「チャンミンたら、顔が真っ赤だったわね~」
ミーナは可笑しそうに言って、シヅクの脇腹をつつく。
「お礼ってなんだったの?」
「病院に付き添ってあげた」
シヅクは、チャンミンからもらった袋の中身を、膝の上に出している。
7種類の中華まんを2個ずつ、計14個。
(チャンミンったら、的が外れているというか、なんというか...)
「ふうん。
例の頭痛?風邪?
美味しそうね、1個ちょうだい」
「あ、いいよ。どうぞ」
「僕にも下さーい!」
カイがやってきた。
「あれ?チャンミンさんは?」
「赤面して、どっかいっちゃったわよ」
ミーナは、カレーまんを頬張りながら、ケラケラ笑った。
「チャンミン、可愛いじゃない!」
(チャンミンよ、お前は高校生か!)
シヅクは動揺しつつも、嬉しさで胸がいっぱいだった。
胸がいっぱいになってしまって、これ以上食べられなかった。
(夜、食べよう)
シヅクは、チャンミンからの「お礼」を胸に抱えて、仕事場に戻った。
(チャンミンが可愛すぎる!
午後の勤務中。
チャンミンは、ぬかるんでしまった畝を鍬でかきならしていた。
摂氏35度のハウスは暑い。
5分もしないうちに、汗が噴き出してくる。
(やることリストの1つは果たせた。
次は、シヅクにマフラーを返すことだ。
忘れてた)
作業する手を止めて、ポケットから薬のボトルを取り出す。
錠剤を1錠口に含んで、ミネラルウォーターで流し込む。
「チャンミンさん、どこか悪いんですか?」
半袖Tシャツになったカイは、吸水ポリマー入りの大きな袋を3袋抱えている。
チャンミンも、上着を脱いでも暑いので、Tシャツの袖を肩までまくり上げていた。
「チャンミンさん、頭が痛いんですか?
...よっこらしょ」
カイはドサリと重い荷物を下ろして、腰をトントン叩いた
「よっこらしょ、なんて、年寄りみたいだな」
「24歳は年寄りですよ、十代に戻りたいっす」
「そういうものかな?」
チャンミンは、袋を水が溜まっている箇所に移動させる。
(よしと、余分な水分はなくなるはず)
カイのウェーブかかった髪も、汗でひたいに張り付いている。
「チャンミンさんこそ、どうなんです?
30歳でしたっけ?」
「29だよ、悪いかー?」
「ハハハハハ!
チャンミンさんも、10代に戻りたいって思います?」
「10代?」
チャンミンは汗で濡れた前髪をかきあげた後、じっと考え込む。
「チャンミンさんの10代って、どんな風でした?」
(僕の10代の頃って...どうだったっけ?)
気持ちを集中させて、10年以上前の自分を思い浮かべようとした。
「10代...?」
(駄目だ、霞がかかったかのように、曖昧だ)
頭をはっきりさせるかのように、チャンミンは頭をぶるっと振った。
(僕は、ぼんやりと生きてきたから、印象に残るようなエピソードなどないのかもしれない)
そう納得させようとした、その途端、
チャンミンの視界が、左右に揺れる。
(まただ!)
チャンミンが、まぶたを覆ってよろけた。
「チャンミンさん!」
カイは素早く駆け寄って、彼を支えた。
チャンミンは、カイに支えられたまま、ギュッと目をつむり、深呼吸を繰り返した。
「平気だよ...ありがとう」
チャンミンの眩暈は一瞬のことだったようで、今はしゃんと立っていられる。
「チャンミンさん、顔が真っ青です。
休んだ方がいいですって。
後は僕ひとりで出来ますんで」
カイは、眉をひそめて、チャンミンを心配そうに見る。
「冷たいものを飲めば、気分もよくなると思う。
カイ君、飲みたいものある?
買ってくるよ」
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