【Secret】復習屋

 

 

「X氏...ね」

 

靴を履いたままデスクにかかとを乗せ、天井を振り仰いでいたユノは呟いた。

 

「許せませんね」

 

憤慨しながらチャンミンは、ユノが散らかしたお菓子のパッケージや食べかすを片付けていた。

 

(やれやれまったく、この人はいつもこうなんだから)

 

「おイタをした奴には、天罰が下る」

 

「どうやって懲らしめましょうか?」

 

「ワルさをしたアソコには、痛~い思いをしてもらうしかないなぁ」

 

「僕らがお縄になるのは嫌ですよ」

 

「分かってるって。

じわ~っとくる、とっておきの方法を思いついたんだ」

 

「毛じらみを仕込む、ってのは無しですよ?」

 

「...チャンミン、お前...。

俺なんかよりよっぽど、陰湿な罰を思いつくんだなぁ」

 

「え!?

そういう系じゃないの?」

 

「ぞっとしてもらった後に、恥ずかしい思いをしてもらうだけさ」

 

ユノの瞳はらんらんと輝き、その唇は斜めに歪んでいた。

 

「決行は...今夜だ!」

 

(ユノは本気だ!

いつだってユノは本気だけど、今回は相当にヤバイ手段を思いついたに違いない!)

 

チャンミンはぞっとして、自身の股間を撫ぜたのだった。

 

 

 

 

目覚めたX氏は、自身が置かれた状況を把握するやいなや大暴れをした。

 

と言っても、両手両足はベッドの4隅に固定され、猿ぐつわを噛まされていて言葉を発せない。

 

せいぜい身震いし、奇怪な声を上げるだけ。

 

巨大な男だった。

 

X氏の足元に、眉目秀麗な青年が二人立っていた。

 

ユノとチャンミンだ。

 

と言っても、キャップを深くかぶり、サングラスとマスク、黒色のつなぎに手袋までしていたため、実際のところは彼らがハンサムなのかどうかはぱっと見には分からない。

 

しかし、小さな頭に高い腰の位置、俊敏な動作から、スポーティな肉体をしていると判断できるだろう。

 

「Xさんよ。

俺たちはあんたには恨みはねぇが、ムカついている。

あんたにひとつ、痛い目に遭ってもらわないといけない」

 

ユノが軽く頷くと、チャンミンはノートPCをX氏の正面に掲げ、ディスプレイに映し出されたものを見せる。

 

X氏のぎょろ目が飛び出さんばかりに、見開かれた。

 

「あんたのために解説しておこう。

これは、ある映画のワンシーンだ。

いわゆる...拷問...じゃなくてお仕置きシーンだ。

主人公に酷いことをしたクソ親父がいる。

ブチ切れた主人公は、このクソ親父を縛り上げて、お仕置きをしてやろうとしてるんだ。

ほら、Xさん、あんたみたいに縛られてるねぇ。

ほら!

主人公が持ってるやつ!

あのぶっといやつを...チャーミー、あれを出せ」

 

(チャーミーって何だよ。

ユノは毎回、任務の度に適当に思いついた名前で呼ぶんだから!)

 

チャンミンは透明ビニールでくるんだ(汚れるのが嫌なのだ)PCをX氏の腹の上に据えると、持ち込んだバッグの中からそれを取り出した。

 

「このぶっといやつを...」

 

ユノはX氏の鼻先で、直径7センチ長さ30センチ強のものをクルクル回した。

 

「このぶっといやつを...いぼいぼがいーっぱい付いたこいつを...」

 

ここでユノは、言葉を一旦切った。

 

「...さて問題です。

主人公はどうしたでしょうか?」

 

(ユノユノのクイズタイムが始まったよ...)

 

チャンミンは首をふりふり、次の準備を始めた。

 

猿ぐつわを嵌められたX氏は答えることは当然できないが、分かっていても恐ろしくて口にできないだろう。

 

「うっわー、これは痛い!」

 

ユノはPC画面を覗き込んで顔をしかめてみせた。

 

(サングラスとマスクが邪魔で、その表情をX氏に見せることは出来ないが)

 

「映画みたいにしてやりたいところだが、これが汚れるのは嫌だ。

これはチャーミーのために用意したものなんだからな」

 

「ええぇ!?」

 

バッテリーにコードを差し込んでいたチャンミンは目を剥く。

 

チャンミンはユノの手を引き、部屋の隅まで連れて行った。

 

「僕が怪我しちゃうじゃないですか!」

 

「チャーミーは俺ので訓練を受けているから、大丈夫!」

 

「嫌ですよ、そんな冷たくて固いものなんて...。

あったかくて、固いのにほどよい弾力があるものがいいんです」

 

「それって、雄々しくそびえるアレのこと?」

 

「うん」

 

「チャーミーが頬ずりしちゃうくらい大好きなアレのこと?」

 

「うん」

 

「ふふふ」

 

X氏の呻き声で二人は、任務中であることを思い出した。

 

「おほん。

話を戻そう。

主人公は次に何をしたか?

