【49】NO?-君が恋人だったらよかったのに-

 

 

「チャンミンさん...いいんですか?」

 

「ん?」

 

「私でいいんですか?」

 

「いいに決まってるじゃないか」

 

「私って...女じゃないんです」

 

「へ?」

 

「私...男なんですよ?

いいんですか?」

 

「えぇーっ!」

 

(待て。

ここは女子部屋だ)

 

数秒後には、民の冗談だと気付いたチャンミンは、民の額を突いてしまい、顔をゆがめた民に「ごめん!」と謝った。

 

(いつもの民ちゃんだ。

よかった、調子が戻ってきたみたいだ)

 

「ボーイッシュなだけで、民ちゃんは十分、女の子だよ」

 

「女の子...ですか」

 

民の目が左右非対称に細められて、チャンミンは「よかった、喜んでいる」とホッとした。

 

この子は本当に可愛い、とチャンミンはしみじみ思った。

 

「あの...どちらから告白したんですか?

私たち...?」

 

(うっ...そこを突いてきたか)

 

「えーっと...、民ちゃん、の方かな?」

 

(こらー!

僕の願望を言ってどうする!)

 

(私の方からですか!?

チャンミンさんの方からじゃないんですね。

チャンミンさん...難しい展開にしないでくださいよ)

 

「そうだったんですね、私の方からですか...。

覚えてないです」

 

(そりゃそうよ。

だって、チャンミンさんに『告白』だなんて、これまでしようとも思わなかったし、そういう気持ちなんてなかったし。

もしその通りならば、私だったら絶対に、自分の方から言えなさそう。

男の人に告白だなんて、恥ずかしいし、自信がないし...。

経験上、どうせ断られるに決まってるから)

 

(まずい...信じちゃったかな)

 

「私、なんて告白しましたか?

好きです、って言ったんですか?

チャンミンさんのことが、好きですって」

 

面白くなってきた民は、チャンミンの回答が聞きたくて具体的な質問をする。

 

(告白の言葉!

民ちゃんだったら、何て言うかなぁ)

 

「内緒。

大切にしたい言葉だからね。

胸に仕舞ってあるんだ。

いずれ民ちゃんが思い出すよ」

 

(思いつかなかった。

現実の話じゃないから、僕の貧弱な想像力じゃ思いつかない)

 

「ケチンボですね」

 

(民ちゃんから、好きだ、と言われたら、飛び上がるくらい嬉しいだろうなぁ)

 

「あの...つかぬことをお聞きしますが?」

 

「何?」

 

「私たちはいつ性交渉をもったのでしょうか?」

 

「セイコウショウ?」

 

チャンミンが首を傾げていると、民は握ったチャンミンの手を上下に振った。

 

「とぼけないでくださいよ。

エッチのことです。

私たちはいつ頃セックスをしたか?と聞いています」

 

(ミミミミミミミンちゃん!

答えにくいことをいきなり!)

 

「え、え...と」

 

(民ちゃんはやっぱり、民ちゃんだ。

民ちゃんがしそうな質問だ。

『まだ』と言うべきか、どうしよう)

 

「に、2週間前くらい...かな」

 

「付き合って『すぐ』ですか!?」

 

(しまった!

計算を間違えた)

 

「そうですか...。

じゃあ、私の初めてはチャンミンさんに捧げたんですね」

 

「うっ...」

 

(想像通り、民ちゃんは『経験ナシ』だった。

よかった......っておい!

なに喜んでるんだよ!)

 

「『どこ』で、やりましたか?」

 

「!!」

 

(民ちゃん、お願いだ。

あまり具体的に聞かないで欲しい。

嘘をつき慣れてない僕には、こういう類の話は苦手なんだ)

 

「え...っと...、僕らの部屋で...」

 

(リアル過ぎたか?)

 

「昼間?

夜?」

 

「え...っと、昼間」

 

「ひるまぁ!?

昼下がりの情事ですか...そうですか...。

で、どちらから誘ったんです?」

 

「...民ちゃんから...」

 

「!!」

 

(私からですか!?

チャンミンさん...もっと私のキャラを考えてくださいよー)

 

「ふーん、そうだったんですね。

私は大胆ですねぇ」

 

「その通り、民ちゃんは大胆なんだ」

 

(本当にマズイ!

