの朝食だ」
「えー、残り物ですか...」
「ままま、拗ねなさんな、あー、うまい!」
シヅクは、唐揚げをかじって、ビールで流し込んでと、美味しそうに消費していく。
知らず知らず、ごくごくとビールを飲むシヅクの、白い喉から目が離せない僕。
「チャンミン」
シヅクが僕から目をそらし、ヨーグルトをすくう僕のスプーンを見つめている。
「はい」
「さっきはごめんね、その~、裸を見ちゃって」
「うっ」
僕は30分前のハプニングを思い出して、一瞬でカーっと顔が熱くなる。
今度は、真面目な表情で僕を見た。
「でも、見てないからね!」
「最初に、見たって言ったじゃないか」
(こっぱずかしい姿を見られて...あぁ、あの時を消し去りたい)
「だーかーらー、見たけど、見なかったことにしてやる、ってことよ」
(どうして、シヅクはケロッと涼しい顔でいられるんだよ?)
シヅクはビールを飲み終えて、ゼリー飲料のキャップを開けている。
「私に記録されたメモリを、消去してやった、って意味だよ」
「意味わかんないよ」
「照れるな照れるな、可愛いやつだなぁ、チャンミン」
シヅクはニヤニヤ笑っている。
「女の前で裸になるのなんて、何度もあるくせ...」
と言いかけて、シヅクはパッと手で口を押さえた。
「おっ、もうこんな時間だ!」
シヅクはリストバンドを見て、勢いよく立ち上がると、
「そろそろ帰るね。
ちゃんと薬飲んで、おりこうさんしてるんだぞ」
バッグを持って、玄関の方へスタスタ行ってしまう。
その間、僕は何も言えず、(多分)真っ赤な顔をして、床に座ったままだった。
「チャンミン」
玄関へ向かう廊下の角から、シヅクは顔を出した。
「何?」
「データがうまく消去できなくて、思い出すこともあるかも、ぐふふ」
「ちょっ、シヅク!」
わっははと笑いながら、「おやすみぃ」と言い残してシヅクは帰ってしまった。
(なんだよ、からかって)
僕は頭を抱えて、髪をぐちゃぐちゃ混ぜる。
「はぁ...」
まったく、ため息ばかりついてる一日だった。
ハプニング続きで、頭がついていけないよ。
はたと、大事なことを3つ思い出した。
その1、
シヅクにお礼を言うこと。
その2、
シヅクはどうやって、僕の部屋に入れたのか追及すること。
その3、
シヅクから借りたマフラーを返すこと。
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