産卵

 

 

「ひ、ひ、ふー。

ひ、ひ、ふー」

 

「よし、いい子だ。

あともうひとふんばりだ」

 

「ひぃ、ひっ、ふー」

 

ユノはチャンミンの額から流れる汗を、タオルで拭いてやる。

 

ユノの手を握るチャンミンの指の力は、手の甲に爪が食い込むほどだった。

 

「っん...んっ...」

 

チャンミンはぎゅっと目をつむり、ある1点に向けて渾身の力を注ぐ。

 

「いったん、深呼吸しようか?」

 

「ふうふうふう」

 

ユノの目線は、チャンミンの顔と彼の尻の中心とを行ったり来たりと忙しい。

 

チャンミンのお尻の真ん中。

 

桃色の粘膜がいっぱいいっぱい口を開き、硬質な丸いものが出たり引っ込んだりしている。

 

「お尻が...痛い」

 

「どれどれ...。

血も出てないし...うん、大丈夫だ!」

 

「ホントに?

じんじんする」

 

「入れるときはあっという間だったのになぁ。

つるん、って」

 

「やった直後だったからだよ」

 

「もっとくださ~い、ってひくひくしてたぞ?」

 

「ユノの馬鹿」

 

「3分の1は顔出したから。

一気にやっちゃってくれ」

 

「...う...ん」

 

「顔を出してきたぞ。

...力を抜くな。

あ〜あ、引っ込んじゃったぞ」

 

「だって...だって...。

おっきいんだもん」

 

苦し気にあえいで、チャンミンは目尻にたまった涙を拭った。

 

「そりゃそうさ。

世界で一番、大きいんだから」

 

「...苦しいし、やだ...」

 

「じゃあ、そのまんまでいる?」

 

「やだ」

 

「普段、もっとデカいやつ入れてるだろ?

弱音を吐くな。

チャンミンならできる」

 

「一番膨らんでるとこ...がキツイ。

裂けそうで怖い」

 

「よっしゃ。

マッサージしてやるぞ。

...どう?」

 

「今ならイケそうな気がする。

んん~っ!」

 

「頑張れチャンミン!」

 

「んっ、んーっ...っん、んんっ...」

 

「産まれる、産まれるぞ!」

 

「ひ、ひ、ふー」

 

チャンミンはぎゅっと目をつむり、歯を食いしばる。

 

「んーっ!」

 

「あと少し!」

 

ユノはチャンミンの背をさすり続ける。

 

「頑張れチャンミン!」

 

「んん~~~!」

 

 

 

 

 

すぽん。

 

 

 

 

「チャンミン!

やった、やった。

よくやった...!」

 

ユノはチャンミンの頭を引き寄せて、ごしごし撫ぜ、頬にキスの嵐。

 

「はあはあはあはあ...」

 

「チャンミン...凄いよ。

お前は数百億の価値ある卵を産んだんだぞ」

 

お尻の下に敷いたタオルの上に、ぽとりと産み落とされた卵。

 

ユノは卵を人差し指と親指でつまみ持つと、ライトにかざす。

 

「ほぉ...」

 

光の当たり具合でそれは、濃い赤から濃い青へと色を変え、その中間の紫色は一瞬だ。

 

その瞬間を見たくて、ユノは手首を左右にかえして、卵の中で繰り広げられる色の世界を楽しんだ。

 

一仕事終えたチャンミンは、全身を汗で光らせ、呼吸を整えようと深呼吸を繰り返していた。

 

汗びっしょりの首の後ろをタオルで拭う。

 

例の箇所がじんじんする。

 

「...綺麗だ...」

 

ライトに近づけると、強い光線のもとでは不思議なことに無色透明になるのだ。

 

中に数億年前のあぶくが閉じ込められている。

 

「綺麗だなぁ...最高だ。

チャンミンが産んだ卵は...綺麗だ」

 

「馬鹿ぁ。

もう二度としないでよ。

一生、出てこないんじゃないかって、怖かったんだから」

 

「チャンミンの可愛いアソコを見てたらさ、ついつい...」

 

「もおっ!」

 

かあぁぁっと赤くなったチャンミンは、手にしたタオルをユノに投げつけた。

 

「その卵...どうするの?」

 

半身を起こしたチャンミンの視線の先。

 

シルクハットと夜会服。

 

「目的は果たしたから、本来の持ち主に返してやるよ」

 

「目的を果たすって...。

僕に卵を産ませたかった、ってことが?」

 

「うん」

 

「...ユノの変態」

 

「うん。

俺はチャンミン限定で、変態になるんだ」

 

「罰当たりなことをしちゃったね」

 

「どうせこれは、数奇な運命を無数に見てきたシロモノさ。

こんな程度、可愛いものさ」

 

ユノはそう言って、片眼鏡をはめて見せたチャンミンの頭を撫ぜた。

 

 

(おしまい)

 

[maxbutton id=”23″ ]