ここからが凄いぞ~。

チャーミー、あれを出せ」

 

チャンミンは頷き、PCを操作して次のシーンを再生する。

 

それを目にしたX氏は、巨体でマットレスを揺らす。

 

チャンミンは透明アクリルのシールドを顔面に装着し、バッテリーにつないだ機械の電源を入れた。

 

その手には、歯科医が使う電動ドリルのようなものがあった。

 

「これはね、Xさん。

入れ墨を彫る機械なの。

主人公はね、クソ親父の腹にとんでもない文句を彫ったんだよねぇ...。

でかでかと」

 

猿ぐつわの下でX氏の顔が、恐怖と興奮で赤黒く変色している。

 

「さて...なんて彫ろうかなぁ?

あんたが犯した悪事を、ずらずら~と書きつらねようかなぁ」

 

ユノはベッドの周りをゆっくりと、行ったり来たりしながらX氏の恐怖を煽る。

 

チャンミンは、高速で回転するペン先をX氏の腹に近づけては、離して見せる。

 

「...と、したいところだが。

怪我をさせたら俺たちが悪者になっちゃうから、入れ墨を彫るのは止めておく」

 

X氏の全身からどっと力が抜けた。

 

「あんたにはこれからちょっと、おネンネしてもらうよ。

注射がいい?」

 

X氏は頭を横に振っている。

 

「だよね。

俺たちも注射は怖い。

薬を飲んでもらいたいけど、あんたの猿ぐつわをどかさないといけないでしょ?

手が汚れるから嫌なんだよねぇ...」

 

その後のユノの動きは俊敏なヤマネコのようだった。

 

プスリ。

 

ユノとチャンミンは、X氏を見守る。

 

X氏の両目が閉じ、呼吸が規則正しいものとなるのを確かめると、顔を見合わせて大きく頷いた。

 

 

 

 

「ホントはなぁ、もっと派手なことをしてやりたかったんだけどなぁ...」

 

「まーね。

防犯カメラを全部潰しきれてないかもしれないし。

捕まりたくないですもん、あんな奴のために」

 

「こんなんであの人の傷は癒せないけどさ。

ちょっとは気が晴れてくれたら、って願うよ」

 

「うん」

 

チャンミンが差し出した手を、ユノはぎゅっと握りしめた。

 

「チャーミーの作ったあのマシンは凄かった。

力も速さもカラクリも...全部すげぇよ」

 

「突貫工事だったから、ちょっと心配だったけど。

チャーミーって呼ぶのはもう止めて!

...あっ!

戻って来ましたよ」

 

二人が乗ったバンの真後ろに、帰還したスーツケースが停止した。

 

 

 

 

防犯カメラは捉えていた。

 

人通りの全くない通りを、ストレッチャーが横切った。

 

押す者のいないその上には、四肢を固定された男が寝かされている。

 

広場中央に停車したストレッチャー。

 

男を固定していたベルトが自動で巻き取られ、次に電動音を立てながら寝台の片端が持ち上がった。

 

過重量なのか、モーター音がうんうんうなっている。

 

ストレッチャーがかしいで倒れる...間際で、男の身体はアスファルトの上にどさり、と落ちた。

 

男はぐうぐうと眠ったまま。

 

男を下ろしたストレッチャーは、寝台を4つ折りにし、脚を収縮させ、小型のスーツケース型に変化した。

 

そして、元来たルートを戻って行った。

 

 

 

 

「朝になったら、あら大変」

 

「駅前は大騒ぎ。

裸のおっさんが大の字になって、寝っ転がってるの」

 

「きゃーーー!

だね」

 

「おっさん、捕まっちゃうよ。

わいせつぶつなんじゃらほい、で」

 

「ひゃ~~~!」

 

「やり方がぬる過ぎて、歯がゆいけど仕方がない。

あのおっさんも、何でこんな目に遭ったのか、意味わかってなさそうだし」

 

「でしょうね」

 

「こっぱずかしい思いをしてもらう程度だけど、やらないよりマシか...」

 

「ふわぁぁ...眠い」

 

フロントガラスの向こう、周囲の景色が薄青くなってきた。

 

「徹夜だったからね。

早くおうちに帰ろう!」

 

「ったく、あのおっさん、牛みたいに重いんだから!

俺の腰が...死んだ」

 

腰をとんとんと叩くユノに、チャンミンは「湿布を貼ってあげるよ」

 

そう言ってユノのおでこにチュッとキスをすると、エンジンをかけた。

 

 

 

(おしまい)

 

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