民ちゃんは本当に、信じ込んでしまったようだ。

民ちゃんを連れて家に帰ったら、リアがいるし。

リアのことをどう説明しようか...。

今さらだけど、『嘘でした』と打ち明けようか。

『フリ』はもう辛い)

 

「はあ」

 

どっと疲れが出て、チャンミンは大きく息を吐いた。

 

民はしどろもどろのチャンミンが可笑しくてたまらない。

 

(チャンミンさんをからかうと面白い)

 

「チャンミンさん、キスして下さい」

 

「!!!」

 

驚きのあまりチャンミンは、椅子から滑り落ちそうになる。

 

ガタガタっと大きな音ををたててしまい、隣のベッドの患者が咳払いをした。

 

「驚き過ぎです。

私たちは恋人同士なんでしょ?」

 

唇を尖らせた民が、チャンミンの方へずいっと顔を寄せた。

 

「んーー」

 

「待って、民ちゃん。

ここは病院だよ。

そういうことは控えた方がいいよ」

 

(これは以前、僕が勘違いしてしまった『キスできますか?』じゃない。

正真正銘の『キスして下さい』だ!)

 

「んー」

 

チャンミンを無視して、民はもっと顔を近づけた。

 

(ふふふ。

チャンミンさんはどうするかな?)

 

チャンミンの至近距離に、目をつむった民の白い顔が。

 

まつ毛が長いな、などと冷静に観察してしまうチャンミンだ。

 

(目を閉じるとよく分かる。

民ちゃんって...本当に綺麗な顔をしてる..)

 

「まだですか?」

 

(ど、どうしたらいいんだ。

民ちゃんはすっかりその気になってる。

僕が衝動的についた嘘が、現実のことになってきてしまった。

 

...ええい!)

 

チャンミンは民の両肩を引き寄せる。

 

(ひー!

チャンミンさん、『病室でそういうことは止めようね』を貫いてくださいよ!

ダメだって、拒否してくださいよ!

 

ホントのホントに、キスしちゃうんですか?

どうしてこんな流れになっちゃったの?

 

あ。

私のせいだ。

私がふざけたことを言っちゃったから...。

どうしよう、苦しい...胸が苦しい...)

 

チャンミンは民の唇目指して、顔を傾けた。

 

 

 

「そろそろ消灯時間ですよ!」

 

「!!」

「!!」

 

カーテンが勢いよく開いて、看護師が咎めるように二人に言い放つ。

 

二つの同じ顔に振り向かれて、看護師はぎょっとした顔をした。

 

そして、『双子同士の恋...禁断の恋だわ...』と思ったのであった。

 

チャンミンが慌てて立ち上がった勢いで、折りたたみ椅子が床にバタンと倒れた。

 

「静かにしてください!」

 

「すみません!

今すぐ帰りますから」

 

(助かった...)

 

チャンミンは倒れた折りたたみ椅子を壁に立てかけ、シャツの胸元をつかんで仰いだ。

 

(暑い。

興奮と緊張と動揺で、全身が燃えそうに暑い)

 

「明日、また来るね」

 

チャンミンが帰ると聞いて、民は心細い気持ちになる。

 

「明日...多分、退院だと思います」

 

「それはよかった。

...でも、帰りは?

Tが迎えに来るのか?」

 

「お兄ちゃんは仕事があるので。

一人で大丈夫です。

一人で帰れます」

 

「怪我をしたばかりなのに、それは駄目だよ」

 

「大した事ないです」

 

「うーん...。

よし!

僕が迎えに行くから」

 

「でも...チャンミンさんもお仕事でしょう?」

 

「大丈夫。

ちょうどひと段落ついた時だから。

有休もたまってるし。

迎えに行くから、安心して」

 

「いいんですか...?」

 

「うん。

だから、僕に任せて」

 

「あ!」

 

「どうした?」

 

「お洋服が...ないかも...です。

靴もありません」

 

流血でTシャツは汚れている。

 

スニーカーも現場で落としてきたのか、片方が行方不明だった。

 

「適当に見繕って持ってくるよ。

ほら。

民ちゃんは僕と住んでるんだよ」

 

「そうでした...ね、そう言えば」

 

「なんでもいいよね?」

 

「服は何でもいいです。

クローゼットの引き出しの一番上にあります」

 

「了解。

 

 

...ん?」

 

カーテンの向こうへ歩を進めかけたチャンミンの脚が止まった。

 

 

(引き出しの一番上?)

 

(しまったー!!!)

 

 

チャンミンは振り返る。

 

民は両手で口を覆っている。

 

「!!」

「!!!」

 

ふっと枕元灯が消え、足元の常夜灯だけになった。

 

互いの表情が見えなくなる。

 

「消灯時間ですよ」

 

先ほどの看護師がまた顔を出し、チャンミンの背後に回って退室させようとした。

 

「すみません」

 

チャンミンはぺこぺこと頭を下げる合間に、民の方を何度も振り返った。

 

(民ちゃん!)

(チャンミンさん!)

 

(恥ずかしー!!

僕らは今まで、何をやってたんだ?)

 

(恥ずかしー!

チャンミンさんの顔をもう見られない)

 

 

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